うなだれる三竿に俊輔が優しく声をかける。
[Jリーグ34節]磐田0-0鹿島/12月2日/ヤマハ
2013年の横浜と、2017年の鹿島。最終局面での両チームの状況は酷似していた。
大観衆をのみこんだ33節のホームゲーム、勝てば優勝を決められる大一番で、当時の横浜は新潟に0-2の敗戦、鹿島は柏とスコアレスドローだった。
それでも、首位という立場は変わらない。2位チームとは勝点2差。アウェーの最終節に勝てば、自力でタイトルを掴める。アドバンテージは自分たちにある。
しかし、横浜も鹿島も、最終的にはリーグ優勝を逃す結果に。
13年12月7日、等々力で川崎と対戦した横浜は0-1の負け。当時の鹿島を下した広島が勝点1差で上回り、劇的な2連覇を達成した。
17年12月2日、ヤマハでの磐田戦に挑んだ鹿島は0-0と勝ちきれず。大宮に5-0と完勝した川崎が勝点72で鹿島に並んだが、得失点差で上回り、悲願のクラブ初タイトルを成し遂げた。
「最後、ボランチの三竿選手がしゃがみこんでいて、川崎戦の自分じゃないけど、そういう感じを思い出したよね」
4年前はトリコロールに身を包み、大粒の涙を流した中村俊輔だからこそ、敗者の気持ちが痛いほど分かるのだろう。今はサックスブルーの10番を背負う希代のレフティが、ガックリとうなだれる三竿に優しく声をかける姿が印象的だった。
「常勝軍団だから、アグレッシブに、鹿島らしく来るっていうのを想定していた。だから、それ以上のアグレッシブさというか、ホームの利点を生かして、最初の10分でこっちが前へ前へ、という気持ちは出せていた。それはシーズンを積み上げてきたもの。先制パンチじゃないけど、そこは少し良かった」
シーズンの集大成とも言えるラストマッチに、俊輔は確かな手応えを感じていた。チームとしての磐田のパフォーマンスは間違いなく良かった。「それで、いつもの鹿島じゃないけど、エンジンのかかりが遅かったり、迫力が少しなかったのかなと思う」。
鹿島からすれば、リーグ連覇と20冠がかかる重要なゲームである。いつもとは異なる重圧を感じていても不思議ではない。もっとも、「たぶん、そんなプレッシャーはなかったと思うけど」と鹿島に敬意を示す俊輔は、自身の経験に照らし合わせながら、鹿島のタイトル逸の原因の一端について、自身の見解を述べてくれた。
「なんか負けた雰囲気になっていた」(昌子源)
「比べるものじゃないけど」「経験豊富な選手が多い鹿島にいたって、それはないと思うけど」と断りを入れたうえで、「ホームで勝てなかったのが大きかったんじゃないかな」と俊輔は推察する。
「2013年、僕らはホームで新潟に勝てば優勝できたんだけど……。それから川崎戦までの1週間、練習もなんかおかしかった。それは覚えている。ホームで決められなくて、その次のアウェーまでは、すごく過ごし辛かったというか。ポジティブな感じにしようとしているんだけど、無理しているみたいな雰囲気になったり」
先述したとおり、鹿島は前節の柏戦で勝ちきれなかった。ドローで勝点1を上積みしたが、「なんか負けた雰囲気になっていた」(昌子源)だけに、少なからずダメージは残っていたのだろう。そうして迎えた磐田戦を振り返った遠藤康は、「硬さがあったのでは?」という質問に、「もちろん、それはありました」と認めている。
ここぞという時の憎らしいほどの勝負強さは、“常勝軍団”と称えられる鹿島の専売特許でもある。しかし、今季はそれを発揮できなかった。持てる力を出し切れないまま、まさかの無冠で、2017シーズンは幕を閉じた。
取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)
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