2021年シーズンが幕を開ける。今シーズンの日程は2回の中断期間があるのが大きな特徴だ。もし、トップクラスのチームが、ACLによる過密日程の影響も受けずに、この中断で中心選手のコンディションを保てるとしたら——。全20チームを確認すると、そんな条件に当てはまるクラブが3つある。鹿島アントラーズ、横浜F・マリノス、そして、昨年から質の高いサッカーを披露してきたサンフレッチェ広島だ。
■大幅に戦力ダウンの柏レイソル、勢いに日がかげるヴィッセル神戸、主力が流出の大分トリニータ ACL出場クラブのうち、G大阪、名古屋の2クラブは指揮官も代わらず、G大阪は昨年広島で15得点を叩き出したレアンドロペレイラ、韓国代表のMF朱世鐘(チュ・セジョン)、名古屋はMF長澤和輝、齋藤学、柿谷曜一朗などを補強して選手層を厚くしたことで、ACLとのかけもちにもある程度対応できそうだ。しかしそれでもJリーグの試合に影響が生じるのは避けられない。川崎については、後に触れたい。
移籍で戦力ダウンを否めない代表的なクラブが柏レイソルだ。昨年は28点を挙げて得点王となったオルンガが対戦相手に大きな影響を与えたが、そのオルンガが去り、さらには横浜FMに貸し出されていたジュニオール・サントスが広島に移籍してしまったことで、得点力の大幅ダウンは避けられない。
ヴィッセル神戸も、西大伍、藤谷壮、小川慶治朗といった戦力が流出し、「バルサ化」への道もトーンダウンの感が否めない。昨年のACLで優勝できていればまた盛り上がりを見せたのだろうが、準決勝での不運な敗退で今オフの動きは非常に緩慢だった。
2シーズンJ1で暴れ回ってきた大分トリニータも、今季は主力が流出し、「正念場」といったシーズンとなる。DFラインの岩田智輝、鈴木義宜、ボランチの島川俊郎、そして攻撃のポイントとなっていた田中達也が移籍、長身FWの長沢駿、湘南の守備の中心だった坂圭祐、ボランチの下田北斗らを補強したが、片野坂知宏監督が目指すアグレッシブなサッカーをどこまで継続できるか。
■新監督の5クラブ パワーアップした清水エスパルス、浦和レッズ/戦力流出のベガルタ仙台、徳島ヴォルティス
今季、新監督の下でJリーグに臨むクラブは5つ。しかしC大阪のレヴィー・クルピ監督だけでなく、ベガルタ仙台の手倉森誠監督とJ2から昇格した徳島ヴォルティスのダニエル・ポヤトス監督には、苦しいシーズンになりそうだ。仙台はFW長沢駿、FWジャーメイン良、MF椎橋慧也らを失い、昨季浦和で活躍したMFマルティノスらを補強したが、戦力ダウンに見える。そして徳島は、4シーズンでJ2王者に育て上げたリカルド・ロドリゲス監督が浦和に移ってしまい、ポヤトス監督と契約したものの、新型コロナウイルスによる日本の入国制限で、来日の予定すらたっていない。
そうしたなか、新監督で大きく変わるのではないかと期待を集めるのが清水エスパルスだ。J2の東京ヴェルディとJ2のC大阪でしっかりとした守備を構築、好成績を残してきたミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が就任した。GKに日本代表の権田修一、DFに大分の中心だった鈴木義宜、さらにC大阪で右サイドバックとして堅実なプレーを見せていた片山瑛一を補強、これまでの弱点を補った。
徳島をJ1に引き上げたリカルド・ロドリゲス監督を得た浦和も、「大変身」が期待されるチームだ。昨年の主力のうち、橋岡大樹、長澤和輝、青木拓矢、エヴェルトン、マルティノスらが抜け、柏木陽介は規律違反で移籍が決定、昨季チーム最多の11ゴールを挙げたレオナルドも中国のクラブに移籍が決定的と、クラブは大なたをふるった。
代わって獲得したうち、J1で実績があるのは西大伍、田中達也、金子大毅の3人だけ。しかしロドリゲス監督好みの明本考浩と小泉佳穂は、今季大化けする可能性がある。さらに2年目の武田英寿が攻撃の中心として今季注目の選手になる可能性も十分だ。阿部勇樹、槙野智章、興梠慎三といったベテラン選手たちにとっては、ロドリゲス監督のパスサッカーはミハイロ・ペトロヴィッチ監督時代(2012〜2017)に経験済みで、「大変革」も、最初の中断明けごろにはしっかりとなじむのではないか。
監督も代わらず、戦力的にも大きなプラスマイナスがないのが、コンサドーレ札幌だ。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の合流が遅れているが、戦術的には昨年の「オールコートプレス、マンツーマンディフェンス」が継続されるので、開幕からそう乱れずに力を発揮していくのではないだろうか——。
■守備面に不安の川崎フロンターレ/若手が急成長を見せる鹿島アントラーズ
さて、いよいよ優勝争いである。最大の焦点はもちろん川崎フロンターレだ。昨年の強さを見ると、川崎には、当然、ACLとJリーグの2冠という、これまで成し遂げられたことのない偉業も期待できそうな気がする。しかし残念ながら、川崎は、国内で8連覇をしながら欧州も世界も制覇するという「バイエルン・ミュンヘン」までの存在ではない。バイエルンは、ブンデスリーガのなかでは2位以下を大きく引き離す年間収益を上げ、その資金力で常に戦力を保持しているが、川崎は、そこまで他を圧倒する力をもっているわけではない。
今季も継続される「5人制交代」は川崎の豊富な攻撃陣の力を再びフルに発揮させるだろうが、守備陣は選手層が薄く、さらにMF守田英正という守備面の最大の力を失ったことで、不安定になる恐れが高い。過密日程の昨年は「川崎対策」を練ることができなかった相手チームも、今季はしっかりと対策をとってぶつかってくるはずだ。ACLでは快進撃を続けるのではないかと期待される川崎だが、それがJリーグで苦戦する原因にもなるだろう。
というわけで、今季の優勝争いは、横浜F・マリノス、鹿島アントラーズ、サンフレッチェ広島、そしてFC東京といった「非AFC組」に絞られるのではないか。
このうちFC東京は、昨年非常にしっかりとしたサッカーを見せたが、懸案だった得点力アップの見通しが立たないのが気がかりだ。守備面では、昨年のACLから採用している森重真人のアンカー起用が機能するだろうが、攻撃のバックアップとして急成長した原大智が流出してしまったのは痛手だ。
シーズンを通じて首位争いにからみそうなのが鹿島アントラーズだ。ザーゴ監督のサッカーが1年で完全に浸透し、若手が急速に伸びた。なかでもオリンピック代表候補の上田綺世がJリーグを代表するストライカーとなり、昨年18ゴールを記録したエベラウドと組むFWラインは危険極まりない存在となった。
■さらに攻撃が進化しそうな横浜F・マリノス/質の高さに個の力が加わったサンフレッチェ広島
横浜F・マリノスは、ACLに翻弄され、過密日程のなかで故障者も続出して苦しんだ昨季とはうって変わり、Jリーグだけに集中できるのが強みだ。エリキ、ジュニオール・サントスといったアタッカーたちが去ったのは痛手だが、エリキと同じようにサイドでのスピード突破を期待されるエウベルを補強、アンジェ・ポステコグルー監督の「攻撃に次ぐ攻撃」というサッカーはさらに進化するはずだ。守備ラインに能力の高い岩田智輝を補強できたのも、大きなプラス材料だ。これにオナイウ阿道の成長がからめば、タイトルを取り戻す可能性も十分ある。
しかし私が今季最も期待しているのがサンフレッチェ広島だ。昨年も城福浩監督の下、素晴らしいサッカーを見せていたのだが、選手層の薄さがたたり、過密日程のなかで埋没してしまった。しかし良いコンディションで試合ができれば、そのサッカーの質が「トップ5」にはいるのは間違いない。
そうしたなか、「優勝」の切り札になると思われるのがジュニオール・サントスだ。ブラジルで高い得点力をもった選手として注目され、2019年夏に柏に移籍したが、なかなか出番に恵まれず、昨年も1試合に交代出場しただけで、8月に横浜FMに期限付き移籍。しかしそこから22試合で13ゴールを挙げる活躍を見せた。横浜FMの超ハイテンポなサッカーにいきなりなじめた能力があるだけに、広島でも森島司、浅野雄也といった才能あふれるアタッカー陣と好コンビをつくるだろう。
このジュニオール・サントスが20ゴールを挙げて得点王になること、そしてその活躍で広島が優勝するというのが、私の「Jリーグ2021」の筋書きだ。
◆【大住良之】J1リーグ2021順位予想(2) 優勝の可能性は広島、鹿島、横浜FM(サッカー批評)