遠藤康から受けたパスを足元に置くと、スルスルとスピードに乗ったドリブルで、右サイドを駆け抜け、クロスボールをゴール前へ蹴りこんだ。
それを受けた安部裕葵のシュートは相手DFに当たったものの、ゴールイン。ファーストレグを2-0で勝利していた鹿島は、27分のゴールで2戦目も2-0とリードし、準決勝進出を引き寄せた。
ACL準々決勝セカンドレグ天津権健戦。鹿島アントラーズの2点目を演出したのは、内田篤人だった。
天津権健のキープレーヤーである、ACミランなどで活躍したパトについて内田はこう語る。
「一番前でボールを持てなくても、2列目や1.5列目でパッと前を向いたら、ドリブルでのスピードが違う。技術はもちろん高いし、彼が中心だった。今回はあんまり左、こっちには流れてこなかったですけど、ああいう仕事ができる選手はチームみんなでしっかり受け渡しながら守るというのを意識していました。
ボールを持たせてもいいんだけど、ドリブルで突っかけられたりマークの受け渡しで1人はがされたときに、ズルズルいかれるのは危ない。遠目からズドンというのもあるし、9番とのコンビネーションもよかった」
パトとの1対1も、守備陣の統率も。
この日のパトは、内田のいる右サイドでのプレーを回避しているようにも見えた。それはファーストレグでの経験があったからだろう。内田はパトとの1対1でも決して引くことはない。冷静に丁寧に対峙し、まったく動じる素振りもなくパトの攻撃を封じていた。
「1度交錯して倒れこんでしまい、そのときは負傷したかと思ったけど、あれ以外はちゃんと抑えられた。ヨーロッパでもああいう選手がいっぱいいたし、なんか思い出した感覚がある。向こうは1対1がはっきりしているから、タイマンになる。
久しぶりにそういう選手だなって思いました。雰囲気とかポジショニングとかあったけど対人に関してはやられる感じもなくて、普通にやれたかな」
個人プレーの場面だけでなく、守備陣を統率するという面でも内田は大きな存在感を見せている。
「ホームアンドアウェイって絶対にホームで失点しちゃいけないんだけど、それができたというのがひとつ。試合中もDFラインを集めて『絶対にホームで失点しちゃいけない』って話をした。
最後シュートを打って終わるとか、当り前のことをやっていかないと勝てない。そこらへんは散々ホームアンドアウェイをやってきたんで。わかっているつもりではいます」
シャルケ在籍時代の7シーズン、欧州チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグに出場(15-16シーズンは負傷のため未出場)してきたキャリアが内田にはあるのだ。
7月にはまだ万全ではなかった。
7月28日に先発したガンバ大阪とのリーグ戦では、まだまだコンディション的には万全ではないと話していた。長期離脱の影響との戦いはまだ終わっていなかった。
「DFなので、相手のターンとかフェイントに合わせなくちゃいけない。そこで大事なのがコンディション。練習をさぼらずにちゃんとやってきたから、できたのかなと思う。ターンもできるようになってきたし、今日もジャンプを高く飛べたから。一番怖いのは着地なんだけどね。自分のなかで少し、前に進んでいる感じがある」
そこからの1カ月、ベンチ入りしても出場はわずかという状況だったが、いつ練習をのぞいても内田がグラウンドで気持ちよく汗を流しているのが印象的だった。
そして満を持して迎えたのが、8月28日ACL準々決勝天津戦での先発だった。約4カ月ぶりのフル出場で勝利を飾った。
この試合以降、リーグやルヴァンカップでもベンチ入りを続けて、9月9日にルヴァンカップ準々決勝セカンドレグの川崎戦を迎える。
ホームでのファーストレグを1-1で終えた鹿島だったが、消極的な空気がチームに漂い、相手の決定力の無さに救われたドローだった。川崎との相性は決してよくない。
「難しいゲームは向こうなんだから、こっちは普通にやればいい」
キックオフ直前、円陣を組むチームメイトに内田はそう訴えた。アウェイゴールのルールを考えれば、鹿島が1点取ればそれは相手に重くのしかかる。だからこそ難しいのは川崎であって、自分たちではないと。
「1戦目は俺が思うに、DFラインがフワッとしていた。だから、今日は俺がそこをしっかりと締めたいと考えていた。川崎にはボールはどうしても回される。3人目の動きの質も高い、そういうスタイルのチームだから、我慢が重要だと。
1戦目は、真ん中の2枚がどっしりと構えているという雰囲気がなかった。先発したわんちゃん(犬飼智也)やマチ(町田浩樹)には、(大岩)剛さんや岩政(大樹)さんみたいに経験がたくさんあるわけじゃないけれど、鹿島のCBってJリーグのほかのチームとは違うと思うんだよね、俺は。だからふたりのCBを助けたい。DFラインをしっかり締めることを考えた」
試合は左サイドバックの山本脩斗が2点を決めて、2-0でハーフタイムを迎えた。しかし、51分にPKを決められてしまう。その直後、センターサークルにボールが置かれるまでのわずかな時間に、鹿島の選手が内田を中心に集まっていた。
「どうしても受け身に入ってしまうから、PKのあとに全員を集めて『2-2でもいいんだから。普通にやろう。ここは我慢しなくちゃダメだ』と伝えた」
長短のパスを繋ぎ、周囲と連動して動きまわり、ボールを保持する川崎の攻撃を何度も何度も跳ね返し続けた。72分に追加点が決まって3-1になったあとも粘り強く戦った。
内田はその中心で、泥臭く身体を張って守備をしていた。そして、チームは準決勝進出を決めた。
「(小笠原)満男さんだったり、(中田)浩二さんだったり、いろんな人がアントラーズの伝統というか、戦う姿を見せてくれた。教えてくれる選手がいた。せっかくこのチームに戻ってきたんだから、自分が見て学んだことは伝えたいし、表現しなければもったいない。
それをここでやるのは、俺を獲得してくれたクラブの決断理由のひとつだと思うし、自分がやらなくちゃいけない仕事だと思っている。こういう難しいゲームでも鹿島らしさというのを示さなくちゃいけない。ただ俺が鹿島で見てきたプレーをそのままやっているだけですよ」
この試合で内田は、59分で交代した遠藤からキャプテンマークを渡された。89分、セルジーニョと交代でピッチに入る小笠原満男に渡そうとセルジーニョにキャプテンマークを託したが、それを受け取った小笠原はピッチに入るとすぐさま内田の元へ行き、キャプテンマークを返した。
「お前がつけろと言われた。リーダーシップを持った選手は他にもいるし、誰がつけてもいいと思っている」と内田はサラリと話す。しかし、内田に手渡したキャプテンマークには、小笠原のいろいろな想いが込められているのだろうと感じる印象的なシーンだった。
ACL2戦にルヴァンカップ1戦で先発フル出場を果たし、3連勝と結果を残した。コンディションも良好で、内田の手ごたえも大きいのではないだろうか。
「もちろんそういうつもりで帰ってきたし、ドイツでやっていたんで、今更できたなぁとは思わない。中2日、3日でバンバン試合をやれる身体に持っていくまでは、復帰とは思っていない。
今は週1で剛さんがタイミングみながら、こういう大事な試合でボンと使ってくれている。そういうポイントで出させてもらっているので、結果は出したい。普通の選手じゃいけないと思っているし、自分が出る意味というのをしっかりと示していきたい」
鹿島史上初のACLベスト4進出を果たした。
「昔のチームのレベルと比べたら、俺らの今の11人がめちゃめちゃレベルが高いわけでもないし、相手やタイミングというのもある。それでも、昔自分もその壁に跳ね返されてきた。そのなかで次のラウンドへ進めるというのは、素晴らしいこと。若い選手もいるけれど、俺とか満男さんとかソガ(曽ヶ端準)さんとかね、昔からやっている人もいる。
それに剛さんとか、ハネさん(羽田憲司コーチ)とか、悔しさを味わったスタッフもたくさんいる。そういう想いがあるから。次の準決勝は韓国のチームと当たる。うちには韓国人が選手2人と通訳が1人いるから、彼らのためにも絶対に勝たせてあげたいと思う」
鹿島が手にしたことのないACLというタイトルだけでなく、リーグ、ルヴァン、天皇杯と4冠を目指して始まった鹿島の2018シーズン。
新加入選手の数は少なく、しかもその多くが若手という中で、唯一の補強と言われたのが内田篤人だった。しかし前半戦は離脱が続き、芳しい成績を残せないチームに対して不甲斐なさを抱いていたはずだ。それでも、新天地で自分のやるべきこと、やれることを見つけて、尽力してきたのも事実だ。
「俺らには波があるんだよ。広島戦みたいにボロンって負けたり、ACLや今日みたいにいい試合ができたり。それは俺らには地力がないということ。能力のある選手が揃ってはいるけど、チームの底力がまだない。でもいい試合を続けていけば、気がついたときには勝ってきたな、タイトル獲ってきたなってなるチームだから、鹿島は」
苦戦したとしても原因を洗い出し、次の試合で勝利につなげる。その勝利が進化を促す要因となる。所属選手の大半が試合に出場し、文字通りの総力戦で戦っている鹿島。クラブW杯決勝まで、まだ数多くの試合が残されている。そのひとつひとつの勝利が大きな自信となるのは、内田自身もチームと同じだろう。
教わる立場から、伝える立場へ。その自覚が彼を新たなステージへと導くはずだ。
◆内田篤人が体現する「鹿島らしさ」。 ACLでも輝いた巨大な存在感。(Number)