天皇杯 2回戦
鹿島、ホームで大量6得点。Honda FC撃破で天皇杯3回戦進出。
6月唯一の公式戦で、王座奪回への一歩目を力強く踏み出した。雨のカシマスタジアム、天皇杯2回戦。JFL王者のHonda FCと激突した鹿島は、PKで先制を許したものの、安部と鈴木の2得点で3-1と逆転に成功してハーフタイムを迎える。後半も土居の2得点とオウンゴールで加点し、6-1と圧勝。3回戦へ駒を進めた。
5月20日の第15節を最後に、J1は中断期間へ突入した。14連戦を走り抜いた選手たちは3日間の充電期間を経て、5月24日にトレーニングを再開。ACLベスト8進出を遂げた手応え、そしてリーグ戦で味わった不甲斐なさとの狭間で、さらなる奮起を期してグラウンドへと帰還した。息つく間もなく激闘を繰り返した爪痕は色濃く残り、治療やリハビリが目前の課題となった選手も少なくなかったが、各々が次なる戦いへ向けて準備を進めてきた。
練習再開から6日後、5月30日にはいわきFCとのトレーニングマッチを実施。課題を抽出し、準備の日々は続く。31日には昌子と植田が日本代表に選出され、大迫や柴崎とともにロシアW杯へ臨むこととなった。一方、無念の現実と向き合うこととなった三竿健斗は、6月1日からチームに合流。青空に恵まれたクラブハウスで優しく温かく出迎えた仲間たちとともに、背番号20は再び歩みを進める。「悔しい思いをして帰ってきた。チームを引っ張っていけるようにしたい」。胸に刻んだ思いを糧に、鹿島を牽引する自覚を胸に、若武者は次なる一歩を踏み出す。
「選手の数は限られてはいたが、練習試合なども通じて共通認識を再確認した。攻守における約束事を選手全員で再認識するためのトレーニングをした」と、指揮官は練習の日々を振り返る。仙台戦から2週間半ぶりの公式戦、しかもトーナメントの初戦。非常に難しい一戦であることは間違いない。大岩監督は「本当に難しい。練習の前後でも選手に話をした」と、試合への入り方について意識を徹底させたことを明かした。「天皇杯はいつも、試合間隔が開くイメージがある」という土居は「スロースタートでなくエンジン全開でいかないと」と気を引き締めていた。
2週間半ぶりの公式戦へ、「コンディションをしっかりと見極めたい」と選手起用を展望していた指揮官はゴールマウスを曽ケ端に託し、最終ラインは右サイドバックに伊東、左には安西を指名。代表コンビを欠くセンターバックには、犬飼と町田を並べた。ボランチには健斗と小笠原、そして2列目は遠藤と安部が務める。そして前線では、土居と鈴木のコンビがゴールを狙う。ベンチにはGKのクォン スンテ、内田、伊東、永木、中村、金崎、山口が座る。
「集中して試合に入らないといけない。Honda FCは攻撃も守備もやるべきことをしっかりやるチーム」。百戦錬磨の曽ケ端はそう言って、警戒を口にしていた。天皇杯通算60試合出場――。前人未到の景色に到達した守護神がピッチへ姿を現すと、アントラーズレッドのスタンドから大きなコールが降り注がれた。6月唯一の公式戦、冷たい雨が降り続く聖地で、背番号12とともに勝利を掴みに行く。「懸ける思いは強い」と決意を述べていた犬飼も、鋭い眼光で体に熱を送っていた。
19時3分、キックオフ。強い雨が降る中、鹿島は立ち上がりから両サイド深くを狙った攻撃を仕掛けていった。開始1分足らずで土居がペナルティーエリア右奥へ進出するなど、先制点への意欲を見せていく。4分にミドルシュートを枠に飛ばされてゴールを脅かされたものの、曽ケ端が堅実なセービングで阻止。2週間半ぶりの公式戦、試合への入り方が最初の難関だったが、開始10分は着実に時計の針を進めてみせた。
だが、最初のスコアはビジターチームのものだった。13分、ペナルティーエリア左側でクロスに対応した町田が胸トラップから左足でボールに触れると、遅れて飛び込んできた相手と交錯。ホイッスルが鳴り、PKの判定が下された。1年1ヶ月ぶりにピッチへ帰還した若きセンターバックは驚きを持ってジャッジに異議を唱えたが、覆ることはない。栗本に緩やかな軌道のシュートを決められ、0-1とビハインドを負った。
思いがけない形で1点を追うこととなった鹿島だが、選手たちに動揺はなかった。少しずつ高い位置でのボールポゼッション率を高めていくと、同点弾は20分に生まれた。敵陣右サイド深くでパスを受けた土居がクロスを上げると、ペナルティーエリア右奥で鈴木がポストプレー。巧みなボールタッチでエリア手前へ落とすと、走り込んでいた安部が左足を振り抜く。アウトサイドでインパクトされた一撃は、鋭い弾道に乗ってゴール右隅へ突き刺さった。1-1。「数字で結果を残す」と抱負を語っていた背番号30の今季初得点で、鹿島が同点に追い付いた。
逆転を目指す鹿島は25分過ぎからセカンドボールをHonda FCに拾われる場面が増えたものの、決定的なピンチを迎えることはなかった。犬飼と町田のセンターバックコンビも時間を追うごとに安定感を増していき、敵陣まで進出して鋭いタックルを敢行。果敢なチャレンジでボール奪取を見せていた。
同点のまま、40分を経過した。ハーフタイムを迎える前に勝ち越すことで、試合を優位に進めていきたい鹿島。その願いを叶えたのは、西と鈴木のホットラインだった。42分、相手のCKからカウンターを発動し、土居がスピードに乗って敵陣へ進出する。クロスはつながらなかったが、セカンドボールを拾って二次攻撃へ。右サイドへ展開し、西がピンポイントのクロスを上げる。飛び込んだ鈴木が頭で合わせ、ゴールネットを揺らした。さらに2分後、再び鮮やかな連係からゴールが生まれる。遠藤の巧みなキープとスルーパスで右サイドの背後を取ると、西のクロスに鈴木が反応。鋭いヘディングシュートが左ポストに当たり、ゴールへ吸い込まれた。背番号9が立て続けに2得点を挙げ、3-1。2点リードでハーフタイムを迎えることとなった。
優位に立って迎えた後半も、鹿島は攻撃の手を緩めない。50分、またも西のクロスから決定機。右サイドを駆け上がった背番号22が正確無比のボールを送ると、健斗のヘディングシュートは相手GKの好セーブに阻まれたものの、そこへ土居が詰めていた。頭で押し込み、4点目を記録。鹿島のリードは3点となった。
リードを広げた鹿島は55分経過後、Honda FCに押し込まれる時間もあったものの、要所を抑えた守備で反撃を許さず、機を見たカウンターでチャンスを窺う。鈴木が幾度となく最終ラインの背後を狙い、さらなる得点への意欲を見せていた。
そして68分、5つ目のスコアも鈴木の突破から生まれた。敵陣左サイドでボールを持つと、スピードを上げてペナルティーエリア左手前へ。相手のマークを引き付けて大外へスルーパスを出すと、安西がグラウンダーのクロスを供給。「GKとDFの間を狙った」というボールは相手DFの足に当たり、ゴールへ。Honda FCのオウンゴールで、鹿島のリードは4点となった。
大量リードを得た大岩監督は70分に伊東、71分に山口を投入。選手交代で競争意識を刺激しつつ、時計の針を進めていく。84分には遠藤に代わって永木がピッチへ。犬飼と町田は終盤に入っても集中力を切らすことなく、体を張って応戦し続けた。そして後半アディショナルタイム、この夜最後のスコアも鈴木が演出してみせた。ペナルティーエリア手前からのスルーパスを繰り出すと、反応した土居が冷静な左足シュート。背番号8の2得点目で、鹿島がゴールラッシュを締めくくった。鈴木は2得点2アシストと大車輪の活躍だった。
大量得点で2回戦を突破し、W杯開催に伴う中断期間を迎えるチームは明日から1週間のオフに突入する。14日に再集合し、20日からは清水キャンプを実施。来るべき公式戦再開に向け、準備を進めていく。次戦は7月11日、天皇杯3回戦。町田との激突が待ち受けている。
【この試合のトピックス】
・Honda FCと天皇杯で対戦するのは2006年、2007年に続いて3回目で、3連勝を果たした。
・曽ケ端がフル出場し、天皇杯で通算60試合目の出場を記録。釜本邦茂氏の記録を上回り、大会歴代単独首位に立った。
・公式戦で1試合6得点を記録したのは、2012年9月8日の天皇杯2回戦・筑波大学戦(7-1)以来だった。
・鈴木と土居が2得点を挙げた。
・安部が今季の公式戦初得点を挙げた。
監督コメント
[ハーフタイム]
鹿島アントラーズ:大岩 剛
・サイドにいく人数を自分たちで制限し、バランスを考えること。
・全体的にコンパクトな守備を後半も続けよう。
・2点差は危ない点差であるので、後半あたまから積極的に戦っていこう。
Honda FC:井幡 博康
・もっと勇気をもってプレーしよう。
・1対1で仕掛けよう!
・ミスが多く、ゲームが作れないことで自分たちのスタイルが貫けなかった。カウンターからのチャンスを作っていこう。
[試合後]
鹿島アントラーズ:大岩 剛
先に点を決められてからエンジンがかかるのは課題であり、その課題を克服しなくてはいけないという反省点がある。しかし、そのあとの攻守にわたるアグレッシブさは評価していい。90分通して選手はやってくれたと思う。
Q. JFLでも結果を残している相手だったが、印象は?
A. 何試合か見て、レベルの高い選手たちだと感じていた。出身高校、出身大学を見て分析したなかで、非常に有望な選手たちがいた。井幡監督のもとソリッドで攻守にまとまったチームだと分析していた。その通り前半からアグレッシブにきた。雨によるピッチコンディション、初戦ということを差し引いても、苦労させられたと感じている。非常にレベルの高いチームだったと思う。
Q. 曽ケ端選手の天皇杯出場数が60試合となり最多出場となったが。
A. 曽ケ端に関しては、私が言うまでもない。彼の人間性も含めて、プレーヤーとしての存在感、パーソナリティーがここまで続けてこられたことの証明になったと思う。
Q. 日本代表でセンターバック2選手がいないなか、出場した選手の評価は?
A. 特に町田は大きなケガを乗り越えて、公式戦の復帰初戦だった。最初はふわふわした感じを受けたが、徐々にゲームに入っていった。今後、彼が成長していくと思うが、そのリスタートの一試合になってくれればと考えている。非常に評価している。
Honda FC:井幡 博康
すべてにおいてアントラーズとの差を感じたゲームだった。自分たちのゲームを作るまでに、65分ほどかかってしまった。いかなくてはいけない状態になってからいくという、リアクションのゲームになってしまい、選手の判断を奪ってしまった。もう一度鍛えなおしてチャレンジしたいと思う。
選手コメント
[試合後]
【鈴木 優磨】
勝てて良かった。個人的にはもう一点を狙っていたので、悔しい。この思いを次にぶつけたいと思う。雨にも関わらず、たくさんの方に来てもらった中で勝てて良かった。
【西 大伍】
2アシストはしたけど、もう一本、裕葵のシーンがあった。全然、まだまだ。もっと高いレベルのプレーを見せていけるようにしたい。
【曽ケ端 準】
(記録更新は)恐縮です。自分が釜本さんのような選手の記録を抜いたというのは嬉しいこと。強いチームにいなければ、この記録はなかったと思う。アントラーズにいられる幸せを感じている。
【犬飼 智也】
自分たちで最初からしっかりと戦えたと思う。いい準備ができていたと思う。先制されたのはもちろん嫌だったけど、時間は残されていたし、問題なく顔を上げてプレーできた。
【安西 幸輝】
PKで先に取られた後、相手が引いてくるかと思ったけど、そういうわけではなかった。引かれる方が嫌だったと思う。オウンゴールの場面は、GKとDFの間という意識でボールを入れた。コンディションは上がってきているし、あとはプレー精度の問題だと思う。勝たなかったら意味がなかった。勝ててよかった。
【町田 浩樹】
(PKの場面は)もっと対処の仕方があったように思う。後半は落ち着いてプレーできたけど、前半は少し引きずってしまった。試合に出場して課題が出たことをポジティブに捉えている。とりあえず、スタートラインに立てたと思う。今日の試合で出た課題にしっかりと取り組んで、次に活かしていきたい。
天皇杯 JFA 第98回全日本サッカー選手権大会 2回戦