高校ナンバーワンを決める最後の勝負は「球際1.5メートル」の局地戦に注目だ。
第98回全国高校サッカー選手権大会は、13日に埼玉スタジアム2002で決勝戦が行われる。青森山田(青森)が勝てば2年連続3回目、静岡学園(静岡)が勝てば1995年度の両校優勝以来、25年ぶり2度目の優勝となる。ともに来季のJクラブ加入選手を擁する実力校。青森山田は、激戦区を4試合15得点4失点で突破。静岡学園は、5試合で16得点無失点と文句なしの数字で勝ち上がっており、見応えのある試合展開が期待される。
合言葉は「ゴールを隠せ」
連覇を目指す青森山田は、“全国二冠”を狙うことになる。通年で行われるリーグ戦では、高校年代最高峰の高円宮杯JFAU-18プレミアリーグEASTを優勝。WESTを優勝した名古屋グランパスU-18とのチャンピオンシップも制した。主力は、MF武田英寿(3年、浦和内定)とMF古宿理久(3年、横浜FC内定)だが、中盤でトライアングルを組むMF松木玖生(1年)も、チーム最多で得点ランク2位の4得点を挙げ、遜色ない活躍を見せている。守備では徹底的に中央を締め、ボールを奪えばサイドから攻撃を仕掛け、クロスから点を取る。武田や古宿が相手のプレッシャーをかわしながら、サイドへ散らすことができればチャンスにつながる。古宿は「守備から入って、セットプレーなど自分たちの強みを出していきたい。決勝戦は、ボールを持てたらゲームメークやサイドチェンジを出したい。サイドを攻略されるときついところもあるので、全員で守備から頑張りたい」と話した。
守備は、「ゴールを隠せ」が合言葉。とにかく中央の守備は堅い。そして、対戦相手が口ぐちに言う特徴が「球際の強さ」だ。足首まで雪に埋もれて思うように動けない中で行う「雪中サッカー」と呼ばれる対人練習で鍛えられた強さがある。守備網に入り込む相手に対しては、徹底的にプレッシャーをかける。攻撃力自慢の静岡学園との決戦を前に、MF浦川流輝亜は「守備ではボールを持った相手の“1.5メートル以内”に入り、ゴールを隠すというのは決め事」と言い切った。
一方の静岡学園は、悲願の単独優勝を目指す。95年度は鹿児島実業(鹿児島)との両校V。2000年度からPK戦が導入され、最後の両校優勝校となっている。今大会は、MF松村優太(3年、鹿島内定)、MF小山尚紀(3年)が両サイドから高速ドリブルを仕掛ける場面が目立つ。青森山田と異なるのは、小山が「僕らは高さがないので、外回しの攻撃だと、クロスを上げても得点が難しい。個人技を大事にしているチームなので、ショートパスで中を崩していけるのが理想」と話すように、ハイサイドやエンドライン際からドリブル、ショートパスで最後は中へ突き進んで来るところだ。外から中へのドリブルは、ゴールを守るかパスコースを塞ぐかを明確にしなければならず、守りにくくなる。ドリブルは、静岡学園の伝統であり、アイデンティティー。川口修監督は「相手は、隙のない絶対王者。我々のストロングポイントを120、130%出さないと勝てないと思っている。失点は覚悟の上で、リスクを犯しても点を取りに行かないといけない」と攻撃的な姿勢を貫く意思を示した。
静岡学園が守備網を切り裂けば…
静岡学園の攻撃が、青森山田の守備を突破できるかどうかは、この試合の最大の見どころだ。特に静岡学園が相手守備網に入り込む際、青森山田がボールホルダーの半径1.5メートルへプレスをかけにいくときには、静岡学園が誇る個人技との勝負になる。青森山田の守備が勝てば、サイドからのカウンターアタックが増える。あるいは、武田や古宿を経由してじっくりと押し返すことも可能だ。青森山田の左のアタッカーである浦川は「静岡学園は、サイドに良い選手がいる。我慢比べになると思う。体力はある方だし、守備をしてから前に出ることは常に言われている。カウンターでどれだけ精度を高めて点を取れるか。僕は、一昨年の大会で兄(流樺)が負けて『次、お前が取ってくれよ』と言われたので、その思いも背負って優勝したい」と相手の高速アタックに押し込まれても、粘り強く一撃を狙う気持ちを示した。1年生MF松木が得点を奪えば、武田修宏氏以来36年ぶりとなる1年生得点王誕生の可能性もある。
反対に静岡学園が相手守備網を切り裂くようになれば、徹底的に押し込むことが可能になる。中盤でトップ下に入るMF浅倉廉(3年)は「ワンツーや細かいパスで崩したい」と最後の中央突破に意欲を見せた。チーム最多4得点で、得点ランク2位タイにつけている小山も「相手は球際が厳しく、フィジカルレベルも高く、しっかりした技術もある。ロングボールなどで押し込まれることがあるんじゃないかと思うけど、奪ったボールを大事にして、ドリブルとショートパスで崩していきたい。相手もサイドが武器ということで、ストロングポイントで負けたらあかん。1対1で負けないようにしたい」と鍵となるサイドの攻防で相手を上回る決意を明かした。今年のチームは、エースの松村がサイドバックの位置まで下がって守備をすることも珍しくなく、ロングボール攻勢を受けてもサイドから押し戻すだけの力があり、対抗できるだろう。
「1.5メートルのプレス」と「伝統の個人技」の激突が期待できるエキサイティングなカードと言える。もちろん、守備側はスライドやカバーリング、攻撃側はフォローや相手をつり出すランニングとの兼ね合いが重要だ。また、時として思わぬ形で勝敗を左右するゴールが生まれることもあるのが、勝負事。青森山田が遅攻に出てボールを保持する場合は、静岡学園のカウンター、そして青森山田のセットプレーが鍵を握る。青森山田には、右DF内田陽介(2年)が放つロングスローという飛び道具もある。それぞれの特徴がどのように発揮され、どんな結末を迎えるのか。高校サッカー頂上決戦に注目だ。
取材・文=平野貴也
◆“二冠&連覇”か? “王国復活”か?…カギは「球際1.5メートル」の局地戦【選手権決勝/青森山田vs静岡学園】(サッカーキング)