今季J1・21ゴールをマークしているレオ・セアラがセレッソ大阪から赴くことはすでに内定。FC東京にレンタル移籍した荒木遼太郎の復帰も本決まりになりつつあるという。さらにサガン鳥栖のキム・テヒョンを獲得するという報道も出ており、必要なポジションをピンポイントで補強しているのは確かだろう。
◆【鬼木アントラーズで常勝軍団復活は叶うのか? 25年のJ1鹿島を展望する】(サッカー批評)
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鈴木優磨にレオ・セアラ、荒木遼太郎…、”王様タイプ”の3人は7冠獲得の名将の下で並び立つのか?(サッカー批評)
キム・テヒョン獲得報道で懸案のCB補強にメド。鬼木サッカーの完成度アップで”勝ち切れる集団”へ(サッカー批評)
ランコ・ポポヴィッチ監督体制でスタートし、折り返し地点では2位につけていた2024年の鹿島アントラーズ。
ところが、夏場以降足踏み状態が続き、10月には指揮官更迭という大ナタが振るわれた。中後雅喜コーチが監督に昇格し、パリ五輪が終わったU-23日本代表の羽田憲司コーチもスタッフに入る形で後を引き継いだ後は無敗で乗り切ったが、結果的には5位。YBCルヴァンカップ・天皇杯も逃し、彼らは8年間国内タイトル無冠という苦境に陥ってしまった。
そこで、10月から強化トップに就いた中田浩二フットボールダイレクター(FD)はいち早く2025年の編成に着手。まず鹿島OBで川崎フロンターレで7冠を獲得した名将・鬼木達監督を招聘した。さらに同指揮官とS級ライセンス同期取得の田中誠、鹿島の選手時代に共闘した柳沢敦・曽ヶ端準らコーチ陣を配し、今季の流れを知る中後コーチも追加。常勝軍団復活への充実した指導体制を整えたのだ。
それに伴い、選手の入れ替えも積極的に進めている。まずアウトの方は今季の主力だった名古新太郎(福岡)、仲間隼斗(柏)がそれぞれ移籍。途中から出ることの多かった藤井智也(湘南)、ギリェルメ・パレジ(CAタジェレス)、須貝英大(京都)もチームを離れた。レンタル移籍中だった染野唯月と林尚輝が東京ヴェルディに完全移籍となり、今季は清水エスパルスで戦った中村亮太郎もモンテディオ山形へ完全移籍した。今のところは「出ていく方が多い」という印象が拭えないところはある。
■充実したFW陣
一方で加入選手を見ると、正式発表されているのは横浜F・マリノスからやってきた小池龍太といわきFCに育成型期限付き移籍していた下田栄祐だけ。だが、もちろんそれだけで終わるはずがない。今季J1・21ゴールをマークしているレオ・セアラがセレッソ大阪から赴くことはすでに内定。FC東京にレンタル移籍した荒木遼太郎の復帰も本決まりになりつつあるという。さらにサガン鳥栖のキム・テヒョンを獲得するという報道も出ており、必要なポジションをピンポイントで補強しているのは確かだろう。
そのうえで攻撃陣を見ると、FW陣は鈴木優磨、レオ・セアラ、チャヴリッチ、徳田誉、田川享介という充実した陣容になる。今季終盤は鈴木優磨と徳田しか本職FWが使えず、師岡柊生がトップに入っていたくらいだから、状況は大きく改善することになる。
2列目も名古や仲間が出ていったが、師岡、樋口雄太、ターレス・ブレーネルに荒木と戦力はいる。さらに松村優太(東京V)のレンタルバックも発表され、彼が戻ってくればさらに選手層が厚くなる。クラブ側には「ある程度は戦える」という目算があるのではないか。
■鈴木優磨、レオ・セアラ、荒木の3人をどう並び立たせるか
そこで気になるのが、鈴木優磨、レオ・セアラ、荒木の3人をどう並び立たせるかという点。Jリーグの複数関係者も「3人の”王様タイプ”をうまく使えるかどうかが2025年の鹿島成否の分かれ目」と指摘していた。
近年の鹿島は鈴木優磨を軸としたチーム作りをしていて、今季は彼と相性のいい師岡や名古、仲間のような献身的にハードワークできるタイプが近くに配置されていた。だが、レオ・セアラや荒木が入ってくると同じような考え方でいいわけではない。
レオ・セアラは実力・実績ともに1トップの筆頭に相応しい選手。2トップを採用するなら鈴木優磨と並べればいいが、そうなるとトップ下のポジションがなくなって荒木が宙に浮く。「自分はトップ下で使ってもらえるところなら生きる」と強調し、FC東京で再ブレイクを果たした本人にしてみれば、サイドでの起用は不本意ではないか。
前線を1トップにして、中盤を1アンカー・2インサイドハーフ(IH)にするのも一案だが、レオ・セアラか鈴木優磨がベンチというのは両者ともに納得いかないだろう。
3バックをベースにすれば、中盤の1アンカー・2シャドウ、前線を2トップというのも実現可能だが、鹿島は伝統的に4バックがベース。やはり3人を同時起用するためには、誰かが本職と異なる役割を担わなければならない。それが実情なのだ。
2024年シーズンには鈴木優磨を左サイドで先発させた試合もあったし、本人もその位置は嫌いではないだろう。が、正直言ってあまり機能しなかった。シーズン通しての左というのはなさそうだ。
いずれにしても、鬼木監督は彼ら3人の扱いという難しい問題に直面することになる。指揮官の最適解を楽しみに待ちたいものである。
(取材・文/元川悦子)
(後編へ続く)
鬼木達監督が指揮を執る新生・鹿島アントラーズ。彼らの最大の懸念材料と言われたのが、最終ラインの選手層だった。
2024年はセンターバック(CB)が植田直通と関川郁万の2人にほぼ固定されていて、カップ戦が重なったり、夏場の酷暑の時期も彼らが出ずっぱりの状況だった。
「自分は大津だから」と植田は口癖のように言い、高校時代に身に着けたタフさと粘り強さに自信を持っている様子だったが、その彼も30歳。ケガに見舞われやすくなる年齢だ。そういう時に誰もいないのでは、やはり長いシーズンを戦い抜けなくなる。CBの補強は不可欠のテーマだったのだ。
そこで中田浩二FDらは複数の候補をピックアップ。報道上では谷口栄斗(東京V)、古賀太陽(柏)らに食指を伸ばしたものの、固辞されてしまったという。そこで白羽の矢を立てたのが、J2降格を強いられたサガン鳥栖のキム・テヒョン。187センチの体躯と精度の高い左利きのキックを武器とする選手で、今季の鹿島にはいなかったタイプだ。
■CBで繰り広げられる新たな競争
川崎時代の鬼木監督を見ていても分かる通り、CBは単に相手の攻めをストップできる守備力を備えているだけではダメで、攻撃の起点となれる足元の技術が不可欠だ。谷口彰悟(シントトロイデン)や高井幸大(川崎)ら日の丸を背負う存在が出てきたのも、その要求基準が非常に高かったから。鬼木サッカーの生命線ともいえる最終ラインのビルドアップ能力を養うことは、新生・鹿島の絶対条件。植田、関川、津久井佳佑含めてCBの新たな競争がスタートすることになるだろう。場合によっては三竿健斗が最後尾で固定されることもありそうだ。
ボランチ陣もボール扱いに長けた柴崎岳が軸となりそうが、サイドバック(SB)兼任可能な新加入・小池龍太もこのポジションで起用される可能性が高そうだ。というのも、今の鹿島には2024年ベストイレブンを受賞した濃野公人と38試合フル出場の安西幸輝の両サイドバックが陣取っているからだ。2人が使える時、小池がバックアップというのはあまりにももったいない。柴崎と小池をベースに戦うというプランもあり得るだろう。
そこで気になるのが、知念慶の扱い。鬼木監督は川崎時代の知念をFWと位置づけてきた。「まさか知念がボランチでここまでブレイクするとか考えたこともなかった」というのが本音で、2024年Jリーグデュエル王に化けるとは想定外と言っていい。クラブ側はその彼を引き続きボランチで使ってもらうのが希望だろうし、本人もそう願っているはずだが、鬼木監督が求める「タテパスを前につける能力」にはやや難があるのも事実だ。
■ボランチへの求め方の違い
ランコ・ポポヴィッチから中後雅喜監督体制においては「奪ったボールを前に出せる選手に渡すだけである程度はOK」だったかもしれないが、2025年以降はそういうわけにはいかないかもしれない。指揮官がそのあたりをどう評価するのか。知念というキーマンをうまく使うことも新生・鹿島の成否を左右するポイントになってきそうだ。
ボランチに関しては、三竿もいるし、残留が有力視されるミロサヴリェヴィッチや若い舩橋佑もいる。樋口もこのポジションはこなせるだけに、新たな競争が生まれる可能性が大。そうやってチーム全体が活性化することで「しぶとくギリギリのところで勝ち切れる集団」へと変貌していくのではないか。
ここでタイトルを奪還できなければ、本当に常勝軍団の看板を下ろさなければいけなくなってしまいかねない。最悪のシナリオを回避するためにも、鬼木・鹿島のジャンプアップが強く求められる。その動向を興味深く注視していきたいものである。
(取材・文/元川悦子)