明治安田生命J1リーグ第10節、鹿島アントラーズ対ガンバ大阪が29日に行われ、4-0で鹿島が勝利した。一時4連敗と苦しんでいた鹿島だったが、2連勝と復調の兆しを見せている。選手たちは手応えと成長を実感しているようだが、鹿島はいかにしてどん底から這い上がることができたのだろうか。(取材・文:元川悦子)
4連敗のどん底から這い上がる鹿島アントラーズ
常勝軍団復活を目指しながら、鹿島アントラーズは3月18日の横浜F・マリノス戦から4月15日のヴィッセル神戸戦にかけてリーグ4連敗。神戸には大量5失点を食らうなど、先行きが不安視されていた。
「あの神戸戦の出来事は歴史に刻まれてずっとついて回ると思う」と岩政大樹監督も責任を痛感している様子だった。
それでも、4月23日の前節・アルビレックス新潟戦は2-0で6試合ぶりの勝利を収め、チームは好転のきっかけをつかみつつあった。
とはいえ、4月29日のガンバ大阪戦で結果が出なければ、再び停滞に陥る可能性もゼロではなかった。相手もダニエル・ポヤトス監督率いる新体制でリーグ1勝と苦境が続く。もがく両者のどちらが抜け出すのか。その行方が大いに注目された。
岩政監督は新潟戦から基本布陣を4-3-3から4-4-2に変更したが、今回もそれを継続し、全く同じスタメンを送り出した。4-3-3のガンバとはご存じの通り、中盤の構成が異なるが、ディエゴ・ピトゥカと樋口雄太の両ボランチがインサイドハーフの宇佐美貴史とダワンをマーク。アンカーのネタ・ラヴィをFWの鈴木優磨か垣田裕暉のいずれかが見るという形で守りを整理して挑んだ。
その狙い通り、鹿島は個々が役割を明確にしながらタスクをこなし、強固な守備ブロックを形成。ボール保持に固執する相手をガッチリと封じた。
「ゲームプランとしては、もう少し自分たちが相手陣地に入り込んで攻める展開を増やすイメージだった。ガンバがGK含めて外に6人いて、こちらが食いつくまでずっと外でボールを動かしていたので、なかなか奪いに行く場面を作り切れなかった」と岩政監督は少し物足りなさも覚えていた様子だったが、ピッチに立っている選手たちは「相手に回させておけば問題ない」と大きく構えていた。
「新潟戦もそうだったけど、『(ボールを)握らせている』という感覚でやっていたのでそんなに怖くなかった」と植田直通が言えば、樋口も「4-4-2になってから守備面で立ち返る場所ができた。それが一番大きかった」と前向きに語る。最も慣れたシステムになったことで、選手たちは自信を持ってプレーできるようになったのは確かだ。
もちろん前半45分間には、宇佐美にフィニッシュに持ち込まれた31分の得点機、ダワンのシュートがサイドネットを強襲した38分の決定機など、いくつかピンチもあった。が、鹿島には「前半0-0で行けば問題ない」という確固たる共通認識があった。全員が同じ方向を見て、同じ絵を描きながら戦えたことはやはり大きかった。
迎えた48分、鹿島は樋口の左CKから待望の先制点を挙げる。背番号14の蹴ったボールはターゲットの植田を越え、ファーで待ち構えていた仲間隼斗へ。左足を振り抜いて見事にゴールネットを揺らした。
「なかなかゲームが動かない試合はセットプレーが大事。そこで点を取れるのが鹿島だと僕は鳥栖にいた頃から思っていた」と樋口はしてやったりの表情を浮かべた。まさに伝統的な得点パターンが出たことで、チームが勢いづいたのは事実だろう。
そして64分には、鈴木優磨→ピトゥカ→名古新太郎とボールをつなぎ、右からの折り返しに鈴木が強引に飛び込んでヘッドでゴールネットを揺らした。見事な連係から2点目を奪うことに成功する。
こうなるとガンバはリスクを冒して攻めに出るしかなくなる。前がかりになって後ろが手薄になったところを鹿島攻撃陣は虎視眈々と狙っていく。それが結実したのが、土居聖真の連続弾。86分には途中出場の藤井智也からパスを受けて左足を一閃し、豪快にネットを揺らした。そしてその1分後には左から藤井、安西幸輝とつながり、ペナルティーアークから右足を振り抜いてゴールを決めた。
途中出場ながらわずか2分間で2点を奪うという離れ業をやってのけた背番号8は「こういうのは初めてかもしれない」と笑みをこぼしつつ、「悪い流れを我慢できるようになったところがチームとして成長している部分かなと思う」と安堵感をのぞかせた。
結局、試合は4-0で終了。鹿島はなかなか勝てなかったホームでリーグ初白星を挙げ、今季初の連勝。順位も9位まで上がり、希望が見えてきた印象だ。加えて言うと、川崎フロンターレ戦や横浜FM戦のように今季は試合終盤に失速する形が多かったが、今回は後半にギアを一気に上げて大量得点勝利を飾れた。その試合運びを見て、岩政監督も「こういう勝ち方ができれば勝ち星は自然とついてくる」と手ごたえを口にしていた。
神戸戦での大量5失点というどん底から這い上がれた要因を改めて考えてみると、4-4-2への回帰が1つあるだろう。鹿島は長年、この布陣で戦ってきたため、植田や鈴木、安西など在籍年数の多い面々はこちらの形の方がスムーズにプレーできるのではないか。佐野海舟が負傷離脱したこともシステム変更の契機になったが、ピトゥカと樋口も以前より攻守両面の仕事量が増え、落ち着いてプレーできるようになった。そこは前向きなポイントと言っていい。
健全な競争が生まれたこともポジティブな要素。神戸戦から関川郁万が先発入りし、新潟戦からは名古、仲間、垣田もスタメンに抜擢されている。「年齢や経験に関係なく調子のいい選手を使う」という方向性が沈滞したムードを払拭させている。
特に常勝軍団復活請負人として今季呼び戻された昌子を外したことは、チーム内外にインパクトが大きかった。
「源君はスタメンを外れても練習からチームを締める声掛けをしてくれたりしている。自分だけの世界に入らずに、しっかり周りを見て、気づいたことを言ってくれる。それでチームがよりまとまっている印象がある」と樋口も強調する。影響力の大きい人間がそういう立ち振る舞いをしていれば、自ずと「自分たちもやらないといけない」という意識は高まってくるはず。そのムードが大事なのだ。
「今、出ている選手はシーズン最初に出ていなかった人が大半。腐らずどんどん下からやってきたことで、スタメンで出ていた選手を追い越すことができたし、結果も残せている。出てない選手は出るために必死にやらなきゃいけないし、出ている選手はより必死にならなきゃいけない。そういうサイクルができつつある」と植田も神妙な面持ちで言う。
チーム内にバチバチした空気が漂い、全員が要求をぶつけ合うような厳しい集団になれれば、鹿島はもっと上に行けるだろう。前向きな可能性を感じさせた今回の大勝をどう先につなげていくのか。ここで歩みを止めている時間はない。
(取材・文:元川悦子)
◆いかにして鹿島アントラーズはどん底から脱したのか? 昌子源を外した影響と立ち返る場所【コラム】(フットボールチャンネル)