18日にはマカオでACL準々決勝第2戦を天津権健と戦い、3-0で準決勝進出を決め、23日には明治安田生命J1第27節アウェイで北海道コンサドーレ札幌を2-0で破り、暫定4位に順位を上げた鹿島アントラーズ。休む間もなく26日、天皇杯4回戦・サンフレッチェ広島戦を迎える。
「周りにいい選手がたくさんいるので、コミュニケーションを取りながら自分がやるべきことに集中できています」
元セレソンのアタッカー、アレシャンドレ・パトと対峙したマカオの90分。そしてJでも屈指の長身コンビ、都倉賢とジェイとのエアバトルを繰り返した札幌の夜。クリーンシートを2枚重ねた後であっても、チョン・スンヒョンは謙虚な言葉を連ねていた。
内外に衝撃を与えた金崎夢生の移籍と時を同じくして、サガン鳥栖からの加入が発表されたのは7月24日だった。リオ五輪に続いてW杯のメンバーにも選出された栄誉、そしてロシアのピッチに立てなかった悔しさを胸に秘めた24歳が、新たな挑戦としてアントラーズでのプレーを決断したのだった。
加入発表からわずか2日後、大阪遠征中のチームに合流。兄貴分のGKクォン・スンテが「もともと静かな性格」という新戦力は、少し強張った面持ちでグラウンドへ向かった。そこへキャプテンが歩み寄る。ペアを組み、言葉を交わしながらウォーミングアップ。緊張が瞬く間にほぐれていく。そしてその2日後、さっそくベンチ入りメンバーに名を連ねる。内田篤人に導かれ、吹田のビジタースタンドを埋め尽くした背番号12に挨拶。“アントラーズのスンヒョン”が誕生した瞬間だった。
待望のデビューは8月5日のJ1第20節。スンヒョンは犬飼智也とセンターバックでコンビを組み、スンテのアクシデントで急遽先発したGK曽ケ端準とともに守備陣を形成。清水エスパルスの攻撃をシャットアウトしてみせた。
そして後半アディショナルタイム、打点の高いヘディングで西大伍の決勝弾を演出したのも背番号5だ。「赤いユニフォームが見えたので、そこに落とそうとしたんです」。攻守両面の活躍で「素晴らしいサポーターの前でデビューできて、勝つことができてうれしいです」と、初戦で掴んだ勝利を喜んだ。
「チームのために体を投げ出して守備をする、献身性を見てもらいたいと思っています」
その言葉を体現するように、スンヒョンは気迫に満ちたプレーでチームを支え気迫に満ちたプレーでチームを支え続けている。リーグ戦では清水戦から8試合連続でフル出場。35番を背負うACLでも、天津権健との180分を無失点で終えた。百戦錬磨の曽ケ端からも、「ロングボールをはね返すだけでなく、つなぐヘディングをしてくれます。周りも見えているし、競り合いも強いですね」と、厚い信頼を掴んでいる。
そして、守護神はもう一人。「いろいろなことを聞かれます。できるだけサポートをしていきたいですね」。スンテもまた、“弟”が見せる積極的な姿勢を明かし、期待をかけていた。「集中していない時は、日本人選手よりも叱ってしまうかもしれないですね」と冗談交じりに笑う背番号1。当のスンヒョンに話を向けると、呼応するように「後ろにスンテさんがいるので、集中できています。韓国でも最高のGKで、大先輩です」と、こちらも笑顔を見せている。
鹿のエンブレムを纏い、既に10試合を戦ったスンヒョン。チームにすっかり溶け込んだ今、改めてアントラーズでプレーする心境を聞いた。返ってきたのは、ともに戦う背番号12への思い。
「昨季のACL、蔚山に所属していた時に対戦した試合の印象があったんです。素晴らしいサポーターです」
愛情と情熱を受け止め、アントラーズファミリーとともに突き進む。
26日水曜日。聖地・カシマスタジアムで対峙するのはリーグ首位の広島だ。忘れもしない9月1日、リーグ戦第25節アウェイでの惨敗、同点被弾はスンヒョンにとって心底悔しいものだった。
パトリックとの空中戦、先に跳んでボールをはじき返したプレーがファウルを取られると、FKのマークを外されてヘディングで決められた。「結果的にファウルになったので…」と多くを語ろうとはしなかったが、その瞳に闘志が宿った。
「次の試合は必ず勝ちます」
札幌の夜を締めくくったのは、勝利への誓いだった。難敵を迎え撃つ、聖地でのノックアウトマッチ。スンヒョンがアントラーズを守る。スンヒョンとともに、ベスト8の切符を掴み取る。
◆パトリックに決められた悔しさを糧に。次は必ず勝つ――鹿島CBチョン・スンヒョンの誓い/天皇杯4回戦(GOAL)