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コロンビア、ボリビアと戦う日本代表の試合がもう1週間遅かったら。日本代表のメンバー発表が、それにともなって1週間遅かったら――伊藤翔(鹿島アントラーズ)が選出されていた可能性なきにしもあらず、だ。
Jリーグ第4節。鹿島がコンサドーレ札幌とのアウェー戦に1-3で勝利した一戦で、伊藤翔は2ゴールをマーク。今季の通算ゴールを4に伸ばし、得点ランキングで藤本憲明(大分トリニータ)、アンデルソン・ロペス(札幌)を1点差で追う3位に躍進した。
アジアチャンピオンズリーグ(ACL)でも、プレーオフを含む3試合で3ゴールを挙げている伊藤翔。つまり、公式戦6試合で7ゴールを叩き出した計算になる。
今季、横浜F・マリノスから鹿島に移籍するや、いきなりの活躍。結果を残している。これが1年前の出来事なら、ロシアW杯の代表メンバーに名を連ねていた可能性さえある。
とりわけストライカーの選考では、実績と同じくらい重要になるのは現在の調子だ。その時、最も当たっている選手は、立派な代表候補になる。そんなタラレバ話を思わずしたくなるほど、伊藤翔は調子がいい。春の珍事に終わりそうな感じではない。好調は持続するとみる。
2ゴールを挙げた札幌戦にしても、まだまだ点は入りそうだった。本人も、もう1点ほしかったと述べていたが、ゴール以外にかなり惜しいシュートが3本はあった。鹿島が押しまくっていたわけではないのに、である。
伊藤のプレースタイルに鹿島が適したチームと言うべきか、鹿島のプレースタイルに伊藤が適した選手と言うべきか。相性のよさを思わずにはいられない。まさにお互いが欲していた選手でありチームに見える。
鹿島に伊藤翔ありと言わしめた試合は、Jリーグ序盤戦の大一番、第2節の川崎フロンターレとのアウェー戦だった。0-1の劣勢から同点ゴールを叩き込んだ右足シュートである。
右サイドバック内田篤人が川崎のバックラインの背後に高々としたロングボールを蹴り込むと、伊藤翔は川崎のディフェンダー、奈良竜樹に走り勝ち、トップスピードのまま左足のインステップにボールをスッと収めた。
このトラップがまず秀逸だった。直後に、それと反対の右足で放ったシュートが、逆サイドのゴールポストに当たり、角度を変えながらネットを揺るがすというその軌跡の美しさにも酔いしれることになった。今季これまで見たゴールの中で、もっとも鮮やかなゴールはどれかと問われれば、このゴールを迷わず推す。
キャッチフレーズは「和製アンリ」。中京大付属中京高校3年の時にアーセナルの練習に参加。そこで当時アーセナル監督のアーセン・ベンゲルからそう言われたと聞くが、この言葉のインパクトが強かったこともあり、高校時代から大物選手として通っていた。多くのファンから期待を寄せられる注目選手だった。
卒業後は日本企業が買収したフランス2部(当時)のグルノーブルへ。高校生がJリーグを経ずに外国のクラブとプロ契約した最初の選手としても知られている。
ところがグルノーブルでは鳴かず飛ばず。チームはタイミングよくフランス1部に昇格したが、伊藤翔に出番が回ってくることはほとんどなかった。3年後、あえなく帰国。清水エスパルスに入団した。
記録に目を通せば、4年間で出場試合数は49。得点も8に終わっている。「和製アンリ」と騒がれた高校時代は、すっかり過去のものになっていた。10代の頃に騒がれていた選手が、年を重ねるごとに平凡な選手になっていく。そしていつしか消えていく。伊藤翔もこの「サッカーあるある」の1人のように見えた。
その後、清水から横浜FM移籍。若干ではあるが昇進した。そこで記録した5シーズンの成績は134試合、29点。清水時代より活躍した。とはいえ、代表チームに呼ばれる気配はまるでなかった。相変わらず、「和製アンリ」の名に負けていた。
そして今季、鹿島にやってきた。年齢は30歳。いつしかベテランになっていたが、それでもなお、ステップアップを果たしたことは少々意外だった。鹿島が伊藤翔を獲得した背景には、成長株のFW、鈴木優磨が故障中という事情があったのだろうが、ここまで活躍するとは、獲得に動いた鹿島のフロントさえ予想しなかったのではないだろうか。
川崎戦のゴールは、「和製アンリ」の名に負けていなかった。そこで見せた速さ、キレのある技術は、ともに並の日本人選手とは思えないA級のプレーだった。
身長は184cmある。大迫勇也より2cm大きい。さらに幅がある。それはティエリ・アンリとの違いでもある。どっしりとした、いい意味での重みがある。それでいて遅くない。そしてなにより、かつてに比べてバランスがよくなっている。その結果、動きに円滑さが増した。
アンリが苦手としたポストプレーにも長けている。アンリ2世というよりオールラウンダー、万能型FWだ。日本代表級の大型FWとして知られる杉本健勇(浦和レッズ)より頼りになる存在に見える。
いかんせん30歳なので、「日本代表に入れるべきだ!」と騒ぐつもりはないが、冒頭で述べたように、「惜しかった」とは言いたくなる。とはいえ、出場試合数はまだ200試合にも満たない。年齢の割に使い減りしていないのだ。
早熟で終わるのかと心配された選手が、気がつけば大器晩成型に立ち位置を変えていた珍しいケース。遅咲きの花はどこまで開くか。少なくとも今季のゴール数は、まだまだ伸びそうである。
◆30歳になった「和製アンリ」。 伊藤翔がゴール量産で鹿島を牽引(Sportiva)