ファン感謝デーの最中に「非常事態」が発生!
「緊急速報をお伝えします。宇宙からきた謎の生命体により、スタジアム内の人々が凶暴なゾンビと化し……」
茨城県立カシマサッカースタジアムの大型ビジョンからアナウンサーの声が響きわたる。ゴールデンウイークの真っ最中である5月3日、鹿島アントラーズのホームスタジアムで行われた前代未聞のホラーイベント『ゾンビパンデミックwith鹿島アントラーズ カシマゾンビスタジアム〜スタジアムに隠された謎を解き生還せよ!〜』に参加した。
数々のホラーイベントを手掛ける方南町お化け屋敷オバケンと株式会社タイトーとの共同で行われた本イベントは、全面解放されたスタジアムの中に隠された謎を解き、ゾンビの追跡をくぐり抜けながらクリアを目指すというもの。つまり、謎解きゲームとお化け屋敷が組み合わさった新しいコンセプトのホラーイベントなのだ。
舞台となったのは中田浩二、名良橋晃、秋田豊ら鹿島OB選手が参加するファン感謝デー。どうやらファン感の一環として「鹿島レジェンズ」と「オバケンレジェンズ」の試合が行われるようだ。両チームの選手がピッチに登場し、いよいよ試合がスタート――と、その瞬間、突然オバケンの選手がうめき声を上げながらピッチに倒れ込んだ。
不穏な空気に包まれたスタジアムの大型ビジョンに映し出されたのは『非常事態発生』の文字。冒頭のアナウンサーの言葉どおり、カシマはゾンビの巣窟と化してしまった! ここから、参加者はカシマをゾンビの魔の手から救い出す“救世主”となるべく、用意された4つのミッションに挑むこととなった。
何よりも恐ろしく厄介だった「ゾンビ」の存在
謎解きゲームの経験はあるが、スタジアムで行う謎解きゲームへの参加はもちろん初めて。ワクワクしながら問題の書かれたガイドブックを受け取り、ミッションに取り掛かったが、これがなかなか難しい。問題自体の難易度もそうだが、何より“素材集め”に苦労させられた。
例えば、ミッションBはコンコースに貼られたパネルをすべて発見し、ゾンビウイルスのワクチンの名前と番号を解読するというものだが、該当のパネルはなんと全部で27枚もある。ただでさえ広いコンコース内から、該当のパネルを探し出し、そのうえで謎を解かなければならない。なかなかハードで体力が必要だったことは間違いない。
また、何よりも厄介だったのが「ゾンビ」の存在だ。
参加者はゲームスタート時に腰に2本のライフベルトを巻くよう指示される。ゾンビはこのライフベルトを狙って襲ってくるのだ。必死でパネルを探していても、気付くとゾンビが隣にいたりする。その動きも「本物」らしく、クネクネとした独特の動きでこちらに向かってくる。動きだけでなく、妙な音(声?)も発するため、驚いて何度も飛び上がってしまった。
そんなゾンビ集団の中でも、特にインパクト絶大だったのが“名良橋ゾンビ”(冒頭の写真参照)。
元日本代表DFは容赦なく小さい子供を追い掛け回す……あまりの恐ろしさに取材そっちのけで逃げてしまったが、イベント終了後に本人に話を聞くと、「中田CROがソフトなゾンビならば、僕はハードなゾンビになろうと思っていた。若い子が泣きながら『名良橋半端ねえ!』と言ってくれました」と満足そうに答えてくれた。その“完璧な”仕事ぶりには感動すら覚えた。
スタジアム「ならでは」の貴重な体験も!
結局、制限時間内にすべての謎を解くことはできず、イベント終了のアナウンスを聞くことになった。もちろん悔しい思いもあったが、不思議と感じたのは充実感だった。「楽しかった!」と声を上げている子供たちに「何が楽しかった?」と聞くとすぐに「ロッカー!」と返ってくる。
そう、このイベントでは普段入ることのできない選手の使用するロッカールームや、トレーニングエリアに足を踏み入れることができるのだ。ロッカールーム内は参加者の「すごい! ホンモノだ」という驚嘆の声で溢れていた(もっともそんな和やかな雰囲気は口にライフベルトをくわえたゾンビの乱入ですぐに崩れ去ったが……)。
普段入ることのできない「選手専用」のエリアを自由に移動することができる「特別感」に参加者は心躍ったはずだ。さらに、4つのミッションをクリアした参加者に与えられた特別ミッションの会場は、何とピッチの上! 快晴の空の下、目の前で繰り広げられるピッチ上でのゾンビと参加者の“全力の鬼ごっこ”はとても気持ちが良さそうだった(ゾンビは本気で追いかけてくるので、割とここでの脱落者は多かったように見えた)。
特別ミッションが終わると、始まったのは解説タイム。出されたミッションで自分が「何をすればよかったのか」を問題の作成者が自ら解説してくれた。二重三重に仕掛けられた問題に思わずうなったが、これをクリアした人がこんなにいるのかと、目の前のピッチを見て驚く。普段22人のプレーヤー(と審判)しか立つことの許されない神聖な場所に大勢の人が立っている光景はとても新鮮なものだった。
参加者からよく聞かれた「次は」という言葉
さて、無事にイベントが終了し、参加者やゾンビたちに話を聞こうと取材エリアに向かうと、エリアには仕事を終えたゾンビたちがぞろぞろ。手を洗おうとトイレに向かえば、隣でゾンビが手を乾かしているというなかなかシュールな光景が見られたが、聞けばこの「ゾンビ役」の方々は全員がボランティアだそう。
ゾンビ役のボランティアに応募したという神栖市在住の女性2人組に話を聞くことができた。「小さい子が怖がっているのが可愛かった……」とイベントを振り返ってくれた彼女たちの目標は「次は参加者としてゲームを楽しむ」ことだという。
参加者に話を聞いても、よく聞かれたのがこの「次は」という言葉。謎が解けても解けなくても、参加者の大半が感じたであろう「悔しいけど楽しい」という感覚は「また参加したい」という意欲へと変わっていくようで、「次は絶対にクリアしたい」という“宣言”が至るところで聞かれた。
また、オバケンのファンだという男性からは「普段入れないところに入ることができてうれしかった。次はスタジアムにサッカーを見にいきたい」という“観戦宣言”を聞くことができた。
この日スタジアムを訪れた参加者は約3,000名(1部が2,000人、2部が1,000人)だという。「スタジアムでホラーイベントを行う」という、クラブだけでなくJリーグとしても初の試みだったことを考えれば、まずまずの結果だろう。
中田CROは「こうしたイベントを行うことでサッカーに興味のない人が、興味を持つきっかけになってほしい」と話していたが、その思いは参加者にも伝わっていたようだ。カシマスタジアムを試合日以外にもたくさんの人が訪れる場所にしたい――今回のイベントはそんなクラブの夢に近付く第一歩になったはずだ。
(文中敬称略、取材・文:木村郁未/スポーツナビ)
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