本命が浦和レッズ、対抗が鹿島アントラーズ、穴がガンバ大阪――。
昨シーズンの成績や戦力を踏まえると、これが今シーズンのJリーグの下馬評と言えるだろう。しかし開幕戦、3チームはいずれも勝ちきることができなかった。これには理由がある。
アジアチャンピオンズリーグ(ACL)を戦っている3チームは、どうしても消耗を余儀なくされる。肉体的だけでなく精神的にも、週2試合の日程(一つは国際大会)は厳しく、また、移動距離の長さや、気候変化の大きさも大きな問題だ。
「2チーム分作った」と豪語しても、そう割り切れるモノではない。欧州のビッグクラブのように、「主力選手が週2のスケジュールを戦い切れる」とならない限り、どうしても歪みは出てしまう。その意味で、ACLを戦う浦和、鹿島、G大阪、そして川崎フロンターレは下馬評を裏切る形で、不安定な前半戦を戦うことになりそうだ。
もっとも、開幕戦で敗れた浦和は地力も見せつけており、2節はセレッソ大阪に3-1と勝利し、しぶとく勝ち点を稼いでくるのは間違いない。鹿島も2節はヴァンフォーレ甲府にもたつきながらも勝利を収め、G大阪も同じく2節は柏レイソルを退け、帳尻は合わせてくるはずだ。
一方で低かった評価を覆しているのは、中村俊輔(現ジュビロ磐田)など主力の移籍で揺れた横浜F・マリノスだろう。
横浜FMは昨季と比較して、右サイドの連係のレベルダウンは激しい。GKもチームを救うビッグセーブがある一方、ふらふらと出たり、プレスに遭ってピンチを招いたり、安定感は失った。ただ、中村の抜けた穴は見えない。ウーゴ・ヴィエイラ、ダビド・バブンスキー、ミロシュ・デゲネクは外国人助っ人として及第点をつけられる。富樫敬真、天野純、喜田拓也らが台頭した。
なにより、齋藤学が「Jリーグの顔」とも言えるプレーを見せる。齋藤が左サイドでチーム戦術を引っ張ることで、攻守に好循環が生まれるのだ。
「高いレベルの競争がある」と2節の北海道コンサドーレ札幌戦でゴールを決めた富樫が語るように、チーム内にいい意味での緊張感がある。
そして「2試合で勝ち点1」とスタートは鈍いサガン鳥栖、サンフレッチェ広島だが、主力が揃ってくれば浮上してくるはずだ。
昨シーズン、鳥栖は戦術的に成長。イタリア人指揮官、マッシモ・フィッカデンティは守備のディテールにこだわってきた。攻撃を向上させる段階。鎌田大地は世界に打って出る素養を持っている。豊田陽平は高さ、強さ、駆け引きで異彩を放つ。
広島は守備が安定し、大崩れはない。「いい守備はいい攻撃を作る」というのは定石。青山敏弘、ミキッチ、フェリペ・シウバらパスの供給源は多く、開幕戦で得点を決めたFW工藤壮人がゴール量産体制に入っても不思議ではない。
序盤5試合で波に乗れるか。それはリーグ戦を戦う大事な要素と言える。しかし、タイトル争いは最後の5試合。そこまでどんなレースが繰り広げられるのか、目が離せない。
小宮良之
1972年生まれ。スポーツライター。01~06年までバルセロナを拠点に活動、帰国後は戦うアスリートの実像に迫る。代表作に「導かれし者」(角川文庫)、「アンチ・ドロップアウト」3部作(集英社)、「おれは最後に笑う」(東邦出版)など。3月下旬に「選ばれし者への挑戦状」(東邦出版)を刊行予定
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