[7.2 ロシアW杯決勝トーナメント1回戦 日本2-3ベルギー ロストフ・ナ・ドヌ]
残された時間は限りなくゼロに近かった。しかし、日本代表はラストプレーでベルギー代表に決勝ゴールを叩き込まれてしまう。敵陣から自陣ゴール前まで全力疾走で戻ってきたDF昌子源だったが、シュートをブロックするには、あと一歩届かなかった。
2-2で迎えた後半アディショナルタイム。日本はCKの好機を得るが、このプレーから決勝点につながる高速カウンターを浴びる。MF本田圭佑が蹴り出したCKがGKティボー・クルトワにキャッチされ、MFケビン・デ。ブルイネにパスが送られると、数選手が一気に前線へと駆け上がる。この時、昌子は感じたという。「相手がどう思ったか僕には分からないけど」と前置きしつつ、「仕留められると思った瞬間。(ベルギーの)全員が同じことを思った瞬間なのかな」と――。
デ・ブルイネがボールを運び、右サイドを駆け上がるDFトーマス・ムニエに展開。ムニエのグラウンダーのクロスに反応したFWロメル・ルカクがMF長谷部誠を引き連れてスルーすると、ファーサイドでフリーになったMFナセル・シャドリへとボールが届く。
この間、昌子は全力で敵陣ゴール前から自陣ゴール前まで全速力で走っていた。だが、どうしても追い付けない。「僕も全速力で追いかけたけど、追い付けないスピード。加速していくし、スピードが落ちることはない。最後のスライディングも僕だったし、『何で追い付けんのやろ』と悔しくてふがいなかった」。スライディングで懸命に足を伸ばしてブロックしようとしたが、シャドリが合わせたボールはネットを揺らした。
「例えば僕が後ろから追いかけて足音が聞こえたときに、パスがちょっとマイナスにいったとか、スピードが落ちるだけでも、僕の最後のスライディングは届いたと思う。けど、なんせ落ちなかった」。爆発的なスピードの中でも、そして相手のプレッシャーを感じた中でも正確なプレーを連続させ、プレーに関わった選手が同じ絵を描いていたからこそ生まれた決勝ゴールに驚嘆するしかなかった。
昌子にとっては初の大舞台。「いろんな期待やプレッシャーもあったし、今までに経験したことのないプレッシャーを受けた」。そのプレッシャーを言葉で表現すると、「普通の男性が80歳まで生きるとすると、80年間で受けるプレッシャーを1か月で受けた気がする」。それだけ、大きな重圧とも戦っていた。
だが、初戦コロンビア戦で先発出場を果たすだけでなく、主力としてW杯3試合を経験した男は日々成長を遂げ、存在感を高めてきた。「今回は試合に出た中で最年少で、いろんな先輩の力を借りながらやってきた」中で、決意したことがある。「もっと日本を守れる男になりたい。守って勝たせられる選手になりたい」。今大会の経験、そして悔しさを今後の成長につなげたい。
(取材・文 折戸岳彦)
「何で追い付けんのやろ…」昌子が体感した“強国”の凄み