「自分たちのサッカーができなかった」
「自分たちのサッカーをすれば勝てる」
今、本田、香川、岡崎ら攻撃陣を中心に、選手の多くが口にする言葉だ。彼らの言う「自分たちのサッカー」とは、ボールを支配し、チャンスを多くつくり出す攻撃的なサッカー。この4年間、その信念の元にチームづくりは進められ、23人の選考もそれに添ったものとなった。
ただ、今、チーム内に漂う「自分たちのサッカー」への過度な意識付けは、守備的に戦い逆転を許したコートジボワール戦の“トラウマ”に対する反動のようにみえる。それに気付き、遠回しながら警鐘を鳴らしている選手がいる。内田だ。
「自分たちのサッカーをさせてくれないレベルの相手がいる。W杯で勝つのが目標なのか、自分たちのサッカーができればOKなのか。それはもう、人それぞれの考え方。日本で見てる人はどう思うのかな」。そう疑問を呈した。ただ内田自身の考えを問われると、「オレ? 秘密。逃げるようだけど、今は大事な時期だからあんまり…」と言葉を濁した。
内田には「自分たちのサッカー」よりも大切なものが見えている。だが今それを口にすれば「とにかく攻撃」でまとまったチームの方向性がぶれる。ただ、こうも言った。「変に勘違いしちゃいけない。引くことを悪いと思われたくない。そういう時間帯は絶対にあるし、使い分けだから」
内田の真意のヒントは、ギリシャに3-0で完勝したコロンビアの試合運びにあった。ボール支配率は46%、シュート数は同数の12本。それでも攻めるべきとき、守るべきときをわきまえ、効果的に加点した。先制点以降の85分間、主導権を握り続けた強さは際立っていた。
W杯は美しさを競う場ではない。「自分たちのサッカー」よりも大切なものは、まず勝利、次に主導権を握ることだ。ボール支配や攻撃的なスタイルにとらわれすぎれば、その優先順位を見失う。内田が言葉に出さなかった警鐘。その答えは運命の第2戦で出る。
(宮崎厚志)