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Jリーグを代表する常勝軍団、鹿島アントラーズが緊急事態に見舞われている。7月9日からの1週間で次代を担う3人の若手、24歳のDF安西幸輝がポルティモネンセSCへ、20歳のMF安部裕葵がFCバルセロナへ、23歳のFW鈴木優磨がシント=トロイデンVVへと、続々と新天地を求めた。ワールドカップ・ロシア大会代表コンビの昌子源、植田直通の両センターバックを含めれば、1年間で5人の主力が移籍した状況だ。それでも名門を担い続ける舞台裏には、旅立つ選手たちの意思を後押ししながら、海外移籍が加速していく時代の流れに合わせて、黎明期から貫いてきた伝統的なチーム作りに、大胆かつ繊細な修正を加えたフロントの存在があった。(ノンフィクションライター 藤江直人)
若手主力選手3人が
7日間のうちに移籍する異常事態
四半世紀を超える歴史を持つJリーグで初めてとなる事態が、他のクラブの追随を許さない、歴代最多の20個ものタイトルを獲得している常勝軍団、鹿島アントラーズで起こっている。
クラブの将来を担う存在だった3人の若手主力選手が、わずか7日間のうちに相次いでヨーロッパに新天地を求めたからだ。日本代表の主力のほとんどを海外組が占めるなど、海外移籍が盛んになって久しい日本サッカー界だが、アントラーズのケースは初めてとなる。
海外移籍ラッシュの幕開けは7月9日だった。J2の東京ヴェルディから加入して2年目のサイドバックで、今年3月には待望の日本代表デビューも果たした24歳の安西幸輝が、ポルトガル1部リーグのポルティモネンセSCへ完全移籍することで合意に達した。
3日後の同12日には、先のコパ・アメリカ2019のピッチにも立った20歳のMF安部裕葵が、FCバルセロナへ完全移籍することでクラブ間合意に達した。MF久保建英が加入したレアル・マドリードと人気を二分する、スペインの名門に日本人選手が所属するのはもちろん初めてとなる。
そして、さらに3日後の同15日には小学1年生からアントラーズひと筋で育ち、昨シーズンにはチーム最多の11ゴールをゲット。負傷で辞退したものの、日本代表にも初招集された23歳のストライカー、鈴木優磨がベルギーのシント=トロイデンVVへ完全移籍することで合意した。けがを再発させた関係で、今シーズンはまだピッチに立っていない鈴木も迷った末に海外挑戦を決意した。
もちろん、タイトルのさらなる上積みに欠かせない戦力として、クラブとしては慰留に努めた。例えば瀬戸内高校から加入してわずか3年目で「10番」を託した、安部に関する移籍報道がかまびすしかった今月6日のジュビロ磐田戦後には、取材エリアにこんな言葉が響いている。
「もう少しいろいろ頑張ります」
安部の去就を問うメディアにこう返したのは、1996シーズンから強化の最高責任者を務める鈴木満常務取締役強化部長だった。文言から推察するに、バルセロナから届いたオファーに驚きながらも移籍を決断した安部を、一縷の望みを託して全力で慰留していた図式が伝わってくる。
アントラーズの歴史をさらにさかのぼれば、半年の間にチームを去った2人のセンターバックに行き着く。昨年の年末に昌子源がフランス1部リーグのトゥールーズFCへ、同7月12日には植田直通がベルギー1部のセルクル・ブルージュへそれぞれ完全移籍した。
ともに昨夏のワールドカップ・ロシア大会代表に名前を連ねた2人のセンターバックは、同時にアントラーズを離れる可能性もあった。しかし、精神的支柱でもあった昌子へはクラブを挙げて慰留。最終的には悲願でもあった昨秋のアジア王者獲得を置き土産にして、フランスへと旅立っている。
チームの「幹」として育てた
日本人選手の海外志向が加速
1年間で5人もの主力選手が移籍すれば、当然ながらクラブの屋台骨は大きく揺らいでしまう。まして昌子や植田、安部、そしてアカデミー出身の鈴木は、生え抜きの選手をアントラーズの色に染めながら育てる、Jリーグの黎明期から貫かれてきた伝統が生み出した主力選手たちだった。
「1990年代はブラジル人選手を『幹』に据えて、日本人選手を『枝葉』とするチーム作りをしてきました。しかし、Jリーグ全体で身の丈に合った経営が求められた2000年を境に日本人選手を『幹』として、どうしても足りない『枝葉』の部分をブラジル人選手で補う方針へ大きく変換しました」
チーム作りの手法をこう明かしたことがある鈴木強化部長は、さらなる想定外の事態に直面する。2000年代の中頃から強くなったJリーガーたちの海外志向は、日本代表がベスト16へ進出し、海外から注目されるようになった2010年のワールドカップ・南アフリカ大会を境に一気に加速される。
アントラーズを例に挙げれば、2010年7月にDF内田篤人がブンデスリーガ1部のシャルケ、2014年1月にFW大迫勇也(現ベルダー・ブレーメン)が同2部の1860ミュンヘン、2017年1月にはMF柴崎岳(現デポルティーボ・ラコルーニャ)がスペイン2部のテネリフェへ移籍している。いずれも次世代のリーダー候補として育ててきた選手たちだった。
「言い方はすごく悪くなるかもしれないけれども、出場機会を求めて『枝葉』の日本人選手が移籍していくとのとは大きく異なり、主軸に育て上げた『幹』の選手が海外移籍でいなくなれば、膨大な時間をかけてきたチーム作りを根本的に変えなければいけなくなる」
こう振り返ったこともある鈴木強化部長は、3人が今もアントラーズに所属していれば「もっと、もっと強いチームになっていますよ」と苦笑いしたことがある。同じ論理が昌子と植田にも、そして今夏に新天地へ旅立った安西、安部、鈴木にももちろん当てはまる。
全力で慰留こそするものの、それでも最終的には選手たちの意思を尊重してきた。サッカー人生の中でも“旬”と呼ばれる時期は、決して長くはない。縁があってアントラーズというクラブで出会ったからには悔いを残すことなく、思い描く道を歩んでいってほしい――鈴木強化部長が今も胸中に抱く思いは、こんな言葉に凝縮されている。
「サッカー人生は一回限りですし、選手の夢でもある海外移籍を阻止するつもりもありません」
だからといってクラブが弱体化してしまえば、旅立っていった選手たちを憂慮させる。常勝軍団の看板を守り、貪欲なまでにタイトルを獲得し続け、クラブ全体をさらに輝かせるためには、チーム作りの手法を時代の流れに合わせるしかない。
「他チームからの移籍で選手を補強することもある程度は視野に入れていかないと、チーム作りが間に合わない時代になってきた。10年のスパンどころか、3年ないし4年しか在籍しないことを前提にチームを作らないといけないのが、ここ数年の日本サッカー界全体の潮流。ウチに限らず、チームが強くなり切る前に主軸が抜けることでチーム作りの頓挫を余儀なくされる流れが、レベルが拮抗している今現在のJ1の状況を生み出していると思っているので」
生え抜きを育てながら、補強も並行させる方向へ舵を切った鈴木強化部長はスカウトを増員させ、J1やJ2を視察させた。一方で外国人選手は海外市場だと年俸が高騰しているので、他のJクラブで活躍し、日本のサッカーや生活にも慣れて計算が立つ選手をターゲットにすえた。
2017シーズンにアルビレックス新潟から加入し、今シーズンも変わらぬ存在感を放つ33歳のブラジル人ボランチ、レオ・シルバはその象徴だ。もっとも、それでもジレンマを拭うことはできず、最終的には「ちょっと吹っ切れました」と鈴木部長は苦笑いしたことがある。
「移籍といっても、バリバリの日本代表クラスの選手を獲得することはやはり避けたい。培ってきたアントラーズのカラーというものがあるし、周囲からも『アントラーズらしい』という言われ方をよくされる。今ではアントラーズの強みになっている感があるし、僕たちとしてもそうした伝統はこれからも大事にしていきたいので」
アントラーズらしさとは、黎明期の土台を作った神様ジーコが伝授した、敗北の二文字を心の底から拒絶する勝者のメンタリティーにある。確固たるアイデンティティーがあるからこそ、新卒組や移籍組を問わず、選手たちが憧憬の視線を送る。血の入れ替えを最小限にとどめながら歴史と伝統を紡いでいく作業を、鈴木強化部長はこう説明したことがある。
「移籍に頼らざるを得ない状況も生じるかもしれないけれども、基本的には新卒で加入した選手たちを3年ないし4年かけて育てて、世代交代を進めていくスタイルを守りたい。それで選手が移籍していったら、また新たしい選手を育てればいい。ブラジルのようにヨーロッパに選手を獲られても、次から次へと才能ある選手を輩出するクラブになればいい」
2010年代に入って新たに描かれた設計図に則れば、アカデミーや新卒加入組から主力へ羽ばたいた選手たちの代表が昌子や柴崎、植田、鈴木、安部であり、今現在のアントラーズを支えるMF土居聖真やDF町田浩樹となる。
そして、移籍組でアントラーズを支えてきたのがDF西大伍(現ヴィッセル神戸)やFW金崎夢生(現サガン鳥栖)、DF山本脩斗、MF三竿健斗、MF永木亮太、DF犬飼智也、MF白崎凌兵、安西、FW伊藤翔となる。三竿と永木、安西はアントラーズでさらに成長して、日本代表入りも果たした。
さらに次代を担う生え抜きの若手として、アカデミー出身のMF平戸大貴やルーキーのDF関川郁万(流通経済大学柏高卒)、MF名古新太郎(順天堂大卒)がいる。来シーズンはFW染野唯月(尚志高3年)、その次のシーズンからはコパ・アメリカにも出場したFW上田綺世(法政大学3年)の加入も決まっている。
流通経済大学から昨夏にシント=トロイデンVVへ加入し、今年3月に期限付き移籍で加入した左サイドバック、22歳の小池裕太は早くも安西の穴を埋めている。多彩なタレントをまもなく40歳になる生え抜きのGK曽ヶ端準、昨シーズンに約8年ぶりに復帰し、今現在はキャプテンを務める31歳の内田、同じく31歳のMF遠藤康らのベテランが縁の下でしっかりと支えている。
若手の移籍ラッシュの渦中で迎えた13日のベガルタ仙台戦で、アントラーズは4-0の快勝を収めている。言うまでもなく安西、安部、そして鈴木もピッチに立っていない。
鈴木強化部長が追い求める、次々と才能ある選手を輩出するクラブは理想的な循環の中で、リーグ戦で首位のFC東京に勝ち点5ポイント差の4位につけ、連覇を目指すACLではベスト8へ進出。準々決勝から登場するYBCルヴァンカップ、3回戦へ進出した天皇杯全日本サッカー選手権を合わせて、存在するすべてのタイトルを手にできる可能性の中で、夏の陣へ挑んでいく。
◆なぜ鹿島アントラーズは、1年で主力選手が5人抜けても強いのか(ダイヤモンドオンライン)