上田綺世がベルギーリーグで奮闘している。昨夏加入したセルクル・ブルージュでここまで10得点を挙げているが、「求められることとの相違」を感じているという。サッカー日本代表で悔しさと危機感を感じたストライカーは、ベルギーで何を感じているのだろうか。(取材・文:元川悦子【ベルギー】)
上田綺世がサッカー日本代表で感じた悔しさ
昨夏に鹿島アントラーズからベルギー1部のセルクル・ブルージュへ移籍した上田綺世は、ワールドカップ(W杯)までに7ゴールを決めた。「Jリーグで20点取って得点王になったとしてもW杯に出られるわけではない。海外でも活躍できるクオリティーがないと活躍できない」と言い切り、リスク覚悟で選択した海外挑戦で明確な結果を残し、日本代表26人の1人として名を連ねた。
しかしながら、本大会での出場はコスタリカ戦前半の45分間だけ。
「初めてのW杯でもちろん緊張しましたし、その緊張感の中で活躍したかった。相手が中を締めて統一感を持って徹底してやってきたので、僕たちはちぐはぐしてしまった。自分自身はクロスからもそうですし、一度壁になってもう一度、動き直してというイメージはしてましたけど、相手の守備が固くてそう簡単にはいかなかった」と本人はまさかの敗戦後に悔しさをにじませていた。
あれから3カ月。上田はベルギー1部・プレーオフ(PO)圏内を目指して奮闘している。目下、セルクル・ブルージュは26試合戦って8位。8位までがプレーオフに進むことができる者の、前後の勝ち点が詰まっているため、決して楽観できない状況だ。
「このクラブは昨季の10位がベストというのを聞いているので、POに入れたらいいし、1つでも高い順位で終われたらいいのかなと思います」と背番号39をつける男は1試合1試合に勝負をかけている。
ベルギーで抱える複雑な感情
その上田だが、後半戦に入ってさらに3ゴールを重ね、すでに得点数を2ケタとしている。その実績は高く評価すべきだが、託されているポジションは3-4-2-1の左シャドー。鹿島や日本代表で主戦場にしてきた1トップを担えていない現状には複雑な感情もあるという。
「9番(センターフォワード)をできていないのは、やっぱり体の強さとか、求められることとの相違とか、いろんな要素があると思います。試合には出られているものの、自分のベストポジションではないという事実があるので、その中で自分が身に着けられるものを身に着けたり、FWだったら分からないサッカー観にどんどんトライしていこうと考えてます。
最終的にはやっぱり9番をやりたいというのはあるので、そこの感覚をなくさないように動き出しとかゴール前に入るタイミングだとかにはこだわり続けています。自分はどのポジションをやっていてもFWだと思ってるんで、そこは忘れないようにしています」と彼は今の環境下でできるFWとしての成長や進化に注力しているという。
そういった思いがあるのも、やはりカタールW杯での悔しさによるところが大きい。同じ東京五輪世代の三笘薫や堂安律らが世界の舞台で結果を出す姿を目の当たりにして、「早く彼らと同じ領域に達しないといけない」という危機感が強まったようだ。
「あれしかできなかった」ワールドカップで募った危機感と刺激
「W杯で世界基準が分かったというよりは、どっちかというと、日本代表で活躍する薫君や律といった同じ世代の選手が欧州5大リーグのトップトップでやっているという事実に刺激を受けました。ああいうところで常に戦っている選手は、W杯のような大舞台でも違いを出せる。世界の相手との差というよりも、むしろ同じチーム内の選手との差を僕は感じたんです。
実際、自分はコスタリカ戦しか出られなかったし、その試合でもあれしかできなかった。コスタリカ戦でできなかった自分がドイツやスペイン戦に出ていたら何ができたんだろう…という考えもあります。
僕にとっては薫君や律、(田中)碧のような選手が同世代にいることが幸せ。彼らは自分よりも早く海外に来て、もがいて、今の地位を築いた。W杯の時にはそのことがすごく伝わってきました。そんな彼らをリスペクトしていますし、自分も今のセルクル・ブルージュでつねに自分自身を向き合い、アップデートをしていかないと。そう強く思っています」
上田は改めて本音を吐露する。彼自身もリスクを冒してベルギーに赴いたが、三笘や堂安、田中碧らはもっと早くから困難な環境に身を投じ、異なるサッカー文化や考え方の違いに適応し、少しずつ実績を積み上げてきたのだ。ベルギーに渡ってからの7~8カ月間、異なるポジションでの起用、自分がほしいタイミングでボールをもらえないジレンマ、ぬかるんだピッチでのボールコントロールの難しさなど、Jリーグ時代にはなかった数々の出来事に直面してきた上田だからこそ、同世代の欧州組の実情がよく分かるはず。だからこそ、「彼らと同じ土俵に上がりたい」という思いを強めたに違いない。
上田綺世の野望と願い
過去にもベルギーからは遠藤航がシュツットガルト、伊東純也がスタッド・ランスに引き抜かれ、鎌田大地がフランクフルトへのローンバックに成功した。目覚ましい数字と活躍を見せていれば、欧州5大リーグへの道は確実に開けてくる。すでに今季10ゴールをマークしている上田の存在も徐々に知られ始めているはず。最終的にPOに進出し、さらにゴール・アシストを重ね、攻守両面でハードワークを続けていれば、今年の夏には彼の願いが叶うかもしれない。
そこで1つ気になるのはポジションだ。日本人FWはなかなか最前線で起用してもらえないという現実がこれまでも多かったからだ。大迫勇也にしても、ケルン時代はボランチやサイドに入るケースがあったし、ブレーメンではトップ下が主戦場になっていた。最前線で明確な結果を残したのは、マインツ、レスター時代の岡崎慎司くらいだろう。
それだけ日本人が9番の役割を担うというのはハードルの高いこと。今は左シャドーでプレーの幅を広げている上田には、ぜひともその高い壁を打ち破ってほしい。それができれば、確実に日本代表エースの座をつかめるはず。その時期は早ければ早いほどいい。そういった未来像を見据えつつ、彼はセルクル・ブルージュでできることを全てやりきることが肝要だ。
「僕はずっと前に言ってたんですけど、アジア人としての壁を越えたい。アジア人という枠で見られたくないっていうのがあって、それをやっぱり成し遂げる1人でありたい。日本人としての価値を引き上げたらいいのかなと思います」と目をギラつかせた上田。彼が「日本人FW」「アジア人FW」という枠組みを超える日を楽しみに待ちたい。
(取材・文:元川悦子【ベルギー】)
◆上田綺世がベルギーで吐露する本音。日本人FWの壁と「あれしかできなかった」W杯【現地コラム】(フットボールチャンネル)