明治安田生命J1リーグ第33節、川崎フロンターレ対鹿島アントラーズが24日に行われ、3-0で川崎が勝利した。敗れた鹿島は6戦未勝利でシーズン最終節を残すことに。サッカー日本代表からチームに戻った佐野海舟は孤軍奮闘しながら、自分自身に矢印を向けていた。(取材・文:元川悦子)
サッカー日本代表帰りの佐野海舟が見せる輝き
2023年のJ1リーグも最終盤。すでに7年連続国内無冠が確定した鹿島アントラーズだが、直近5戦未勝利という苦境を抜け出し、来季につながる形でシーズンを終えたいところだ。
そんな彼らにとって、11月24日に挑む川崎フロンターレはどうしても倒したい宿敵。2016年から15戦未勝利というのは、常勝軍団と言われたチームにとって不名誉な事実でしかない。今季は川崎もJ1タイトルを逃し、順位的にも鹿島より下にいるだけに、黒歴史に終止符を打つチャンスだった。
岩政大樹監督は前日の段階で代表活動に参加していた佐野海舟と松村優太の先発起用に慎重な姿勢を示していた。が、ふたを開けてみれば2人ともスタメン。今夏、ヴァンフォーレ甲府から加入した須貝英大も7試合ぶりに右サイドバック(SB)で先発に名を連ね、対面に位置するマルシーニョ封じの大役を託された。
フレッシュな面々が積極的な姿勢を示したことで、序盤の鹿島は相手を押し込み、主導権を握った。佐野もサウジアラビア帰りとは感じさせないほど中盤の幅広いエリアを動き、得意のボール奪取力を見せつけた。
前半の光ったシーンは20分。自ら仲間隼斗に縦パスを出し、相手にカットされると即時奪回し、最終的に鈴木優磨のフィニッシュにつなげたシーンだ。32分にはレアンドロ・ダミアンが決定機を迎えようとしたところで強引に戻って体を入れて阻止し、33分には思い切った縦パスを鈴木優磨目がけて入れるなど、さすがは16日のミャンマー代表戦で鮮烈な代表デビューを果たした成長株という印象を残した。
サッカー日本代表で受けた刺激。力不足を感じた選手とは…
「縦パスに関しては(守田英正や田中碧など)いろんな選手から刺激を受けた。そこは自分の課題だし、それを入れないとこの先やっていけないと思ったので、どんどんチャレンジしていこうと思っていました」と彼は静かに言う。
佐野が代表で感じたものがチームの勝利につながればよかったが、「際(きわ)の部分」でやられてしまうのが鹿島の現状を表している。それが34分のダミアンの先制点だ。登里亨平からのスルーパスを須貝の背後に通され、追いついたマルシーニョがマイナスにクロスを入れた。ここに積めたのがダミアン。
「勝負の世界ではあのミスはあり得ない」と甲府でキャプテンを務めていた右SBはうなだれたが、今季の鹿島は「押しているのに一瞬の綻びが生じる」傾向が強かった。だからこそ、ヴィッセル神戸、横浜F・マリノス、といった上位陣に勝てなかったのだろう。
0-1で折り返した後半も悪循環に歯止めをかけられなかった。岩政監督はベテラン・昌子源を投入し、川崎のパス回しをハイプレスで封じようと試みた。が、試合巧者の川崎はそれを見越して逆に長いボールを増やし、プレスに引っかからないような対応を講じてきたため、劇的な変化には至らなかった。
彼らにとって致命的だったのは、63分のダミアンの2点目だ。山根視来のロングクロスを須貝が滑ってコントロールしきれず、マルシーニョに拾われ、ゴール前に飛び込んできたダミアンがいとも簡単にゴールしたのである。
「マルシーニョに90分通して仕事をさせないことが一番頭の中にあったけど、仕事をさせてしまったし、チャンスも作れなかった。自分の力不足だと思います」と須貝は反省しきり。本当に2つの大きなミスは悔やまれた。
直近5戦未勝利で、わずか3得点しか挙げていない鹿島にとって、0-2というスコアはあまりにも重かった。そういう状況下でチームを鼓舞する選手がいないことも気がかりな点だった。
チーム唯一の日本代表である佐野は遠藤航らの発信力や統率力を目の当たりにしてきたはずだが、もともと大人しい性格ゆえに、周りを奮い立たせるようなアクションを起こすことはできなかった。
「起きてしまったことは仕方ないですし、切り替えるのが大事だと思ってその後もプレーしましたけど、今回はうまくいかなかった。遠藤選手だけじゃなくて、代表で生き残っていくためには発信力も必要。それも自分に足りないものでもあるんで、しっかりやっていかないといけないと思います」と佐野は自身の課題を自覚している様子だった。
かつての常勝軍団には小笠原満男のような闘将がいた。小笠原も佐野同様に口数は決して多くないが、苦境に追い込まれてもブレることなくチームを結束させ、最後まで諦めることなく戦っていた。小笠原がいるだけで全員が安心感を覚えたものだ。
まだ22歳で鹿島移籍1年目の佐野にそれを求めるのは酷かもしれないが、柴崎岳が負傷離脱している今、彼にはチーム全体を動かす役割を担ってもらわなければならない。それが紛れもない事実と言っていい。
鹿島は84分、リスタートの隙を突かれて早川友基がダミアンをペナルティエリア内で倒し、PKで3点目を失ってしまった。そういった隙を作らないように、もっともっと意識を高めていくしかない。
タイトルがない鹿島アントラーズは「ギリギリのところでちょっとずつ差が出てくる」
「際の部分というのは、タイトルがかかっているかどうかも影響してくると思う。僕らは天皇杯やACL(AFCチャンピオンズリーグ)を意識しながら戦っていますけど、相手は何もかかっていない。そうなるとギリギリのところでちょっとずつ差が出てくるもの。今日の90分間を見ていても、そう感じました」
昨年のFIFAワールドカップに日本代表として出場した山根は神妙な面持ちでこうコメントしたが、鹿島はそういった差をピッチ上で感じさせてはいけないクラブであるはずだ。代表で遠藤や守田らと共闘した佐野は高い意識を率先して示していくべき。今回の0-3の敗戦、川崎戦16戦未勝利という悔しい結果をレベルアップの糧にしなれば意味がない。本人もそう強く感じているはずだ。
「今日は全ての面で相手の方が上だった。試合の流れだったり、『ここは負けちゃダメだ』っていう時、流れを渡したくない時の球際やセカンドボールはもっと考えないといけない。流れを読む力が大事だと思います。
ホントに今の自分自身は改善の余地しかない。1年間、いろんな課題に取り組んできましたけど、最後の最後にこういう試合をしてしまっている現状は納得いくものではない。サポーターのみなさんには申し訳ないですし、残り1試合で勝ちを届けたいと思います」
毅然と前を向いた佐野。中盤の要である彼がしっかりとゲームコントロールしていかなければ、未勝利のまま2023シーズンが終わることにもなりかねない。
とにかく彼には鹿島唯一の代表選手としての意地とプライドを示し、チーム浮上の原動力になってほしいものである。
(取材・文:元川悦子)
【了】
◆佐野海舟が自覚する「足りないもの」。勝てない鹿島アントラーズの不名誉な事実【コラム】(フットボールチャンネル)