アジアクラブの頂点を決める大会であるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)。今季もJクラブからは4チームが参加しているが、国内からの注目度が決して高くはない。それは一体なぜだろうか。欧州CLとの比較でその理由が明らかになった。(文:小澤祐作)
ACLの重要度は?
昨季、浦和レッズの優勝で幕を閉じたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)。今季も日本からは川崎フロンターレ、鹿島アントラーズ、セレッソ大阪、柏レイソルの4クラブが同大会に参加している。しかし、決勝トーナメントに残ったのは鹿島だけであり、一部のファンからは落胆する声も挙がっている。
だが、同大会に日本国内からの感心があるかと言えばそうでもない。大会に出場しているクラブも、ACLをどれほど重要視しているのだろうか。
C大阪はグループステージを主力選手11人休ませるいわゆる“控え組”で戦うこともあった。その結果、決勝トーナメントに進むことはできなかったが、チームを率いるユン・ジョンファン監督がリーグ戦を重視しているのは紛れもない事実である。強い言い方をすればACLを軽視していると捉えられてもおかしくはない。実際、海外メディアからは批判的な意見もあがっている。
だが、リーグ戦の連戦が続く中、ACLも戦うということになると、体力的には相当負荷がかかる。事実、C大阪は2014年にも同大会に参加しているが、この年はリーグ戦の成績が振るわずJ2へ降格している。そのことも頭の中をよぎったのではないか。
そう考えれば、リーグ戦に集中するという判断が間違っていたとは言い切れない。昨年ACL優勝を果たした浦和レッズでさえも、その年のリーグ戦は7位と振るわなかった。
ACLがリーグ戦に影響を与えているのは間違いない。少なくとも選手のコンディションには大きく関係しているだろう。そして、Jクラブはアジアの頂点を決める大会よりリーグ戦を優先してしまうのである。ACLとはその程度の大会になってしまっているのだ。
価値の高い大会、CL
一方、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)はどうだろうか。
言わずと知れた欧州最高峰の舞台を、控え組中心で挑むチームなど存在していただろうか。もちろん、メンバーを入れ替えながら挑むケースはある。しかし、主力11人全員を変更して試合に臨むクラブは、CLの舞台においてはあまり見たことがない。
イタリアの名門・ACミランはシーズン開幕前、CL出場を1つの目標に掲げていた。クラブにとってリーグ優勝の次に大事なのがこの欧州最高峰の舞台へ出場すること。CLとはそれほど価値の高い大会になっている。
ウクライナ・キエフに立地するオリンピスキ・スタジアムで行われる今季のCL決勝のチケットはVIP席で何と3200万ユーロ(約42万円)と破格の値段となっている。いくらVIP席とはいえ、この値段は日本では考えられない。こういった部分でもCLがいかに価値の高い大会なのかがわかるだろう。ちなみにACL決勝戦第2戦のチケットは一番高いもので9000円だった。
そして、欧州の移籍市場においてもCLは1つの重要な要素となっている。例えば、現在マンチェスター・ユナイテッドに所属しているアレクシス・サンチェスは移籍先の候補として「CLに出場できるクラブ」を挙げている。それまで所属していたアーセナルは昨季5位に終わり、CL出場を逃していたため、欧州最高峰の舞台への挑戦権を得ていたマンチェスター・Uへ移籍を決めたのだった。選手が新天地を選ぶ基準、CLは欧州の移籍市場に影響を及ぼす力を持っているのだ。
クラブや選手、そして一般のファンからしてもCLは非常に価値が高く、そして重要な大会という認識なのだ。ACLとはレベルの違いだけでなく、こうした部分でも圧倒的な差が生まれている。もちろん大会の歴史、欧州とアジアのサッカー認知度の違いは多少あるとはいえ、クラブの大陸王者を決める大会であるということには変わりはないのだ。
欧州とアジアでは主要大会にも大きな差があることを忘れてはならない。
テレビ放送、金銭面でも明確な差
この両大会の差を明確にしているものは決してそれだけではない。テレビ放送、いわゆる視聴環境や大会賞金にも圧倒的な違いが生まれている。
CLの視聴者は世界で約1億人を超えているとも言われている。昨年の決勝カードであるレアル・マドリー対ユベントスの試合はイタリア国内だけでも視聴率が58%を記録するなど、その注目の高さは計り知れない。
さらに日本ではグループステージから決勝戦まで主に「スカパー」などで視聴することが可能であり、ファイナルは地上波でも放送されるなど非常に注目度は高い。来季からは「DAZN」が同大会とヨーロッパリーグ(EL)の放映権を獲得しているため、より多くのサッカーファンが熱い戦いを観戦することができる。
一方のACLは日本テレビが放映権を取得している。しかしその大半は「日テレジータス」や「日テレNEWS24」で行ってきており、準決勝については「BS日テレ」で放送している。昨季は浦和が決勝戦に残り大きな注目を集めたものの、地上波での放送は録画。生中継はBSとCSのいわゆる衛星放送のみとなっている。
「日テレジータス」はスポーツ専門チャンネルではあるものの、主に読売ジャイアンツの試合を中継するなど野球に重きを置いている。「日テレ NEWS24」はその名称の通り、主にニュースを放送しているチャンネルだ。
つまり、ACLを放送するこの2つのチャンネルは決してサッカーファン向けのものではないということ。そのため、サッカーを観たいという人がほとんど契約することのないチャンネルでACLを放送しているということになる。
ここからは両者の大会賞金を比較してみる。
ACLオフィシャルによれば、パフォーマンスボーナスは勝利で5万ドル(約550万円)、引き分けで1万ドル(約110万円)である。参加賞はベスト16入りで8万ドル(約880万円)、ベスト8まで進めば12万ドル(約1320万円)、ベスト4入りで20万ドル(約2200万円)の賞金が渡される。そして準優勝を果たせば200万ドル(約2億2600万円)、優勝すれば400万ドル(約4億5000万円)が得られることになっている。
ここでCLの大会賞金をみてみよう。
CLではグループステージに参加、つまり本大会に出場するだけでなんと1200万ユーロ(約15億円)もの大金がクラブに入る。これはACL優勝賞金の倍以上の金額だ。さらに勝利ボーナスで150万ユーロ(約1億5000万円)、引き分けで50万ユーロ(約6500万円)という額である。
差は開くばかり。アジア勢は危機感をもたなければ…
ここからは決勝トーナメントに進出した場合の賞金をみてみる。ベスト16→550万ユーロ(約7億円)、ベスト8→600万ユーロ(約7億7000万円)、ベスト4→700万ユーロ(約9億)、準優勝→1050万ユーロ(約14億)、優勝→1500万ユーロ(約19億)となっている。
現在準決勝を戦っているレアル・マドリーの総金額を計算すると、ここまでで3700万ユーロ(約48億円)までに上っている。仮にこのまま優勝するということになれば、5200万ユーロ(約67億円)もの大金を1大会で得ることができるのだ。
視聴環境や大会賞金にもこれだけの違いが生まれているという事実があるのだ。これだけでもいかにACLの注目度が低く、またCLの重要度が高いかがわかるだろう。
もちろん、お金のためだけに戦うのではない。クラブワールドカップ出場を目的としているクラブも存在するはずだ。
毎年12月に行われ、日本でも開催されていた同大会。日本でビッグクラブを見ることができるため国内からの感心も高い。Jクラブにとっては、欧州や南米の強豪クラブと対戦できる唯一の機会といっても過言ではなく、同大会に出場する意欲はどのチームも高いだろう。
しかしFIFA(国際サッカー連盟)が発表した今後の方針として、クラブW杯は4年に1度の開催となることが決定した。
クラブW杯は、選手のモチベーションを上げるためにも重要な大会だった。2016年に鹿島がレアル・マドリーと決勝で対戦した際には、大きな注目を集めた。最終的には敗れたが、世界との差、そういったものを実感するには良い機会であったことは間違いない。
しかし今後は4年に1度の開催。世界との差を肌で感じる機会はさらに少なくなってしまう。アジアの国々が世界から後れを取り戻す日は来るのだろうか。
(文:小澤祐作)
【了】
ACLとCLの間にある格の違い。重要度&注目度は天と地の差、主要大会でも後れを取るアジアの実態