「年齢的な部分が大きい。正直、もう残るという選択肢はまったくなくて。ここはどんな状態でも勝負しに行かなくちゃいけない」
それ以前にも複数のオファーが欧州から届いていたなかで、2019年の夏、7カ月にも及ぶリハビリ中だった鈴木優磨はそう宣言して、鹿島アントラーズからベルギーのシント・トロイデンへ移籍した。
そして、2シーズンが終わり、鈴木は今、シント・トロイデンからの移籍が決定的だ。今季は34試合に出場し17得点をマーク。1部残留に貢献している。その活躍に数十のクラブから関心が寄せられているという報道もある。鹿島を出立したときの言葉を体現するようなステップアップが実現しそうだ。
25歳のストライカーは、ベルギーで過ごした2シーズンで何を思ったのか? シーズンが終わりに差し掛かった某日、ベルギーとオンラインを繋ぎ、本人に話を聞いた(全2回の1回目/#2に続く)。
◆◆◆
――ベルギーでの2シーズンが終わろうとしています。今季は17得点をマークしました。昨季との違いを教えてください。
「ベルギーへ来る前は、環境にもすぐに馴染めるだろうと思ってたんですけど、実際は違いましたね。想像していたこととのギャップも多かった。俺自身もほぼ1年間リハビリをしていて公式戦から離れていたというのも大きかったと思います。
あとはベルギーのサッカーに慣れるのも大変だった。なんかこう、今まで自分のストロングポイントだと考えていたところが、なかなか通用しないなというのを感じて……。これは色々と変えていかないといけないなと、1年目のシーズンが終わって深く考えましたね」
「手放す」のではなく「どう通用させるか?」
――日本で培ったストロングポイントが通用しなかった?
「ペナルティエリア内での動きというのが自分の良さだと思っていたけど、なかなか上手くいかなかった。でもその動きこそがストライカーにとっての勝負の醍醐味なんです。だから手放すのではなくて、どうやって通用させるかを考えました。
それ以外でも、日本ではDFに直接身体を当てられても負けなかったのに、ベルギーには俺よりも強くていい選手は山ほどいるんで、飛ばされることが増えました。だから、いかに相手(DF)に触らないで、フリーでボールを受けられるかというのを考えるようになった。今のピーター・マース監督からも就任当初(2020年12月)は、スペースを見つけて動くことを強く要求されました」
「基本的には、パスを出したらもう返ってこないですね」
――鈴木選手は、鹿島時代に「徳を積むような汗をかくプレーがゴールにつながる」という話をされていました。欧州では必ずしもそういう選手ばかりではない印象があります。実際にベルギーではどうでしたか?
「基本的には、パスを出したらもう返ってこないですね。みんな点を獲りたいという気持ちが強いから。特にベルギーリーグは、選手の入れ替わりが激しくて、いいプレーをしたらすぐに良いクラブへ行ける“チャンス”に溢れている。ましてやシント・トロイデンのようなチームには、有望で野心家の若手が揃っているので、『ゴールを獲りたい』『ステップアップしたい』という想いがとても強いんです。
それは選手であれば当たり前だし、同時に僕はチームの勝利に貢献したいという気持ちもあるから……。なので最初は『チームと自分とのバランス』っていうのがすごく難しかったですね」
――そういうなか、自分の存在価値を示していくうえで、どんなことを意識していましたか?
「とりあえず、基礎となるプレーを意識していました。周囲からも『こぼれ球に詰めろ』という声もあったので。極端にいえば、ラッキーなところを狙うしかない。いつこぼれて来るかもわからないけど、狙い続ける。そういう意識はしていました」
――その一方で、チームのためのプレーは……?
「なかなか評価されづらいけどやらないわけにはいかないので、もうやり続けました。そうしていたら、冬に加入してきたベテラン選手2人がそこをすごく評価してくれたんです」
――ストライカーのジレンマですよね。得点がもっとも高い評価を得られるけれど、それ以外のプレーはなかなか評価を得づらい。
「スタメンで出ている選手には最低2桁のゴールが求められる。得点とかアシストとか目に見える結果以外、基本的には認められないですよね。でもやっぱり、汗をかくプレー、ハードワークすることも大事なんです。こっちは得点だけを求める選手が多いから、ハードワークできる選手はなお受けがいいんです」
ベルギーでは「本能のままにサッカーをしている感じ」
――そもそもベルギーのサッカーは、日本とはどう違いますか?
「とにかく縦に速いですね。日本みたいに、5本も6本も7本もパスを繋がない。2本でゴールに行けるなら、2本で行きます。それでたとえ失敗しようと、ラストパスの確率が10%だろうと。たとえば横パスを出せばその確率が100%になったとしても、10%を狙います、確実に」
――なによりもまず、ゴールへ向かおうとする。
「パスが1本通ったらゴールだよって考えるリーグです。だから展開もすごく速い。ある意味、試合は『行ったり来たり』なんですね。チームの戦術がないというわけではないけど、選手の個に頼っているチームが多いので、ときどき化け物みたいな選手がいます」
――ある意味、原始的なサッカーなのかもしれません。
「そうですね、本能のままにサッカーをしている感じ。自分を表現する場所という感じがします。
鹿島のときは戦術的なところで、FWは裏を獲ったり、流れる動きが求められていました。そのおかげでキープ力がついたり、いい面もたくさんあった。だけど、今のほうが本当にやりたいFW像に近いかな。俺はどっちかっていうとペナルティエリアで勝負したいFWなので。ペナルティボックスの幅で動くというところに特化できるようになったのは、ベルギーに来てすごく大きく変わった点だと思います」
――欧州の絶対的ストライカーというイメージです。
「やっぱり、日本人はFWにいろんなことを求めすぎているんだなっていうのを、ベルギーに来てすごく感じるようになりました。あと、日本は『キープができる』とか、そういうところに良さを感じすぎている。収まるとかもそうですね。
でも、極端なことをいえば、こっちのFWでボールを収められない選手はいっぱいいます。でも点を獲れるから評価される。だから、FWの評価基準も日本とヨーロッパとではまったく違うなと感じます。得点に直結するプレーが大事なんだと、改めて気づかされたというか」
――ただ日本代表が世界と戦うためには、いろんなプレーをしなくちゃいけない部分もあります。
「確かに世界を相手にするうえでは、個人能力じゃ絶対に勝てない。だから、日本代表のFWにいろいろ求められることは理解できます。でも(元日本代表の)ハリルホジッチ監督が求めていた1トップのFWは、欧州のストライカー像でしたよね」
鹿島時代から「勝たないと納得できないんです」
――海外には我の強いストライカーも多いですが、鈴木選手は見た目ほど破天荒じゃないでしょう? 4月の試合でPKのキッカーを相棒のイロンベ・エンボヨ選手に譲ったことは、現地でも「心優しい」と報道されていましたし。
「自分のパートナーが(ゴールから遠ざかり)苦しんでいたら、普通に譲りません? 実質的にそれをきっかけに、残留へ向けて良い流れになったし、俺はいいと思うんですよ。それがチームのためにちゃんと働いたから。
謙虚じゃなきゃいけないところは、謙虚ではあるべきだと思うけど、自分が譲れないと思うところは、譲らなくてもいい。日本では、日本人っぽくあるべきだと思ってたけど、こっちに来て、欧州でストライカーとして生き残るためには、強くなきゃいけないところは、強くならないといけないって思うんです。でも、同時に、俺は自分のステップアップのためだけにサッカーをするのは、無理だなってどっかで思っていて」
――まさに「チームのために」汗をかくプレーですね。
「だって、やっぱりチームが勝たないとダメだから。鹿島にいたせいかもしれないけど、勝たないと納得できないんです。自分が点を獲っても勝たないと全然納得できないから。自分だけが点を獲っても全然嬉しくない。チームを勝たせるゴールを獲らないとダメなんです」
観戦も大好き・鈴木優磨が語る“5大リーグの違い”
――ところで、日本でも欧州サッカーをよく観ていた鈴木選手ですが、リアルタイムで観戦できるのは嬉しいんじゃないですか?
「今は時差がないし、めちゃくちゃ観てますよ! 1週間に3、4試合は軽く観ているかな。欧州チャンピオンズリーグがある週は楽しいですね。日本だと朝4時とかに起きなくちゃいけないけど、今は普通に夜見られるので。欧州の各リーグを見ていると、本当にリーグによって、スポーツが違っちゃうくらいにサッカーが変わるなって思いますね」
――そんなに変わりますか?
「全然違いますね。そもそも日本とベルギーでもこんなに違うのかっていうくらいに違うし。だとしたら、5大リーグはどれだけ違うんだろうと思います。しかも5大リーグもそれぞれが全く違うから。最近は、そのリーグの特徴をいかに早く掴むかが活躍するための重要な鍵なのかもしれない、と思っています」
――今、最も注目しているリーグはどこでしょう?
「ストライカーとしてはイタリアへ行ってみたいんですよね。ドイツよりハードワークは求められないかもしれないけど、ボールを奪われると、素早く自分のポジションにリトリートする。前からボールを獲りに行くというよりも、相手が入ってきたところから守備が始まるイメージです。だから守備が硬くて、頭のいいFWが多いので、すごく学べることが多そうじゃないですか?
あとフランスも面白いですよ。いま、フランスのサイドハーフで活躍する選手って、どこへ行ってもやれるって言われているんですよ。プレミアでフランス人のサイドハーフを獲るのが流行っていて。技術の高さがハンパない(笑)。だから、フランスで長くやっている酒井宏樹さんは本当にすごいなって思って見ています。
ドイツももちろん見てますよ。インテンシティが高くて、技術も高いし、すごくハードワークが求められるリーグですね。でもなぜかスペインにはあまり魅力を感じないんですよね。行きたいと思ったことがない。たしかにGKからFWまで全員上手い。……なんだけど、試合もクラシコ以外はほとんど観ていないんですよね」
「俺、本当に好きなんですよ、サッカー」
――それは珍しいですね(笑)。でもやっぱり一番は、鹿島を出るときから目標に掲げていたプレミアリーグですか?
「やっぱり僕にとっては最高峰ですね。プレミアでプレーしたいという気持ちは今も変わりません。レベルの高い選手、戦術に長けた監督が揃っていて、そのなかでどれだけ自分ができるのかなってワクワクするんですよ」
――欧州に渡って2年目が終わります。サッカーに対する想いも変わっていませんか?
「サッカーへの愛情は変わらないです。日本にいるときからMAXなんで。俺、本当に好きなんですよ、サッカー。こんなに好きな人いるのかなぁって思うくらい、好きなんです」
◆鈴木優磨が悩んだ“ストライカーのジレンマ”「でも俺は自分のためだけにサッカーをするのは、無理だなって」(Number)