ヴァイラー体制2戦目にして、目指すスタイルの輪郭が見えた
スイス人のレネ・ヴァイラー新監督を迎え入れ、新たな戦術の導入に挑む鹿島アントラーズが、その全貌を明らかにしつつある。合言葉は「より速く、よりシンプルに、前へ」にほかならない。
新型コロナウイルスの感染予防対策のため、来日が大幅に遅れていたヴァイラー監督が3月11日に無事、日本に到着。入国後3日間の待機義務が設けられていたが、措置対象国からスイスが解除されたこともあって、同月13日にチーム合流。その2日後のルヴァンカップ大分戦でベンチ入りした。
あわただしいなかでの初采配は、立ち上がり早々に染野唯月のヘッドで先制するも、取って取られてのシーソーゲームとなり、最終的に3-3のドロー決着。新天地・鹿島での初陣を勝利で飾ることはできなかったが、ヴァイラー監督は「多くの情報を得られた」とポジティブにとらえていた。
そして、迎えた3月19日のJリーグ第5節。地元カシマスタジアムでの湘南戦は16分に先制点を許したが、今やエースの称号を得た上田綺世のスーパーミドルとファン・アラーノの逆転弾によって勝利を手繰り寄せる。新指揮官はこう言って喜びをかみしめた。
「私にとって最初のホームゲーム。勝ちたいと思っていたので、よかった。選手たちが結果で示してくれた。ファンやサポーターだけではなく、クラブを支えてくださる皆さんに勝点3を届けることができて、うれしく思う」
ヴァイラー体制2戦目にして、早くも目指すスタイルの輪郭が見えた。とにかく、よく走る。それは単なる印象ではなく、データが裏付けている。
試合後、Jリーグの公式サイトを通じて、各選手の総走行距離やスプリント回数が公表されているが、そこに興味深い数値を見つけることができる。「3月19日に行なわれたJリーグ第5節の7試合に限って」と前置きさせていただくが、鹿島のスプリント回数のチーム合計は241回。これは14チーム中、最多だった(広島の236回、京都の221回が続く)。
シーズン開幕前、オンラインを通じ、次のように語った左SBの安西幸輝は、チーム一の40回という数値をたたき出した。まさに“レネ・スタイル”の申し子たる躍動ぶりだった。
「僕らに求められているのはスプリントする力。サイドでのドリブルや前へのフリーランニングは自分の持ち味でもある。そういう意味では、やりやすさを感じている」
個性豊かな選手たちが、情報共有し、効率よく走る
湘南戦で鮮やかな同点弾を決めた上田は、“レネ・スタイル”についてこう話していた。
「コミュニケーションを大切にする監督だなという印象。パス1本にしても受け手にどんな情報を伝えられるか。逆に、パスの出し手にどんな選択肢を与えられるか。そこを共有するようなトレーニングをしている」
上田の言葉を聞いて、ふと、頭に浮かんだのは、いつ(when)、どこで(where)、だれが(who)、何を(what)、なぜ(why)、どのように(how)という5W1Hだった。伝えたい情報をこれらにそって整理すると、よりわかりやすく伝えられるといわれるが、“レネ・スタイル”の根幹をなす思考であることがうかがえた。
監督不在中、現場を取り仕切った岩政大樹コーチも「待ち合わせ場所」と称して、パスの出し手と受け手のイメージの共有を図ろうとしていた。そこに、他を圧倒するようなスプリント力を加味しようとしているわけだ。
かつて“走るサッカー”といえば、技術的未熟さを補う方法論のひとつだった。ところが、今の鹿島は個性豊かな選手たちが、情報共有しながら、効率よく走ろうとしているのだから、これはもう鬼に金棒だろう。
“レネ・スタイル”の構築がどこまで進むのか、目が離せない。
取材・文●小室功(オフィス・プリマベーラ)
◆“レネ・スタイル”の根幹をなす「5W1H」。イメージを共有し、スプリント力が高まれば鬼に金棒だ【鹿島】(サッカーダイジェスト)
「今の鹿島は個性豊かな選手たちが、情報共有しながら、効率よく走ろうとしているのだから、これはもう鬼に金棒だろう」
— 日刊鹿島アントラーズニュース (@12pointers) March 21, 2022
◆“レネ・スタイル”の根幹をなす「5W1H」。イメージを共有し、スプリント力が高まれば鬼に金棒だ【鹿島】(サッカーダイジェスト) https://t.co/3X4eMPZUae pic.twitter.com/7cqQiQ0SmG