クラモフスキー監督が標榜するサッカーに共感
いよいよ2024年シーズンのJリーグが開幕する。昨季を11位という不本意な順位で終えたFC東京は、今オフに大型補強を敢行。新加入選手たちの中でも最大級の期待を集めている選手の1人が、鹿島アントラーズで10番を背負い、期限付き移籍で加わったMF荒木遼太郎だろう。今年7月から8月にかけて開催されるパリ五輪代表を戦うU-23日本代表にも選ばれる資格を持つ22歳は、なぜ新天地を求めたのか。(取材・文=河合 拓)
鹿島の10番と言えば、元ブラジル代表MFジーコ氏を筆頭に、元ブラジル代表MFレオナルド氏、元ブラジル代表MFビスマルク氏、元日本代表MF本山雅志氏といったそうそうたる顔ぶれが背負ってきた番号だ。2021年に10代の選手として史上2人目となる2桁得点を達成し、ベストヤングプレーヤー賞を受賞した荒木に対し、クラブも大きな期待を寄せていたことは容易に想像ができる。そんな荒木が1年間の期限付きとはいえ、国内クラブへ移籍したのだ。
「鹿島の時は全然、試合に絡めていなかったので、まず環境を変えたいなと思っていました。そこで声をかけてもらったいくつかのクラブとオンラインでミーティングをしたんです。その時に監督のピーター(・クラモフスキー)さんと話をして、自分のサッカーとピーターがやろうとしているサッカーが本当に合いそうだなと思ったことが一番の決め手です。あとはチームにも結構、知っている人もいたので、やりやすい環境だろうなと思って選びました」
昨年6月からFC東京で指揮を執っているクラモフスキー監督は、トップ下を置く4-2-1-3のシステムを好んでおり、3トップの背後で力を発揮する司令塔、いわゆる10番を求めていた。クラモフスキー監督は、当時まだ鹿島の10番だった荒木に対して、自身がどれだけ荒木を必要としているかをしっかりと伝えたという。
「ピーターさんから10番の位置をほしがっているというのを聞いて、自分も本当にそこで輝きたいと思っていましたし、自分のプレーも見てくれたうえで選んでくれていました。そこであれば自分も輝ける自信がありました」
荒木は複数のオファーからFC東京を選んだ理由を具体的に説明した。
2024年シーズンに向けて始動してから、クラモフスキー監督は複数のシステムを試してきたが、そのなかでも荒木はトップ下だけでなく、ゼロトップなどでも試されている。「まだ誰と組んでやりやすいかなどは、はっきりしていなくて探り探りですが、自分的には結構、ほかの選手に合わせるのは得意」という荒木は、開幕前のトレーニングでも、全体練習後に監督とマンツーマンで話し込む姿が見られた。
実際にクラモフスキー監督の下でプレーした印象について、荒木は「本当に自分に合っているサッカーだなって思っています」と言い、「自分に足りないアグレッシブさ、縦の速さといったものも、ピーターさんの下で身についたものがあると思います。まだちょっとしか経っていませんが吸収するものも結構あって、この短い期間でも確実に成長できているなと感じています」と、加入前の予感が当たりつつある様子だ。
荒木が考えるシーズン成功の鍵は「組織的に守れるか」
昨季のFC東京は、FWディエゴ・オリヴェイラが15得点を挙げたが、そこに続く2位のFW仲川輝人とMF渡邊凌磨(現浦和レッズ)は4得点。チームの総得点が42だったことからも、ディエゴ・オリヴェイラへの依存度が高いことが分かる。長いシーズンの中では、彼が不調の時や、場合によっては不在の時もあるだろう。プロ入り2年目、19歳の時に1シーズンで10得点を記録した実績のある荒木には、D・オリヴェイラに次ぐ得点源としての期待も懸かる。シーズン中には、ディエゴ不在時に試されたゼロトップで戦うこともあるかもしれない。荒木も静かに自信を見せる。
「ハマったらいいなぐらいの感じでやっていたら、ちょうど結構ハマった感じがして1つの戦術としても新しくできたんじゃないかなと思っています。パターンを持っておくのは、1年を通して絶対に必要ですし、それがキャンプで見つかったのは大きいかなと思います」
加入前、FC東京に対しては「前に強いイメージ。アダ(アダイウトン=現ヴァンフォーレ甲府)とかがいたので、速くて縦に強いなという印象がありました。あとは個の力が強いイメージですね」という印象を持っていたという。そして、新たなチームメイトたちとプレーするなかで、「やっぱり攻撃力は思ったとおり凄かったですし、最後の(ゴール前に)出てくるスピードとか、強さとかも、思い通りだったので、そこに自分もフィットできているんじゃないかなと思っています。もっとゴールに絡めたらいいんですけど、予想通りの迫力があります」と、頼もしさを感じている。
荒木が加わることでFC東京にどのような化学反応が起こるかは楽しみなところだが、今季のポイントは「守備」にあると荒木は考えていると言う。
「やっぱり前線の攻撃力であったり、得点力であったりというのは練習試合とかをしていてもあるほうだと思うので、そこは継続していく。今は守備が課題で、守備でどれだけ守れるかは重要だと思います。個人個人、1対1の守備が強い選手はいるので、チームとしての守備になった時に組織的に守れるか。そこが今はまだチームとして機能していないと思うので、そこがハマれば普通にいいチームだし、強いと思います」
FC東京の新シーズンは、2月24日のセレッソ大阪戦からスタートし、第2節はホーム開幕戦で昨季3位のサンフレッチェ広島と対戦する。
「開幕戦は大事だと思うんですけど、自分の考え的には、ほかの試合と変わりません。性格の問題だと思いますけど(笑)。1試合1試合、本当に大事にしたいですが、開幕戦だから特別だとは思いません。ただ、開幕戦は一番難しいと思っています。それまで練習試合しかしていないので、練習試合と公式戦は全く違いますし、チーム力が試されるところなので、毎年毎年、開幕戦は一番難しいです。その試合を終えて迎えるホーム開幕戦は、サポーターもいっぱいいると思うので、気持ち的にも上がりやすいと思います。自分としては、この第2節が本当に楽しみですね」
[プロフィール]
荒木遼太郎(あらき・りょうたろう)/2002年1月29日生まれ、熊本県出身。東福岡高―鹿島―FC東京。J1通算88試合・13得点。テクニックと創造力にあふれたアタッカーで、2021年には城彰二以来史上2人目となる10代で2桁得点を達成、ベストヤングプレーヤー賞を受賞した。22年に腰椎椎間板ヘルニアに苦しみ、パリ五輪出場を目指す年代別代表からも遠ざかっており、新天地で完全復活の狼煙を上げる。
(河合 拓 / Taku Kawai)
◆「10番の位置なら輝ける」 荒木遼太郎が鹿島→FC東京移籍の挑戦を選んだ訳【インタビュー】(FOOTBALLZONE)