かつては「新人賞」と呼ばれ、2010年からは対象条件と名称が変更された「ベストヤングプレーヤー賞」。今シーズンのJリーグアウォーズでそれを受賞したのは、プロ2年目の19歳、鹿島アントラーズの荒木遼太郎だった。
狭いスペースにおける繊細なボールタッチとクイックネス。自らゴールを決める能力とラストパスを供給するセンスも兼ね備える荒木は、リーグ戦で36試合に出場してそのうち27試合に先発。プレータイム2291分で10得点7アシストを記録した。
コロナ禍により昨シーズンから10代の選手の台頭が目立つJリーグのなかでも、これだけのパフォーマンスと結果を残した荒木がベストヤングプレーヤー賞に選ばれたことに、もはや異論はないだろう。先日発表された森保ジャパンのメンバーに唯一10代の選手として選出されたことが、その活躍ぶりを証明している。
いまや明るい未来しか見えない荒木だが、あらためて過去のベストヤングプレーヤー賞の受賞者を振り返ってみても、いかにこの賞がその選手の将来に向けた"保証書"になっているかがよくわかる。
たとえば2010年以降の受賞者で、日本代表キャップを記録していない選手は2名のみ。2014年に外国人選手として初めて受賞したカイオ(鹿島アントラーズ/シャールジャ)を除けば、昨シーズンの受賞者の瀬古歩夢(セレッソ大阪)だけだ。
ただ、その瀬古は今夏の東京五輪メンバーでもあるうえ、今回の日本代表メンバーにも名を連ねている。A代表デビューは時間の問題で、つまりベストヤングプレーヤー賞は日本代表への架け橋とも言えるだろう。
さらに言えば、この賞の受賞者は例外なくその後に海外へと羽ばたいており、その面々は豪華絢爛。そういう意味では、「海外移籍の切符」にもなっているのだ。
まず2010年の受賞者である宇佐美貴史(ガンバ大阪)は、ドイツの"名門中の名門"バイエルン・ミュンヘンから声がかかった。翌年6月には買い取りオプションつきのローン移籍を果たし、そのキャリアを大きくステップアップさせている。
【名門アーセナルが白羽の矢】
残念ながら、当時まだ10代の宇佐美がバイエルンで活躍することはできなかった。だが、翌シーズンにホッフェンハイムで20試合2ゴールを記録。一旦古巣G大阪に戻ったあとにも再び2016年からドイツに行き、アウクスブルクとデュッセルドルフで計3シーズンにわたってプレーした。
2011年の受賞者となった酒井宏樹(柏レイソル/浦和レッズ)も然り。その翌年の夏にドイツのハノーファーに完全移籍すると、2016年夏からフランスの名門マルセイユでレギュラーとして活躍。計9シーズンの間、ドイツとフランスで実績を積み、現在も日本代表で不動の右SBとして君臨する。
2012年、2013年の受賞者である柴崎岳(鹿島アントラーズ/レガネス)と南野拓実(セレッソ大阪/リバプール)も、今や森保ジャパンの主軸だ。
現在スペイン2部レガネスでプレーする柴崎が海外移籍を果たしたのは、2017年1月のこと。テネリフェに移籍した当初は環境適応に苦しんだものの、その年の夏にはヘタフェに完全移籍し、ラ・リーガ1部を経験。現在に至るまで、スペインでプレーを続けている。
一方の南野は、2015年1月にオーストリアのザルツブルクに完全移籍。足掛け6シーズンにわたって実績を積んだあと、2019年12月にイングランドの名門リバプールに完全移籍を果たした。選手層の厚いヨーロッパ屈指の名門では出場機会に恵まれずにいるが、昨シーズン途中にローン移籍したサウサンプトンでの実績を含め、プレミアリーグに足場を固めるまでにキャリアアップを遂げている。
カイオを挟んで2015年にベストヤングプレーヤー賞を受賞した浅野拓磨(サンフレッチェ広島/ボーフム)は、翌2016年7月にイングランドの名門アーセナルに完全移籍し、そのままドイツ2部シュトゥットガルトにローン移籍。その後、ハノーファー、パルチザン・ベオグラードで実績を積んでから、今夏にドイツに復帰。現在はブンデスリーガのボーフムでプレーしている。
【オランダ移籍で右肩上がり】
2016年受賞者の井手口陽介(ガンバ大阪)も、2018年1月にイングランドの古豪リーズ・ユナイテッドに完全移籍した。そのままスペイン2部クルトゥラル・レオネサにローン移籍し、翌シーズンにはドイツ2部グロイター・フュルトに所属。思うような成績を収められずに帰国したが、海外移籍のチャンスを手にしたことに違いはない。
そして2017年から2019年にかけて受賞した中山雄太(柏レイソル/ズヴォレ)、安部裕葵(鹿島アントラーズ/バルセロナB)、田中碧(川崎フロンターレ/デュッセルドルフ)は、これからの日本代表の将来を担うにふさわしいタレントたち。それぞれヨーロッパの舞台で現在も足固めをしている。
とりわけ2019年1月にオランダのズヴォレに移籍した中山は、着々と実力をつけて右肩上がりに成長中。所属クラブで主軸を担い、東京五輪の舞台を経て、現在は日本代表の左SBのスタメンを奪取しそうな勢いだ。
バルセロナBでプレーする安部はケガがちなのが気になるが、今夏の東京五輪後にデュッセルドルフ(ドイツ2部)にローン移籍を果たした田中も奮闘中で、こちらは日本代表のスタメンの座を確保しつつある状態。その才能からすれば、今後の飛躍も大いに期待できそうだ。
そうなると、当然ながら2020年受賞者の瀬古と今回の荒木にも、海外移籍の扉が近いうちに開かれると見ていいだろう。もちろんその先は本人次第ではあるが、海外クラブのスカウトや代理人たちが触手を伸ばすことはほぼ間違いないはずだ。
毎年のJリーグアウォーズで選出されるベストヤングプレーヤー賞は、まさしく海外移籍への切符と言っても過言ではない。この賞の受賞者たちのキャリアの行方は、そういう意味でも注目に値すると言えるだろう。
◆ベストヤングプレーヤー賞は海外移籍への切符。2020年・瀬古歩夢、2021年・荒木遼太郎も続くか(Sportiva)