日刊鹿島アントラーズニュース
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2016年4月23日土曜日
◆鹿島・永木、古巣に見せた“湘南スタイル”の片鱗。成長のために選んだ常勝軍団での挑戦(フットボールチャンネル)
http://www.footballchannel.jp/2016/04/22/post148775/
今シーズンから鹿島アントラーズでプレーするMF永木亮太。新天地でのリーグ戦初先発が情熱のすべてを注いできた古巣・湘南ベルマーレ戦で、ピッチも慣れ親しんだShonan BMWスタジアム平塚で巡ってきた4月16日のJ1ファーストステージ第7節。不思議な縁を感じながら、2得点に絡む活躍で3対0の快勝劇に貢献した。(取材・文:藤江直人)
湘南で培ったルーズボールへ寄せる力
タッチライン際に置かれた集音マイクが、湘南ベルマーレの曹貴裁監督の怒声を拾う。
「オイッ!」
ファウルじゃないか――。短い言葉に込められたアピールは村上伸次主審と、昨シーズンまで苦楽をともにしてきた愛弟子の永木亮太に向けられていた。
鹿島アントラーズが2点をリードして迎えた後半20分。自陣の右タッチライン際でボールを奪ったDF西大伍が、内側のスペースへボールを運ぼうと試みる。
ベルマーレのMF長谷川アーリアジャスールが、ボールを奪い返そうと長いリーチを伸ばしてくる。その股間を狙って出したパスがずれて、フォローしてきた永木の右側を通過していく。
体を反転させてスプリントを開始する永木。ルーズボールとの間合いを詰めてくるベルマーレのMF石川俊輝。状況にはほぼイーブンという位置関係で、前者が猛然とスライディングを仕掛けた。
伸ばした右足で先にボールをとらえたが、直後に石川の足も払う形で転倒させる。この瞬間に曹監督が両手を広げながらファウルをアピールしたが、村上主審はホイッスルを吹く素振りも見せない。
倒れ込んだ体勢から、永木は右足でボールをかき出すようにしてMF遠藤康へパスを送る。すぐに前を向いた遠藤は、すでに右タッチライン際へスプリントしていたFW金崎夢生にターゲットを定める。
利き足の左足で、ハーフウェイライン付近から遠藤が正確無比なスルーパスを放つ。ボールとの距離を縮めながら、タイミングを計るように金崎が中央へダイレクトでクロスを折り返す。
トップスピードでゴール前へ抜け出したのはFW土居聖真。スライディングをしかながら、懸命に伸ばした右足のつま先に弾かれたボールは軌道を変えて、ゴールへと吸い込まれていった。
主将だった湘南時代から変わった立場
遠藤へパスを出してから、ゴールネットが揺れるまでの所要時間は約7秒。ベルマーレのお株を奪う電光石火のショートカウンターの起点となったボール奪取に、永木は確かなる手応えを感じていた。
「どちらに転ぶかわからないというところで前へ転がすのが、自分が得意とするプレーなので。あの状況から点が入ることは本当に理想的な流れだし、前線の選手がゴールしてくれるので守備のしがいがあるというか、ああいう球際のところで激しくいく価値があると思っています」
誰と争ったのか、永木はほとんど覚えていなかった。視界に映っていたのはルーズボールだけ。スライディングに込められた闘志と執念がボールへ伝わり、ダメ押しとなる3点目が生まれた。
このオフに新天地へ移籍して、迎えた7試合目でつかんだリーグ戦初先発のチャンス。実はサンフレッチェ広島を4対1で一蹴した前節の後半40分に、永木は運命に導かれた縁を感じずにはいられなかった。
イエローカードをもらったMF小笠原満男が、累積警告でベルマーレ戦は出場停止になる。自分の出番が訪れる――。自らを鼓舞する永木へ、サンフレッチェ戦後に小笠原も「頑張れよ」と声をかけた。
JFA・Jリーグ特別指定選手として登録された2010シーズンを含めて、ベルマーレでプレーすること6シーズン。その間、Shonan BMWスタジアム平塚には笑顔と歓喜、涙と悔しさを何度も刻んできた。
「自分でもビックリしています。リーグ戦では先発で出られず、悔しい思いを胸の内に秘めながら、いつか出番が訪れたときにはしっかりとプレーできるように常に準備をしてきたなかで、そのタイミングがたまたま湘南戦となったので。所属チームは変わりましたけど、愛着深いこのスタジアムでプレーすることができて本当によかった」
サンフレッチェ戦までの6試合で途中出場を4度果たしたが、トータルのプレー時間は約46分。常に先発の座を勝ち取り、3シーズンにわたってキャプテンを務めてきたベルマーレ時代と立場は大きく変わった。
断りを入れた最高額オファー
不動の大黒柱にしてキャプテンの小笠原。23歳とは思えない冷戦沈着さを漂わせ、今シーズンから「10」を託された柴崎岳。難攻不落の2人がボランチに君臨している状況はしかし、覚悟の上だった。
「それでも、この厳しい状況で勝ってやるという気持ちを抱いて鹿島へ来たので」
短い言葉に決意を凝縮させながら、他の追随を許さない17個ものタイトルを誇る常勝軍団での日々で、新たなものを発見していると永木は声を弾ませる。
「練習の段階からレベルがすごく高いですし、まだまだ自分の足りないところを気づかされた。足元の技術が高い選手が大勢いるので、練習でのボール回しにしても、いままで高い意識でやれていなかったのかな、と思ったこともあります。
そういう点を逆に意識することで、自分の足元の技術も上がってくる。加えて、90分間を通して勝つために何をするのかということを、全員が明確に理解している。それが鹿島というチームのスタイルになっているし、その点はこれからも勉強になる。
湘南にいたときから想像していたことなんですけど、選手自身が自立していますよね。スタッフとの信頼関係ももちろん築けていますけど、スタッフに言われてから選手が行動に移すのではなくて、いま何をすべきとか、ということをピッチから離れたところでも考えている。人間性でも優れている選手が、本当に大勢いるので。ブラジルスタイルが変わらない点やクラブハウスにも、伝統を感じますよね」
2013シーズンのオフにセレッソ大阪、2014シーズンのオフにはアントラーズから移籍のオファーを受けながら、熟慮した末にベルマーレへの残留を決断した。
自問自答したのは、自分が成長できるかどうか。堂々の年間総合8位でJ1残留を果たした昨シーズンのオフ。ひとつの目標を成就させた思いも強かったのだろう。永木は新天地へ旅立つ決断をくだす。
ベルマーレの眞壁潔代表取締役会長は、永木の移籍に関してこう言及したことがある。
「永木の名誉のために言えば、一番高い金額を提示してきたクラブには最初に断りを入れています」
お金の問題ではない。ベルマーレで培ったベースを、さらに高いレベルへ昇華させられるクラブはどこなのか。複数のオファーのなかから、2年連続で変わらぬ評価を与えてくれたアントラーズを選んだ。
ずっと応援してくれた湘南サポーターへの思い入れ
いま現在の自分にないものとして求めたのが、日本代表経験者たちが切磋琢磨する厳しい競争と、クラブ全体に脈打つ勝者のメンタリティー。目先の1勝に満足しない雰囲気が、刺激になると永木は打ち明ける。
「負けた試合の後はもちろんですけど、勝った試合の後でも気づいたところは厳しく要求し合っている。そういう姿勢は見習っていきたい」
3対0の快勝を飾り、勝ち点1差で川崎フロンターレに次ぐ2位をキープした試合後。クールダウンのためにピッチに姿を現した永木はチームメイトから離れ、バックスタンドへとジョギングしていった。
ベルマーレのサポーターで埋まるゴール裏を経て、そのままメインスタンドへ。拍手と「ナガキコール」を浴びながら、永木は感謝の思いを伝えていた。
「やっぱり思い入れのあるチームだし、サポーターもずっと自分を応援してくれたので」
永木やU‐23日本代表のDF遠藤航(現浦和レッズ)、守護神・秋元陽太(現FC東京)が抜けた古巣はリーグ戦で未勝利が続き、最下位から抜け出せない苦戦を強いられている。
キャプテンを引き継いだのは同じ27歳で、フロンターレのジュニアユースとユースでプロを夢見て競い合ったFW高山薫。永木が中央、高山が専修にわかれた大学時代以来の直接対決となった一戦で、特別な感情は込みあげてこなかったという。
「練習のときからバチバチやってきた仲だったので。それが敵に変わった、というだけというか」
くしくも高山も、同じニュアンスの言葉を口にする。
「試合中はいちいち亮太のことを考えていなかったけど、変わっていないというか、鹿島のなかに入っても普通にプレーしていた」
メディアによる囲み取材を終えた永木は試合中に痛め、氷を詰めた袋を巻きながらケアしていた右ひざをちょっと引きずりながら、ベルマーレのロッカールームへ急いで足を運んだ。
不退転の決意で選んだ新たな道
アントラーズから「帰りのバスが出る時間だぞ」というメッセージを携帯電話に受け取るまで、永木は曹監督をはじめとする首脳陣やかつてのチームメイトたちに挨拶を繰り返した。
特別な言葉は口にしない。それでも、Jリーグを代表する名門軍団で「らしさ」を貫こうとする前キャプテンの必死な姿は、ベルマーレが自信を取り戻すための羅針盤となる。
「ずっと試合に出てきた満男さんの代わりに自分がスタメンで出て、結果を出さないとなると、自分にとっても自信につながらないし、また使われなくなると思う。自分が出て、試合に勝てたということが今日は何よりも嬉しい。
今日である程度、吹っ切れたかなという思いもある。これを機にリーグ戦の出場時間をもっともっと増やしていきたいし、いまは3番手の位置ですけど、いつかは監督のファーストチョイスになれるように、しっかりとやっていきたい」
小笠原が戦列に復帰する24日の柏レイソル戦以降をにらみながら、永木が決意を新たにする。試合後のロッカールームで、永木と「ウッス!」と短い言葉を交わした高山も絶対に下を向かないと誓う。
「越えなきゃいけない壁だと思う。よくないときほど気持ちを強くもってやらないと。(3失点目は)クロスからシュートまでの勢いもあったし、逆にウチがやりたい形でもあったと思う」
不退転の決意とともに新たな道を歩み始めた以上は、永木はセンチメンタルな思いを封印して前へ進み続ける。それでも、3点目につながった魂のスライディングは、自らも体現してきた「湘南スタイル」の原点を思い起こさせる強烈なメッセージとなって、図らずも高山をはじめとする古巣へ伝わった。
(取材・文:藤江直人)
【了】
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