数年前、Jリーグには、DAZNマネーにあやかるように、世界的に名の知れた選手が集まった時期があった。ルーカス・ポドルスキー、ディエゴ・フォルラン、フェルナンド・トーレス、ダビド・ビジャ......。だが今は昔。それも過去の話になってきた。コロナ禍のこのご時世、致し方ない面もあるとはいえ、外国人枠さえも満たしていないクラブが多数派を占める現状は、残念な限りだ。アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)が最後の砦のように見える。
だが何を隠そう、昨季のベスト11(「Sportiva」のアンケート)に、筆者はイニエスタを選ばなかった。Jリーグでプレーする外国人MFのなかで最も活躍した選手。バランスを考えてそれをひとりに絞ろうとしたとき、イニエスタよりこちらだと思わせた選手が存在した。鹿島アントラーズの左利きMF、ディエゴ・ピトゥカである。
昨季、鹿島は出遅れた。4月11日の北海道コンサドーレ札幌戦に引き分けると、ザーゴ監督は早々と解任の憂き目に遭う。順位も降格圏に迫る15位まで後退。ディエゴ・ピトゥカがサントスから鹿島にやってきたのはその後になる。
2021年1月、ディエゴ・ピトゥカはサントスの一員としてリベルタドーレス杯決勝を戦っていた。4-3-3のインサイドハーフとしてスタメンを飾り、パルメイラスと白熱した接戦を展開。南米一の座は逃したが、ディエゴ・ピトゥカは選手としての格を上昇させた。次の行き先が、なぜ欧州ではなく日本だったのか。鹿島でプレーする姿を見ていると、ブラジル代表歴が1度もないことにも驚かされた。
世界的な知名度がけっして高くないブラジル人選手で溢れているJリーグ。ディエゴ・ピトゥカもその一員に含まれるが、欧州の上位クラブで最も通用しそうな、ブラジル人ナンバーワン選手であることも確かだ。29歳という年齢がネックにならなければ、鹿島に何年もいるような選手ではない。ベスト11に選考した一番の理由は、その貴重さにある。
昨季、4位でフィニッシュした鹿島だが、降格圏付近からジャンプアップした背景を語る時、リーグ戦では5月1日の横浜FC戦からチームに加わったディエゴ・ピトゥカの存在は外せない。
カンビアッソ、レドンドを彷彿
今シーズンの開幕戦、ガンバ大阪戦でも、鮮やかなパスを決めている。
前半20分。ピッチの中央から前線を走る上田綺世へ出したスルーパスだ。立ち足に対して直角に開いた左足からスパッと送り出された、局面を切り裂くような鋭利なインサイドキック。パスを受けた上田は、外せない状況に追い込まれたという感じだった。トラップがやや流れ、シュートの難易度が増した分、その先制弾はナイスシュートに見えた。実際、この試合の上田は持ち上げられ、称賛された。
サッカーにおいてゴールを決めることは最も重要なプレーになる。一般論として、称えられるべきは、出した側より決めた側だ。しかし、それを差し引いても、ディエゴ・ピトゥカのこのラストパスは、もっと称えられるべき一級品のプレーだと考える。
もしパスの送り手が、イニエスタだったらどうだっただろうか。中村俊輔、中田英寿、小野伸二、遠藤保仁あたりでも、もっとパスの出し手を称賛する報道になっていたはずだ。
鹿島はレネ・ヴァイラー新監督の来日が遅れていて、コーチの岩政大樹がしばらく代行監督を務めると聞く。G大阪戦で岩政監督は、鹿島のOBらしくチーム伝統の4-4-2を用いていた。昨季、ザーゴの後任監督として采配を振った相馬直樹監督も同様に4-4-2で戦い、ディエゴ・ピトゥカはその守備的MFでプレーしていた。
鹿島では初となる欧州人監督が、鹿島の伝統に従順な布陣で臨むのかどうか、定かではないが、ディエゴ・ピトゥカの役割もそれ次第で変化しそうだ。筆者としてはインサイドハーフを勧めたくなる。
それはともかく、ボランチといえば守備的な選手を連想するが、ディエゴ・ピトゥカは守り屋ではない。低い位置で構えるパサー。その昔、インテル、レアル・マドリードで活躍したアルゼンチン代表のエステバン・カンビアッソを彷彿とさせる左利きのゲームメーカーだ。
カンビアッソよりボールを持って縦方向に前進する推進力を備えているので、よりスケールの大きなフェルナンド・レドンドの名前も挙げたくなる。カンビアッソの少し前にレアル・マドリードで、金髪を靡かせ、将軍然とプレーしたアルゼンチン代表MFであることは言うまでもない。
いなくなられては困る外国人選手
昨季、守備的MFでコンビを組んでいた相手は、ボール奪取能力に長けた三竿健斗だった。しかし、開幕戦のG大阪戦でコンビを務めたのは、サガン鳥栖から移籍してきた樋口雄太で、こちらはパサータイプのMFになる。大きく括れば、ディエゴ・ピトゥカと同タイプだ。4-4-2の真ん中で横並びにさせるコンビとしてどうなのか。これから布陣の変更はあるのか。
ディエゴ・ピトゥカは、上田が挙げた3点目のゴールにも絡んでいた。荒木遼太郎に送った縦パスが、さらに上田へと渡り、G大阪ゴールを揺るがしたわけだが、荒木、上田は1月に行なわれた国内組が参加した日本代表合宿に参加した、鹿島期待の2人組だ。3点目をその2人のコンビネーションで奪ったとなれば、荒木に送ったそのひとつ前の縦パスは忘れられがちだ。
この日の鹿島ではチームに2年半ぶりに復帰した鈴木優磨も活躍した。先述の樋口も新鮮に映った。左サイドバックの安西幸輝も、長友佑都(FC東京)を上回る元気な動きを見せていた。鹿島には、語るべき要素が数多くあることは事実ながら、そちらに目が奪われるあまり、左利きのブラジル人MFを軽んじることになったとすれば、ナンセンスだ。
鹿島のみならず、Jリーグにとって最もいなくなられては困る選手、ディエゴ・ピトゥカの今季の活躍に目を凝らしたい。
◆鹿島アントラーズの浮沈のカギを握るJ最高の外国人選手。日本にいるのが不思議なぐらい(Sportiva)