http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/jfootball/2014/08/25/post_708/名波浩の視点
新たな指揮官としてハビエル・アギーレ氏を迎えた日本代表がまもなく始動する。今回は、その新チーム入りが期待される鹿島アントラーズのMF柴崎岳をピックアップ。アギーレジャパンの主力として活躍できる選手かどうか、解説者の名波浩氏に診断してもらった。
エスパルス戦の勝利に貢献した柴崎岳(右)。左はエスパルスのFW大前元紀。
柴崎岳が、新生・日本代表のメンバー入りする可能性は十分にあると思う。Jリーグ第21節の清水エスパルス戦(3-1でアントラーズが勝利)でも、その存在は目立っていた。90分間を通して、安定したプレイを披露。パスの配球はもちろんのこと、パスの受け手として顔を出すタイミング、それから、自分がおとりになって相手を引きつけて、味方のスペースを生み出す動きもよかった。
ボランチでありながら、2列目の仕事もこなせるのも大きい。精度の高いパスと効果的な動き出しでチャンスに絡み、フィニッシャーとしての役割まで全うしている。それでいて、試合展開や時間帯によっては、そうした攻撃的な仕事を自重。全体のバランスを考えてプレイができる大人のメンタリティーを持っていて、代表に入っても何ら問題なくやれるだろう。
柴崎の最大の売りは、ゲームを読む力だ。敵の「ここが穴だ!」という急所を突くことに長(た)けている。
この試合でも、いわゆるキラーパスを何本も通して決定機を演出。MF遠藤康が中央を抜け出してエスパルスのDFイ・キジェが思わず反則(退場)してしまったシーンも、遠藤へのスルーパスを出したのは柴崎だった(その反則で得たFKを、小笠原満男が直接決めた)。そして、柴崎はたとえミスをしても、常に相手の嫌なところを突き続けることができる。そのスタンスには好感が持てる。
加えて、自分たちでボールを動かして、相手の守備ブロックを崩そうとか、今は自分たちのリズムではないから後方でボールを回そうとか、柴崎がいつもその判断の中心にいる。経験豊富な小笠原満男とコンビを組んでいることでやりやすい面もあるかもしれないが、最高の手本を間近に見ながら、メキメキと成長していることは間違いない。
今季5ゴールを記録しているように、得点力もある。日本にはフィニッシュに絡めるボランチがまだまだ数が少ないので、その点も強調材料になるだろう。あと2、3年したら、もう少しウエイトが増して、もっとパンチのあるシュートが打てるようになるはず。そうしたら、もともとキックの質、とりわけインサイドキックはパーフェクトだから、一層魅力的な選手になるだろうし、日本代表の武器にもなると思う。
課題は、本人もわかっているだろうけど、ボールへのアプローチの速さとか、守備における強さ。ただそれらは、代表入りして、国際経験を積んでいけば、だんだんと身についていくもの。代表チームにずっと帯同し、プレイし続けていけば、その問題は時間が解決してくるだろう。
しかしひとつだけ、柴崎には早急に直してほしいというか、自らのプレイに肉付けしてほしいモノがある。それは、ピッチの中での”温度”だ。
言葉では説明しづらいんだけれども、彼は一試合通してずっと”低温”でプレイし続けている感じがする。小笠原と比べると、その差は歴然。熱いモノが見ている側に伝わってこない。
飄々(ひょうひょう)とプレイするのはいいけれども、今のままの“温度”でプレイし続けているようだと、タイトルや出場権がかかった国際大会では、使う側(監督)が起用しづらい選手になってしまうんじゃないか、と思う。
そうならないためにも、普段はおとなしくてもいいから、ピッチに立ったら一気に“温度”を上げなければいけない。昔で言えば、森島寛晃(元日本代表FW。現セレッソ大阪アンバサダー)、今なら大久保嘉人(川崎フロンターレ)のような感じか。それができないと、ひりひりした国際舞台では戦えない。柴崎に注文したいのは、そこだけ。
パフォーマンスに関しては、何も言うことがない。練習でも常に高い次元を維持しているというし、サッカーに取り組む姿勢も素晴らしいと聞いている。それだけに、柴崎にはその課題をクリアして、代表でコンスタントに活躍できる選手になってほしいと思う。
何はともあれ、もし今回代表に選ばれたら、まずは好きなようにプレイしてもらいたい。他のメンバーの特徴を知ることは大事だけど、自分のいいところをどんどん出して、監督やチームメイト、そしてファンに“柴崎岳”という存在を目いっぱいアピールしてほしい。