Sportiva注目アスリート「2022年の顔」
第14回:荒木遼太郎(サッカー)
スポルティーバが今年とくに注目するアスリートたち。その才能でどんな輝かしい活躍を見せてくれるのか。「2022年の顔」と題して紹介する。
その成長に限界はない----。鹿島アントラーズのMF荒木遼太郎のことだ。
2021シーズンのJ1リーグでは、10代にしてふたケタ得点をマークした。城彰二(ジェフユナイテッド市原/当時)が1994シーズンに達成して以来、実に27年ぶりの偉業だった。
シーズン終了後に行なわれたJリーグアウォーズでは、ベストヤングプレーヤー賞に選ばれた。2021シーズンの成績はチームの大黒柱である土居聖真と並び、チーム最多のリーグ戦36試合に出場。10得点に加えて7アシストという数字を残しているのだから、納得の受賞だった。
ちなみに鹿島で同賞に輝いた先輩たちには柳沢敦、柴崎岳ら錚々たる名前が挙がる。その柳沢が同賞を獲得した1997年の成績は25試合8得点、柴崎が受賞した2012年の成績は31試合1得点だったことを考えれば、いかに荒木の活躍が際立っていたかが想像できる。
思い起こせば、その片鱗は東福岡高校を卒業して、プロへの一歩を踏み出した2020シーズンからあった。いや、もっとさかのぼれば、まだ世の中が新型コロナウイルス感染症により日常を失う前、2020年が始動した宮崎キャンプからあった。
当時JFLだったテゲバジャーロ宮崎との練習試合では、ルーキーながらいきなり1得点1アシストをマーク。ボールを持てば前を向き、積極的に仕掛ける姿勢は、ザーゴ新体制がスタートしたばかりだった当時の鹿島に明るい希望を照らしていた。
ルーキーイヤーだった2020年も、J1開幕戦から途中出場した。鹿島で高卒ルーキーが開幕戦のピッチに立ったのは、あの内田篤人以来(2006年)だったというのだから、期待の高さはうかがえた。
【魅力のひとつはポジショニング】
J1第10節のヴィッセル神戸戦でさっそくプロ初ゴールを決めると、26試合に出場して2得点という成績を残した。2020年はセレッソ大阪の瀬古歩夢にベストヤングプレーヤー賞を譲ったが、受賞してもおかしくないインパクトは残していた。
ただし、2021年はそれを大きく上回る飛躍だった。
ルーキーイヤーの活躍は周知の事実であり、対戦相手も警戒を強めてくるなか、荒木は開幕から3試合連続でゴールを量産した。
荒木の魅力のひとつはポジショニングにある。J1開幕となる清水エスパルス戦の75分に決めたゴールがそうだった。エヴェラウドが放ったヘディングシュートがポストに当たり、跳ね返ったこぼれ球に素早く詰めると、左足でゴールネットを揺らした。
また、8月28日に行なわれた横浜F・マリノス戦(J1第27節)の15分には、土居のクロスをほぼフリーでヘディングしてゴールを決めている。そこにいること、そこに走り込めていることが、間違いなく才能だった。
そのポジショニングを引き出しているのが予測、すなわち状況判断にある。自身にとってプロ初となる複数得点を記録したJ1第3節・湘南ベルマーレ戦の60分だった。
中盤で起点となった荒木は、右サイドの広瀬陸斗に展開すると、そのままゴール前に走り込み、広瀬からのリターンを受けてシュートを決めた。広瀬のラストパスも秀逸だったが、特筆したいのはパスを引き出す荒木の動きにあった。彼は自らがゴールを決めるために周りを使い、そして自らのもとへとパスを引き寄せていた。
3試合連続ゴールとなったJ1第4節のサンフレッチェ広島戦でのゴールも同様だ。得点の過程で、荒木は一度ボールに絡んだのち、DFの背後に走り込み、パスを引き出していた。それらはゴールへの道筋が見えているからこそ可能なプレーだった。
技術が高く、運動量もある。至るところに顔を出せるように、いくらでも特徴を挙げられるが、最大の魅力はMFながらふたケタ得点をマークしたシュート意識の高さにある。決めた10得点のうち3得点がミドルレンジからのシュートだった。
特にJ1第16節のC大阪戦で決めたゴールは圧巻だった。
土居からのラストパスを受けた荒木は、寄せてくるDFをかわすように切り返すと、次の瞬間には右足を振り抜いていた。シュート意識も高ければ、シュート態勢から実際にシュートを打つまでの間隔が短い。相手DFが寄せる前に、相手GKが身構える前に、シュートを決めきるうまさがあった。
止めて蹴るという基礎技術の高さは、鹿島の主力を担っているように当たり前にある。シーズン途中からトップ下というポジションを与えられてからは、周りを使う動きにも磨きがかかっていた。
司令塔にもなれれば、フィニッシャーにもなれる。シーズン終盤は途中出場する機会も多かったが、彼がピッチに立ってから試合の流れや空気が変わったと感じたことは、一度や二度ではなかった。
19歳にして、鹿島の攻撃を担っている----。そう言えるほどの存在感だ。
それはおそらく、自信がもたらしたプレーへの責任感なのだろう。かつては柳沢や興梠慎三といったストライカーがつけてきた背番号13を背負った2021年、荒木のプレーには自信と責任がみなぎっていた。
だから、ベストヤングプレーヤー賞を受賞したことに喜ぶ一方で、チームにタイトルをもたらすことができなかった自分に責任を感じるコメントを残していた。
スポーツ界には「2年目のジンクス」という言い回しがある。成長を続ける荒木に、その言葉は関係なかった。プロ3年目となる2022シーズンも成長が止まることはないだろう。
クラブ創設30周年という節目に無冠に終わった鹿島は、大きく方向転換して2022シーズンに臨む。クラブ初となるヨーロッパからスイス人のレネ・ヴァイラー監督を招聘して、新たなスタイルの構築に着手していく。
その中心には、間違いなく荒木が立つことになるだろう。
足りないものがあるとすれば、世界へと羽ばたいていった先輩たちが残したように、自らの活躍によってチームにタイトルをもたらしたという実績だろう。それによって得た自信は、彼をさらにひとまわり成長させることになるはずだ。
2022年は、2年後に開催されるパリ五輪に向けてU−21日本代表の活動も活発になる。世界を見すえて語学の勉強もしているという彼が羽ばたくには、鹿島が喉から手がでるほど欲しているタイトルをもたらす活躍が求められる。
◆荒木遼太郎に「2年目のジンクス」は関係なし。19歳でアントラーズの攻撃を担う存在感(Sportiva)