またか、との印象を抱いた人は多いだろう。
ヴィッセル神戸のトルステン・フィンク監督が、9月21日付けで退任した。
クラブを通じたコメントには、「家族の元に戻るという決断をした」とある。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、長期間にわたって家族と会えていなかったという。誰にも予想できなかったウイルスの出現が退任の引き金になったのは、彼にとっても神戸にとっても不運である。
それにしても、あまりに唐突ではないだろうか。
退任発表の2日後にはリーグ戦が控えていた。今シーズンのJ1は日程が詰まっており、後任監督に十分な時間を与えられるタイミングが見当たらない。ヴィッセルはACLの日程変更にも揺さぶられており、J1でここ7試合勝利から遠ざかっているとしても、監督交代はチームにとってよりよい選択とは考えにくい。新たな監督を海外から招くとしても、新型コロナウイルスの感染予防の観点から、着任までには相応の時間がかかってしまうだろう。
そう考えると、クラブの体質に目が向くのだ。
シーズン途中での監督交代は、17年から4シーズン連続となる。ブラジル人のネルシーニョから日本人の吉田孝行へ指揮権が移り、その次はスペイン人のファン・マヌエル・リージョがベンチを預かり、再び吉田が中継ぎで起用されてフィンクを招へいした監督の移り変わりに、一貫性を見ることはできない。
そのたびに方向性がリセットされ、結果として「ヴィッセル神戸のサッカー」が見えにくくなっている。攻撃的か守備的かを問われれば攻撃的になるのだろうが、結果が出ていない時期でもブレない哲学が構築されていない印象だ。「またか」の理由がそこにある。
クラブのOBでもある吉田の起用は、悪くなかったはずだ。しかし、2度の緊急登板で神戸を支えた彼は、今シーズンからV・ファーレン長崎のコーチをしている。
方向性とか哲学といったものを脇に置いて、選手ありきのチームを作ることが悪いとは言わない。アンドレス・イニエスタがいる現在の神戸は、多くの人によってスタジアムで試合を観たいチームと言える。世界的なビッグネームを絶えず連れてくることができ、それによって数年に一度でもタイトルを獲得できるなら、ファンもそれなりに納得してくれそうだ。
しかし、何人かの選手の力を頼りにしたチーム作りは、当然ながらその選手のパフォーマンスに結果が大きく左右される。瞬間的にチームが輝くことは可能でも、継続的に結果を残すのは難しい。さらに言えば、結果が出るとその選手の力が大きくなり、監督が抑え込めなくなったりする。チーム内のバランスが歪んてしまうのだ。
リーグ戦のように「勢い」より「地力」が問われる戦いを制したいのであれば、方向性を定めるほうが近道だろう。「監督が交代しても、選手が入れ替わってもサッカーは変わらない」というチーム作りが、安定して成績を残すカギになる。
神戸と対照的なのは鹿島アントラーズだ。
外国人監督を呼ぶならブラジル人で、外国籍選手もブラジル人中心で一貫している。ブレのないスタンスが、Jリーグ最多のタイトルにつながっているのは間違いない。
今シーズンのスタートはこれ以上ないほどに悪く、順位表がボトムハーフの下部をさまようこともあった。しかし、ここ7試合負けなしと復調し、9月19日開催の試合まで6連勝を飾っている。順位も5位まで上げてきた。
常勝を自負するクラブだけに、通常のシーズンならザーゴ監督は解任されていたかもしれない。それでも、今年元旦の天皇杯決勝まで19年シーズンを戦い、ACLのプレーオフがあったことで十分なオフと準備期間が確保できていなかった。就任1年目の指揮官は選手の特徴をあらかじめ知っているわけではないから、チーム作りはとりわけ困難な状況だっただろう。
さらに言えば、MFファン・アラーノとFWエヴェラルドは来日1年目で、日本のサッカーに慣れる時間も必要だった。ザーゴ監督のサッカーがピッチ上で具現化されるまで、辛抱強く待ったフロントの胆力は改めて評価されるべきだ。ウィズコロナの困難なシーズンでも、鹿島は「らしさ」を失わずに戦うことができている。
戸塚啓コラム
戸塚啓
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している
◆【戸塚啓コラム】「らしさ」はどこから生まれるのか。ヴィッセル神戸と鹿島アントラーズの違い(livedoorNEWS)