選手たちが今季終盤の戦いに集中できるような環境作りを進めていくことは、今の鹿島にとって最重要テーマ。そのうえで、彼らは2025年以降のベストな陣容も考えていくことが肝要だ。中後監督が継続するのか、OBの鬼木達監督(現川崎)やパリ五輪代表を率いた大岩剛監督らを招聘するのかは未知数だが、監督をコロコロ変えていたらチームの強固な基盤は築けない。過去5年間で5人も監督が代わったことを踏まえ、彼らは同じことを繰り返してはいけないのだ。
◆【ポポヴィッチ監督&吉岡宗重FD解任。名門・鹿島に走った激震の内幕】(サッカー批評)
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新潟戦4-0圧勝翌日の電撃発表。選手から出た「相手に戦い方を研究されている」と、発表された新人事(サッカー批評)
5日のJ1第33節・アルビレックス新潟戦で4-0と圧勝し、リーグ7試合ぶりの白星を飾った鹿島アントラーズ。その翌6日の夕方、「ランコ・ポポヴィッチ監督とミラン・ミリッチ・コーチを解任し、吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)も双方合意のもと退任することになった」という公式リリースが一斉に流れ、日本サッカー界に激震が走った。
33試合を終えた時点で鹿島は勝ち点53の4位。首位を走るサンフレッチェ広島とは13ポイント差で、残り6という試合数を考えると、リーグタイトル獲得はかなり険しくなった。
すでにYBCルヴァンカップ、天皇杯を落としている彼らにとって、J1リーグ戦は最後の砦だった。それも難しくなったことで、「国内タイトル8年無冠」が現実になりつつある。今季就任したポポヴィッチ監督と吉岡FDに求められたのはタイトルという結果だけ。その目標達成が困難になり、一気に責任問題が表面化したのだろう。
今季のここまでの戦いを振り返ってみると、序盤は柴崎岳の長期離脱というアクシデントに見舞われながら、知念慶のボランチコンバートという新たな試みが成功。大卒新人の濃野公人のブレイク、昨季まで出たり出なかったりだった名古新太郎、師岡柊生らの成長も追い風になり、19試合終了時点では勝ち点37の2位につけていた。
トップの町田ゼルビアとは2ポイント差。折り返しの段階では十分に優勝を狙える位置にいた。吉岡FDも「2位というのは今後の伸びしろを含めてまずまずというところ。監督が変わり、新体制でスタートしたチームとしては悪くない位置にいると考えている」と前向きに語っていた。
「攻撃面では(鈴木)優磨1人だけに頼ることなく、いろんな選手が関わってゴールできる集団になってきた。一方でゲームコントロールという課題に直面した。勝てる試合を勝ち切れないのはチームとして大きな課題」とも指摘。勝負強さを磨き上げていけば、後半戦により一層、勝ち点を上積みして、最終的には頂点に立てるという目算がある様子だった。
■選手から出た「相手に戦い方を研究されている」
ところが、佐野海舟(マインツ)が移籍し、8月に知念が約1か月間離脱したことで、中盤の守備力が目に見えて低下した。加えて、鈴木優磨に代わる得点源として期待されていたチャヴリッチも長期離脱。8月以降の鹿島は同じような陣容が続き、代わり映えのしないゲームを繰り返すことになった。
早川、濃野、植田直通、関川郁万、安西幸輝の守備陣は固定で、連戦になると疲労困憊に。「相手に戦い方を研究されている」と多くの選手が口を揃えたように、濃野も前半戦のようにゴールが奪えなくなった。鈴木優磨へのマークも厳しくなり、得点の形を作るのが容易ではなくなった。
それ以外にも、選手層の薄さ、チャヴリッチとターレス・ブレ―ネル以外の外国人が適応の遅れ、柴崎岳の不調といった問題点も散見され、ポポヴィッチ監督も有効な策を見いだせないまま、時間だけが過ぎていく形になってしまった。
彼らにとってダメージが大きかったのは、J2降格危機に瀕しているジュビロ磐田、湘南ベルマーレ、今季昇格組の東京ヴェルディに苦杯を喫し、苦境に瀕している浦和レッズや柏レイソルにもドローとポイントを稼げなかったこと。9月25日の天皇杯準々決勝では神戸戦に力の差を見せつけられ、0-3で完敗。これも指揮官解任・FD更迭の流れに拍車をかけたではないか。
■発表された新人事
さらに追い打ちをかけるように、濃野が右ひざを負傷。今季絶望と見られる大ケガを負った。そこでポポヴィッチ監督は前日の新潟戦で鹿島伝統の4バックではなく3バックを採用。新たな活路を見出したと思われた。そんなタイミングだったからこそ、指揮官とFDの更迭というのはショッキング。多くの関係者やサポーターも「なぜ今なんだ」という疑問を抱いたことだろう。クラブ側にその説明責任があるのは間違いない。
ただ、いずれにしても、今の鹿島はまだAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場圏内の3位以内を狙える位置にいる。3位・町田との差は6で、12月8日に最終節に直接対決が残っていることを考えると、まだまだ目標が完全になくなったわけではない。
クラブは10月の代表ウイーク期間中に新たな人事を発表。中田浩二強化担当の新FD抜擢、中後雅喜コーチの監督就任、本山雅志アカデミースカウトと羽田憲司・パリ五輪代表コーチのコーチ就任が決まった。これが選手・サポーターの動揺を最小限にとどめる道筋になるのか。まずはそこに注目したいものである。
(取材・文/元川悦子)
(後編へつづく)
10月の代表ウイークに突入し、7・8日にオフを取っている鹿島アントラーズ。9日からラスト6戦に向けて再始動する予定だったが、8日夜の時点でもまだ新体制の発表がなく、周囲をやきもきさせていた。
一部メディアでは、中後雅喜コーチが暫定的に指揮を執り、中田浩二強化担当がFDに昇格するという報道が流れていたが、その方向で本決まりになった。9日朝には中後監督、中田FDの就任が正式発表され、さらに本山雅志・羽田憲司両コーチの入閣も明らかにされた。まさに圧倒的強さを誇った2000年代を知るOBをズラリと並べた人事ということになる。
「クラブは本日から中後雅喜監督、本山雅志コーチ、羽田憲司コーチ、強化責任者に中田浩二FDという体制で新たなスタートを切ります。まずは、今シーズンのリーグ戦残り6試合をクラブ一丸となって戦い、勝利のため、選手の力を最大限発揮させることに集中していきます。
また、中長期的な視点に立った強化戦略が求められていることも理解しており、強化部門の先頭に立つ中田FDをしっかりとサポートするとともに、勝利を追求するという伝統を守りながら、チームを成長、発展させていく必要があります」と小泉文明社長はコメントを出しているが、本当に長期的ビジョンで強化体制をテコ入れできるのか。まさに鹿島は大きな岐路に立たされていると言っていい。
■求められる現場の陣容の整理と修正
ただ、鹿島やセレッソ大阪、松本山雅など複数クラブで指導し、パリ五輪代表でも修羅場をくぐってきた羽田コーチ以外はみな経験不足なのは紛れもない事実だ。
まず中後コーチは昨年、JFA公認S級ライセンス講習会を受講したばかり。2018年から東京ヴェルディのアカデミーで指導はしていたものの、トップチームの指導に携わるのは今年が初めて。そういう人材にいきなり指揮官を任せるのは「ハードルが高い」と見る向きがあるのも当然だ。
鹿島は2022年にもレネ・ヴァイラー監督(現セルヴェット)更迭直後、プロチームを率いたことがなかった岩政大樹監督(前ハノイFC)の昇格に踏み切っている。その結末はご存じの通り、わずか1年半での事実上の解任。最終順位は5位と傍目から見ると悪くなかったが、岩政監督は無冠の責任を追うことになった。
この時、「OBの使い捨てはやめてほしい」といった声がSNS上でも数多く散見されたが、中後コーチが同じ道を辿るようなことがあってはならない。いかにして現場の陣容を整え、修正を図っていくのか。まだAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を目指せる位置にいる今だからこそ、彼に託すもの、目標設定を今のうちに明確にしておく必要がある。
中田FDにしても、2014年限りで現役を退いた後、クラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)としてスポンサー、サポーター、行政機関などとクラブをつなぐ役割を担ってきた。本人もビジネス・マネージメント領域に進むつもりで、筑波大学大学院で学んだほどだ。
約10年間、現場に携わる意思はなかったようだが、吉岡宗重前FDに偏りがちだった強化部門のテコ入れ図るべきだと考えたクラブ側から昨年末に異動の話があり、本人も悩みに悩んだうえで受託した経緯がある。今季は強化担当として一歩を踏み出し、練習・試合に全て帯同し、チームの状態を逐一チェックしてきた。
そういう意味では、ランコ・ポポヴィッチ監督就任後のチーム状態を誰よりもよく分かっている人材と言えるが、いかんせん強化担当経験が少ない。そこには一抹の不安がないとは言い切れない。昨夏、鹿島入りした石原正康氏、今年から加わった山本修斗氏とともに「組織力」で苦境を乗り切っていくべきだ。
■「鹿島の存在意義は勝利」
選手たちが今季終盤の戦いに集中できるような環境作りを進めていくことは、今の鹿島にとって最重要テーマ。そのうえで、彼らは2025年以降のベストな陣容も考えていくことが肝要だ。中後監督が継続するのか、OBの鬼木達監督(現川崎)やパリ五輪代表を率いた大岩剛監督らを招聘するのかは未知数だが、監督をコロコロ変えていたらチームの強固な基盤は築けない。過去5年間で5人も監督が代わったことを踏まえ、彼らは同じことを繰り返してはいけないのだ。
小泉文明社長は「鹿島の存在意義は勝利」としばしば語っているが、多くのサポーターからタイトルを求められ、それが叶わなければすぐに監督のクビを切るという悪循環を続ける限り、監督の引き受け手がなくなる恐れもある。クラブとしてこの先、どういう方向に進むべきなのかを今こそしっかりと考え、ビジョンを提示していくべきだ。
とにかく、モヤモヤ感の続く現状をいち早く打破し、クリアな状態にすることを多くの人々が強く求めている。それを小泉社長らクラブ幹部には今一度、強く認識してほしい。
(取材・文/元川悦子)