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「責任感」と「使命感」。
鹿島アントラーズの21歳、CB町田浩樹の口からは、このフレーズが何度も何度も出てきた。
J1リーグ第2節・川崎フロンターレ戦。町田は4バックの左CBとしてフル出場した。
覇権奪還を狙う鹿島にとって、2連覇中の川崎は意識する相手であり、なおかつ開幕戦で昇格した大分トリニータ相手に1-2という敗戦を喫しただけに、今後を占う意味でも非常に重要な一戦だった。
「CBの2枚が真ん中でどっしり構えようというのは犬飼(智也)さんとも話していた。ボールに早く食いつき過ぎてしまうと、フロンターレはパスと飛び出しが上手い選手が揃っている分、持ち味を出してしまう。だから真ん中から外に外に追いやることを考えていました」
強烈なアタッカー陣を抱える川崎に対し、町田と犬飼はサイドに引っ張られることを警戒し、サイドバックやボランチとマークを受け渡ししながら、中央でブロックを形成した。
それでも中央に潜り込んできた川崎に対して開始早々の9分に絶好の位置でFKを与えてしまい、MF中村憲剛に直接叩き込まれ、先制を許した。
「FKを与えてしまったことは痛かった。でも、流れからの失点ではないことをポジティブに考えて、もうこれ以上失点をしないようにと意識を切り替えられた」
内田の支えを受けて川崎封じ。
前節の流れもあって浮き足立ってしまう危険性もあったが、町田は自分自身を見失わなかった。焦って食いつくのではなく、コーチングで周りを動かしながら強固なブロックを作り出す。すると鹿島は21分に右サイドバックの内田篤人のロングフィードからFW伊藤翔が鮮やかなトラップで抜け出し、同点ゴールを流し込んだ。
「前節は追いついた後に前がかりになって後ろが空いてしまったので、その反省を生かそうと思っていました。篤人さんが要所で試合の運び方で声をかけてくれて、心強かったです。篤人さんがバランスを意識して守備をしてくれたので、すごく助かりました。1-1になったからこそ、ここからしっかり締めようという話をしました」
キャプテンで精神的支柱になっている内田の支えを受けながら、町田は川崎の攻撃を封じ込んだのだ。
セットプレーでも惜しいシーン。
攻撃でも存在感を示した。27分、MF永木亮太の左FKから、町田がゴール前に絶妙なタイミングで飛び込む。190cmの高さを活かしたヘッドがネットを揺らしたが、キックの際にMF土居聖真がオフサイドポジションにいたことで、ノーゴールの判定となった。
町田は後半も高い集中力を維持し、73分にビッグプレーを見せる。センターライン付近中央で中村がボールを受けた瞬間のことだ。町田の視野にはパスを受けに行く大島僚太と、次のパスを受ける準備に入った小林悠の2人が入った。
大島が縦パスを受けた瞬間、小林がスペースに抜け出そうとする。この動きを見逃さなかった町田は、大島からのスルーパスに対し、鋭く身をひるがしてダッシュ。小林との競争に勝って、スライディングでボールを左タッチライン外へ掻き出した。
試合は両者譲らず、1-1のドロー決着。今季リーグ戦初勝利こそ掴めなかったが、鹿島は価値ある勝ち点1を得た。
秋田さん、岩政さんだったら。
それでも試合後、町田は悔しさを滲ませた。
「こういう苦しい試合で勝ち切れる力をもっと身につけていかないといけない。それにこういう試合こそ、鹿島のCBたるもの、セットプレーで得点源にならないといけないから、そこは悔しいです。(試合に訪れていた)秋田豊さんだったり、岩政(大樹)さんだったり、鹿島のCBはこういう試合で点を取っていましたから」
FKからの失点以外は抑え、得点にこそならなかったが強烈なヘッドを見せた。及第点以上の評価できる内容だったが、彼はそれを是としなかった。
「自分の使命感、責任感が強くなっていて、『やらなきゃいけない』と自分自身に言い聞かせています。今は(チョン・)スンヒョンが怪我をして“代理”という形で僕が試合に出ています。それでも勝ち続けるのが大事だし、DFなので、無失点を続けることが大事なんです」
昨年までと明らかにメンタリティーが変わってきた。もちろん町田もプロ4年目で、頭角を現さないといけない年代でもある。だからこそ意識の変化は当然だが、彼の素顔を知る1人としては、彼の将来を大きく広げるのでは、と感じる。
常勝軍団の中で優しすぎる。
彼の性格は一言で言うと、優しい。190cmの高さを持つ左利きのCB。そんな希少価値を持ちながらも、その優しすぎる性格からか闘争心をむき出しにして戦うプレーは多くなかった。それは「常勝・鹿島」にふさわしい姿ではなかった。
ただ彼には底知れぬポテンシャルがある。身体能力はもちろんスピード、頭の回転も早い。そしてサッカーに打ち込んで、人の話を聞ける真摯さを持ち合わせている。
だからこそ、彼は一皮剥ける必要があった。それがまさに今季なのだ。
「今年は個人的に責任があるシーズンだと思っています。昨季から(昌子)源さんと(西)大伍さん、(小笠原)満男さんが抜けて、僕の責任も増しました。この試合だけではなく、1年を通しての責任感を持っているんです。『自分がやらないといけない状況』になりましたし、それはクラブからのメッセージだと思うので、しっかりと受け止めてプレーしたいと思っています。だからこそ、こうやって“代理”で試合に出ても勝ち切らないと最高のアピールにはならないんです」
昌子、西、小笠原が去って。
ロシアW杯後に植田直通がベルギーのセルクル・ブルージュに、このオフには昌子がフランスのトゥールーズに、西がヴィッセル神戸に移籍した。そしてチームのレジェンドであり、シンボルでもあった小笠原が現役引退した。
これまでの鹿島の根幹を担ってきた選手がごっそりと抜け、チームは新たな局面を迎えている。彼にとっても教えを請うた選手が一気にいなくなり、甘えが一切許されなくなった環境となった。
「アントラーズの選手は言葉で伝えるより、姿勢で伝える選手が多いと思うんです。そこから学ぶものをたくさん学んできました。僕は植田くんと源さんを3年間、そして満男さんは小学生の頃から見てきました。植田くんと満男さんは背中で語るタイプで、源さんは試合後に細かい部分まで指摘してくれた。スピリットは引き続いでいるつもりです」
小笠原から「もっと喋れ」。
彼らをはじめとした鹿島関係者が町田に対して指摘し続けているのは、前述した「優しすぎる」性格である。
「強化部の方、大岩(剛)監督、(中田)浩二さん、満男さん、源さんにも言われていた。監督からは『CBはどっしり構えろ。それはプレーもそうだし、態度、雰囲気もそう。これからどんどん出していけ』と、満男さんからは『もっと喋れ』、『ラインの統率だったり、ボランチのポジショニングはもっと細かく言い続けろ。お前がもっとやりたいように周りを動かせ』と言われていました。源さんには『相手がうるせえよ、と言うまで声を出せ』と言われていました。
その言葉は今、僕の中で大きなものになっています。使命感と責任感は自然と大きくなりましたし、『やらなければいけない』という意識が出ると、自然と声が出るようになってきました。もっと自信を持って出していこうと思っています。そうしないと本物の信頼を掴めませんから」
源さん、植田くんの姿を見て。
今はポジションを奪ったわけではなく、与えられているに過ぎない。鹿島のCBたるもの、気を抜いたプレーは一切許されない。すべてを理解している町田の脳裏には、数年前に世代交代で苦しんでいた昌子と植田の姿が焼きついている。
「僕はちょうどユースの選手として、鹿島の試合を見ていました。少し低迷していた時期でもあったので、『もっと勝たないといけないのにな』とファン目線で見ていた。
あの2人は今でこそ日本代表ですが、あの頃の源さんと植田くんのコンビは、岩政さんや大岩監督の時から試合を見てきた僕から見ても、まだ見劣りしているのかなと思うことはありました。でも、そこから物凄く成長した姿も見ています。それが本当に良いお手本になっています」
外野として見ていた風景の中で、いまでは町田自身が当事者になっている。
「源さんと植田くんは、試合を重ねるごとに良くなった。代表にも選ばれて、W杯を経験して、海外に羽ばたいた。その姿を見たから自分がそうなったとき、『自分にもできる』という自信、そして『やらないといけない』という使命感と責任感が強くなっています。その変遷を直接見られたことは大きな財産だと思いますし、幸運です」
アントラーズスピリット、アントラーズCBとしてのスピリットは着実に21歳の男に継承されている。それは断言できる。
脳裏に焼き付いたあるシーン。
前述した小林の飛び出しをクリアしたシーンで、それが実証されていた。
町田本人がこう話したのが印象的だった。
「実は試合前に、たまたま2016年のチャンピオンシップの浦和vs.鹿島の映像を見ていたんです。アウェイの埼玉スタジアムで、(遠藤)康さんがボールを奪われてカウンターを受けた際に、きっちり予測していた源さんがスライディングで防いでいるシーンがあって、それが脳裏に焼き付いていました。
ちょうどあの時、重なりました。僕は昔のアントラーズの映像をよく見るんです。見ているのはモチベーションアップというか、単純に好きなんです(笑)。特に3連覇した時のアントラーズとか、結構見ています。選手目線とファン目線でいつも見ているのですが、今日は選手目線でハマりました(笑)。たまたまですが、それがアントラーズという財産だと思います」
◆鹿島の遺伝子が染み付いた21歳。 町田浩樹が追う昌子・植田の背中。(Number)