遺伝子 ~鹿島アントラーズ 絶対勝利の哲学~(16)
鈴木優磨 後編
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快勝した天皇杯2回戦の翌日から1週間のオフをとったチームは、6月14日から練習をスタートした。6月11日にはU-19日本代表ロシア遠征のメンバーに安部裕葵(ひろき)が選出される。背番号は10番。W杯日本代表戦を視察するほか、地元クラブとの親善試合、そして、A代表のトレーニングパートナーなど、新しい体験をすることになるだろう。
7月11日の天皇杯3回戦、町田ゼルビアとの一戦まで約1カ月のインターバルをいかに有効に使えるか? タイトル獲得のカギとなるかもしれない。
* * *
2016年シーズン。チャンピオンズシップ決勝戦第2戦、途中出場してPKを獲得し、リーグ優勝をもたらした鈴木優磨。続いて出場したFIFAクラブワールドカップでも、準決勝のアトレティコ・ナシオナル戦でゴールを決めると、レアル・マドリードのクリスティアーノ・ロナウドをまねたパフォーマンスで世界からの注目も集めた。そして、世界一を決める大会のファイナリストとなったが、一度は逆転してリードを奪うも、延長戦に入って本家ロナウドの2得点で突き放され、世界の壁を味わった。
2017-2018シーズン、UEFAチャンピオンズリーグで史上初の3連覇を飾ったレアル・マドリードも出場するクラブワールドカップへの出場権を賭けたACLも控えている。今季、チームの主軸へと躍進している鈴木の活躍にも期待が集まる。
――リーグデビュー戦でゴールを決めました。
「確かにそうですけど、そこまでの半年間は本当に苦しかったんです。デビュー戦のゴールだけにスポットライトが当たっているんですけど(笑)。
トップチームに昇格したものの、序列的には一番下だったんです。紅白戦でひとり余るときは、必ず僕が外に出ていたし。なかなか使ってもらえなかった。紅白戦ですらそういう状況だったので、公式戦なんてほとんど縁がなくて。ACLもある過密日程のなかでも、フィールドプレーヤーで僕だけがベンチ入りもできなかったから」
――プロの壁にぶち当たったということですね。
「でも、(トップチームの)試合に絡んでいなかったので、U-22選抜チームで、J3の試合に使ってもらえたんです(9試合3得点)。だから、J3のチームへレンタルで出て、そこで試合に出られるじゃないかと思ったりしていましたね」
――2015年夏に監督交代があり、石井正忠さんが監督に就任し、状況が変わりました。
「監督が代わるので、変化があるのかと期待したんですけど、練習2日目の紅白戦では、今まで通り外れていたので、何も変わらないのかって。でも、そのとき、途中出場して結構いいプレーができたんです。そうしたら、週末のリーグ戦でベンチ入りすることになったんです」
――そして、途中出場でのゴール。
「なんか、よくわからないですけど、試合に出たら点を取れるというイメージはずっと持っていたんです。根拠のない自信だけは、なぜかあったんですよ」
――そこからは先発やベンチなど、試合に出られる立場になりましたね。
「紅白戦のメンバーになったら、ベンチに入りたい。ベンチに入ったら、試合に出たい、先発で出たい……というふうにギラギラとしたやる気が満ち溢れてきて。段階を踏みながら欲が芽生えてきたんです。石井さんがいなかったら、今の僕はいなかったと思います」
――今、段階を踏んでと話しましたが、いきなり大きな夢や目標は抱かない人ですか?
「意外かもしれないですけど、そうですね」
――代表とか海外でのプレーとかを夢に掲げる10代の選手は少なくないと思いますが……。
「僕はそういうことを考えるタイプじゃないですね。目の前のこと、足元を見て、進んでいくというタイプですね」
――大きな目標から逆算するタイプではない?
「ないです。逆算はしない。先を考え過ぎたらいいプレーはできないですね。今、今、今というタイプですね。頭が悪いからか、逆算ができないんですよ(笑)」
――そんな鈴木選手にとって、クラブワールドカップはどんな時間でしたか?
「すごい楽しかったですね。あの1カ月間は僕の人生にとって、もっとも濃密な1カ月でした。対戦するチームはみんな大陸が違うので、対戦相手によってディフェンス(の仕方)も全然違うんですよ。それを体感できるだけで、ワクワク感がありました。どうやって攻略するかを考えることが楽しかったし、すぐに試合が来るし、本当に成長できたと思いますし、海外でプレーしたいなって思うようになりました」
――しかし、2017年シーズンは監督が代わったことも影響したのか、先発出場機会も減って、ほとんどがベンチスタート。不甲斐ないシーズンだったと思うのですが、それはクラブワールドカップでの経験が悪いほうに影響した部分があったのかと思うのですが。
「なんかちょっと、ギャップみたいなものがあったかもしれないです。調子に乗っているというんじゃなくて、燃え尽きたみたいなところがあったのかもしれません。
監督が大岩(剛)さんに代わり、先発起用されなくなって、本当に自分に腹が立った。今思えば、自分のコンディションも全然よくなかったんです。身体を強くしたくて、多少体重を重めに設定したんです。だから、動けていなかった部分も現実としてあったと思います。今シーズンは元に戻しました。とにかく今年は、去年の二の舞にはなりたくないという思いが強いんです。
個人としてもチームとしても優勝を逃したのはもちろん悔しいですけど。何もできなかった自分の不甲斐なさがすごくあった。監督の信頼を全然得られなかったし、それにふさわしい仕事もできなかったから」
――ユース時代にコーチ、監督だった熊谷浩二さんから学んだこととは?
「熊谷さんの場合は、サッカー以外の面が大きいですね。正直、サッカーのことでこうしろとか言われたことは一切ないですね、今思えば。
いつも言われていたのは、生活とかそういう部分です。まずは挨拶。学校での態度、ご飯の時間、洗濯とか。規律を守ること。謙虚に素直に、裏表なく生きろって言われましたね。やましいことをするなって。やましさを持ってグラウンドに来るなと。何を見られてもいいんだというくらいの感覚で来いって。ごまかしたり、ウソをついたりしても、クマさんにはすぐにバレるから。純粋にサッカーと向き合える状態で練習に来なさいと。正直、当時はすべてを理解していたわけじゃないけれど、プロになってその重要性を痛感しています」
――というのは?
「やっぱり私生活がプレーに出るんですよ。僕みたいな選手は、ロナウドとかメッシとはまったく違うわけだから。ちょっとしたことで運を手繰り寄せるというか、幸運を集めなくちゃいけない。意外とそういうのを意識するんですよ」
――徳を積むということですね。ゲンは担ぎますか?
「はい。たくさんありすぎて、言えない。そういうのって、口外しないほうがいいと思うんですけど、メチャクチャあるとだけは言っておきます」
――よいプレーができた日にやったことは、全部やりたくなる?
「はい。全部やります!」
――鹿島のFWは「ゴールだけが仕事ではない」という意識が強いと感じます。チームのためのプレーを大事にしている印象があります。
「そこは僕も意識しています。鹿島のFWは走らないとダメなんです。でも、チームメイトのため、チームのためのプレーをしていると、(ボールが)こぼれてくるんですよ。本当にポンっと。こぼれ球を拾って、1本ゴールを決められたら、乗れる。だから、そのためにも走らなくちゃいけない」
――鈴木選手が考える鹿島のFWとして大切なことは?
「勝たせられるFWが大事ですね。(金崎)夢生くんみたいに。だから、自分がこんなに出ているなかで、この結果(現在、11位)は正直情けないなと改めて思っています。点数(リーグ戦4得点)も少ないし。自分ではよく動けていても、もっと数字にこだわらなくちゃいけない。常に優勝したいと思いますね、やっぱり鹿島なので。難しいなとは改めて思いますけど、そこだけはブレちゃいけない」
――それでも、今季は非常に成長を感じます。
「試合に出ると感じられることがたくさんあります。これは通用する、これはまだ足りないと体験できるので、それをまた試合で修正できる。練習だけではわからないことは本当に多いから。試合に出ることでやれることが増えてくるという感覚はありますね」
――クラブW杯でレアル・マドリードとの再戦の可能性があります。
「もう一度戦いたいという気持ちは、鹿島に関わる誰もが持っていることだから。そこはやりたいという気持ちはめちゃくちゃありますね。絶対にACLを獲りたい」
――今、鈴木選手個人が描く将来のビジョンは?
「当然、鹿島にタイトルをもたらすことが一番で、その先にあるビジョンとしては……自分らしくない大きめのことを言ってもいいですか? いつかチャンピオンズリーグに出たいなって思います。行きたい国は……やっぱり自分の中にとどめておきます(笑)」
鹿島・鈴木優磨のプロ意識。いいプレーのため、私生活で幸運を集める