日刊鹿島アントラーズニュース

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2018年8月1日水曜日

◆鹿島・昌子源インタビュー<後編> 「あれがもう二度と起こらないように」(Sportsnavi)



昌子源 Gen.Shoji


 ピッチに拳をたたきつけ、まるで己を呪うかのように悔しがる昌子源の姿が焼き付いている。日本初のベスト8進出を懸けて挑んだワールドカップ(W杯)ロシア大会のベルギー戦。2点を先行しながらも追いつかれた日本は、試合終了間際に鮮やかなカウンターを見舞われ、2−3で敗れ去った。


 その攻撃を必死で追いかけた昌子は、届かなかった「あと50センチ」を悔やみ、怒りの矛先を自分自身に向けた。あと一歩だったが、それでいて大きくもあった世界との差を、彼はどのように感じたのだろうか。そして鹿島アントラーズでさらなる成長を期す彼は今、何を思うのか。(取材日:2018年7月23日)


「少なからず次のことを考えてしまった」





――ラウンド16のベルギー戦は、後半立て続けにゴールを決めて、日本が2点を先行する展開になりました。


 2−0になった時点で、僕らが3点目を奪うことは難しいかもしれないと、気持ちを引き締めました。ここからは僕ら守備を担う選手たちの仕事やなと。だから、正直、2点目はあまり喜べなかったんです。むしろ、ここからは本気のベルギーを相手にすることになるんだろうなと……。


 2点目を奪った瞬間、僕は少なからず、次のことを考えてしまったんですよね。試合後に他の選手とも話しましたが、やっぱり次のことを考えてしまった人は多かった。それはきっと、日本国民のみなさんも同じだったのではないかと思います。でも、それがちょっとした隙を生んだと思います。ピッチの中では「2−0のスコアが一番怖いぞ」「1点取られたら相手が勢いに乗るぞ」という話もしていた。だから「さらに集中しよう」ということも言っていた。それなのに、1失点目を後半24分に奪われてしまった。それがきっと隙だったのではないかと思うんです。失点する時間帯が早すぎて、ちょっと嫌だなって思ったことを覚えてますね。


――カウンターを筆頭に、ベルギーはいくつもの戦い方を持っていました。


 W杯の試合はいろいろと見ましたが、ドイツやスペインをはじめ、いわゆる強豪と呼ばれるチームが苦戦した中で、ベルギーは彼らよりも格下と見られるチュニジアに対してボール支配率でほぼ互角だったりするんですよね。だけど、結果は5−2で圧勝。明らかに技術で劣る相手に対しても、ボールを持たせてカウンターで仕留める術(すべ)を持っていました。実際、僕らもボールを持てる時間は多かったですからね。他の強豪チームとはちょっと違いました。でも、どこかボールを“持たされている”感覚もあって、それでいて前線には(ロメル・)ルカク選手、(エデン・)アザール選手、(ドリース・)メルテンス選手の3人が残っている。後ろの選手としては警戒していたし、怖かったですね。


――後半24分の1失点目も、後半29分の2失点目もセットプレーの流れからでした。


 1失点目に関しては、相手(ヤン・ベルトンゲン)が狙ったかどうかは分からないですが、それまであった決定的なシュートが入らないのに、そうした失点で流れを相手に渡してしまった。防げそうで防げない失点でしたけれど……。


――ラウンド16のベルギー戦は、後半立て続けにゴールを決めて、日本が2点を先行する展開になりました。


 2−0になった時点で、僕らが3点目を奪うことは難しいかもしれないと、気持ちを引き締めました。ここからは僕ら守備を担う選手たちの仕事やなと。だから、正直、2点目はあまり喜べなかったんです。むしろ、ここからは本気のベルギーを相手にすることになるんだろうなと……。


 2点目を奪った瞬間、僕は少なからず、次のことを考えてしまったんですよね。試合後に他の選手とも話しましたが、やっぱり次のことを考えてしまった人は多かった。それはきっと、日本国民のみなさんも同じだったのではないかと思います。でも、それがちょっとした隙を生んだと思います。ピッチの中では「2−0のスコアが一番怖いぞ」「1点取られたら相手が勢いに乗るぞ」という話もしていた。だから「さらに集中しよう」ということも言っていた。それなのに、1失点目を後半24分に奪われてしまった。それがきっと隙だったのではないかと思うんです。失点する時間帯が早すぎて、ちょっと嫌だなって思ったことを覚えてますね。


――カウンターを筆頭に、ベルギーはいくつもの戦い方を持っていました。


 W杯の試合はいろいろと見ましたが、ドイツやスペインをはじめ、いわゆる強豪と呼ばれるチームが苦戦した中で、ベルギーは彼らよりも格下と見られるチュニジアに対してボール支配率でほぼ互角だったりするんですよね。だけど、結果は5−2で圧勝。明らかに技術で劣る相手に対しても、ボールを持たせてカウンターで仕留める術(すべ)を持っていました。実際、僕らもボールを持てる時間は多かったですからね。他の強豪チームとはちょっと違いました。でも、どこかボールを“持たされている”感覚もあって、それでいて前線には(ロメル・)ルカク選手、(エデン・)アザール選手、(ドリース・)メルテンス選手の3人が残っている。後ろの選手としては警戒していたし、怖かったですね。


――後半24分の1失点目も、後半29分の2失点目もセットプレーの流れからでした。


 1失点目に関しては、相手(ヤン・ベルトンゲン)が狙ったかどうかは分からないですが、それまであった決定的なシュートが入らないのに、そうした失点で流れを相手に渡してしまった。防げそうで防げない失点でしたけれど……。


ピッチに立った者にしか分からない感覚





――マルアヌ・フェライニ選手が投入されて、ベルギーが高さを生かそうとしているのが分かっていた中での2失点でした。


 2失点目以降の戦い方については、これは何人かの選手とも試合後に話しましたけれど、延長になったら僕らは負けるだろうなという感覚がありました。選手層の厚さもそうですし、延長になればもう1人交代できるというルールも分かっていて、PK戦まで持ち込むのはちょっと厳しいなという思いがありました。


 そうなると、僕らは90分で決着をつけなければならない。みんながそう思っていたから、(本田)圭佑くんも直接FKを狙ったし、(3失点目のきっかけとなった)CKもクロスを上げた。もちろん、後ろには3人が残って3対2の状況にしてリスク管理もしていたから、僕も(吉田)麻也くんも(相手ゴール前に)上がった。勝ちにいこうとした中で食らったカウンターだったし、だから僕はCKで上がったことに関しては後悔していません。


――延長に持ち込めば、という意見もありましたが、ああしてカウンターから3失点目を喫したのも結果論ですからね。


 そうなんですよ。すべて、たらればになってしまいますが、延長戦に突入していたら2−5で負けていたかもしれない。対戦している僕らには、それくらい相手が余力を残しているように見えた。僕らは死闘だと思っていたけれど、ベルギーからしてみたら違ったかもしれない。だから、ベルギーは準々決勝でブラジルを圧倒できたのかもしれないし。ブラジル戦を見て、僕らとやったときのベルギーは本気じゃなかったのではないかとすら思いました。この思いや感覚、景色は、あのピッチに立っていた自分たちにしか分からないかもしれない……。


――3失点目。カウンターを受けた場面を振り返ってもらえますか?


 あの場面、確か93分くらいですよね。その時間帯で、(トーマス・)ムニエ選手、(ケビン・)デ・ブライネ選手、アザール選手は、90分をフルに出ていた選手のスピードではなかった。その時点で、彼らにはまだ余力が残っていたということが1つ。もう1つは途中出場した(ナセル・)シャドリ選手のスピードもまた規格外だったということ。さらに圧巻だったのは、ルカク選手がゴール前で見せたスルー。普通に考えれば、エースストライカーが格下の日本を相手に無得点というのは不覚やったと思うんです。だから、普通のエースストライカーならば、あの場面では強引にでもシュートにいきたかったはず。それなのに、ルカク選手はチームの勝利を優先した。あれは他の国のエースにもできないプレーじゃないかと思います。


――懸命にデ・ブライネ選手、そしてシャドリ選手の後を追う昌子選手の姿が目に焼き付いています。


 僕もいまだに焼き付いていますよ。だから、あれがもう二度と起こらないように、Jリーグでも代表でも、その一歩、あの一歩が届くようにプレーしていければと思っています。それは単純に足が速くなればいいという話ではなく、僕があのカウンターに1秒でも早く気が付いていたら、たぶん間に合っていたと思いますし、世界との差はそういうところなのかなとも思います。


 それと、たぶんベルギーも次を見据えて90分で決着をつけようと思っていたんでしょうね。延長でもいいと思っていたら、(ティボー・)クルトワ選手はCKをキャッチした後、しばらく時間を稼いだと思うんです。それを猛然とペナルティーエリアぎりぎりまでダッシュして、周囲をキョロキョロと見渡した。それにデ・ブライネ選手がすぐに反応した。おそらくあのとき走っていた選手たちには、同じ絵が描けていたと思います。しかも、そのスイッチを入れたのがGK。やられた自分が言うのもあれですけど、ホント、完璧でしたよね。


「自分はこのW杯に懸けていた」




――試合終了のホイッスルが鳴り、ピッチをたたくように悔しがったときに思ったことは?


 自分へのいらつき……悔しさを通り越して、いらついたというか……自分がふがいなさすぎて。その心情は、今まで味わったことのないものでした。試合が終わって、シャワーを浴びて、ミックスゾーンに行かなければならなかったんですが、そのときに「なんで、こんな悔しい思いをしてまで、サッカーをやらなければいけないんやろう」とすら思いました。「人生において、こんな悔しい思いをするなら、サッカーなんてやらなければいいんやないか」って。それだけ自分はこのW杯に懸けていたんだなって。だから、すぐに次の4年後のことなんて考えられませんでした。


――あらためて感じた世界との差とは?


 ナオ(植田直通)や(遠藤)航がヨーロッパに行ったことはすごくいいことだと思います。日本が世界の舞台で得点できることを証明した今、さらに強くするためには、センターバック(CB)が海外に行くのは良いことだというのも分かる。でも、海外に行けば何でも強くなれるかと言ったら、決してそうではない。海外に行っても試合に出られなければ、うまくなれる保証はないわけですから。


 でも、きっと試合に出られれば間違いなく成長する。実際、ナオは日本を強くするために海外へ行ったわけですから、自分もいろいろと考えますよね。その一方で、4年後に、絶対に自分が(W杯に)出られるかというのは全く別の話。そのときに一番良い選手が出るべきで、もちろん自分ももう一度出たいですけど、そこは紙一重。帰国してからも、いろいろな人に「4年後、期待しています」と言ってもらえてうれしかった。でも、今はまだ4年後は考えられないくらい悔しさが残っています。


鹿島で学んで培ってきたこと





――一方で、Jリーグで培ってきたものが出せたところもあったのでは?


 実は、フェライニ選手にヘディングで決められたベルギー戦の2失点目。あの場面で、僕1人だけ、ラインを上げているんですよね。それは事前に、相手がちょっとしたバックパスや後ろ向きになったら、1メートルでもいいからラインを上げようという話をしていたからなんです。(吉田)麻也くんや、ハセさん(長谷部誠)ともそういう話をしていました。


 でもあの場面では、自分が一番前に出たので後ろは見えていないんですけれど、クロスが上がる前に誰もラインを上げていなかった。もし僕と同じラインにみんながいたら、フェライニ選手はオフサイドやったんですよ。彼とスタンディングで勝負したら、まずその高さには勝てない。だからこそ、僕らが勝負するのは、ラインの上げ下げだったり、そういうところなのではと思うんですよね。


 このことは誰とも話していないんですけれど、何が言いたいかというと、もしあの場面で、僕1人が残っていて、他の全員がラインを上げていたとしたら、僕は明日にでも海外に行っていると思います。実際、自分がフェライニ選手についていたわけではないので、マークしていたらどうだったか。これも結果論でしかないですけれど、あの場面で逆の状況だったら、CBとして国内と世界の差を痛感していたように思います。


――それだけJリーグでプレーしていても成長できるという証しですよね。


 僕は、Jリーグで、鹿島で学んで培ってきたことをそのままW杯のピッチで出しただけですからね。僕は日本でプレーして、日本で成長したからW杯でプレーできたところもあるのに、日本を、Jリーグを、そして鹿島を否定されるようなことがあれば、それは悲しい。今回、ヨーロッパのクラブからオファーをもらいました。でも、満さん(鈴木満強化部長)からは「お前の代わりはいない」「お金じゃないんだ」「それくらいお前は鹿島にとって大切な選手なんだ」と言われて、すごくうれしかったですし、いろいろなスタッフからもそう言ってもらいました。


 ヨーロッパでプレーしたい気持ちもあるけれど、CBというポジションの難しさや、クラブの事情も分かる。何より鹿島への愛着もあるし、鹿島の熱意と誠意も感じた。だから、僕は今、鹿島の選手であることに変わりはないですし、そうである以上、目の前の1試合、1試合を全力でプレーする。海外でプレーできないからと言って、モチベーションを下げるようなことはありません、と満さんには伝えました。


――J1も再開しました。最後にリーグ後半戦に向けての意気込みを聞かせてください。


 リーグ戦において、鹿島はここにいる順位のチームではないと思います。(準々決勝を控えた)ACL(AFCチャンピオンズリーグ)もありますし、今シーズン無冠というわけにはいかないので、その力になりたいと思っています。


 それと、リーグ全体を見れば、(アンドレス・)イニエスタ選手やフェルナンド・トーレス選手が加入したのはうれしいこと。ただ、Jリーグにしても彼らを連れてくることだけが目標ではないと思うし、そうした選手が苦戦するようなリーグにしていかなければならないとも思っています。だから、今いるJリーグの選手たちは遠慮せず、彼らにガンガン当たっていけばいいと思う。だって、イニエスタ選手にしても、トーレス選手にしても、レアル・マドリーのセルヒオ・ラモス選手に散々やられているわけですから(笑)。Jリーグにも手ごわい選手がたくさんいるんだということを示したいです。




鹿島・昌子源インタビュー<後編>「あれがもう二度と起こらないように」




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