昨年、本連載で鹿島アントラーズからツエーゲン金沢に期限付き移籍したFW垣田裕暉を取り上げたが(鹿島から期限付きで加入した19歳の大型FW垣田裕暉の現在地)、今回はその続編をお届けしたい。あれから一年以上が過ぎ、結論から言えば垣田は金沢の主力選手になった。金沢への期限付き移籍2年目の今季は出場時間を大幅に伸ばしている。第30節・カマタマーレ讃岐戦では約1ヶ月半ぶりにネットを揺らし、7点目をマーク。FWを評価する上で得点は重要な指標だが、それだけで現在の垣田を語ると事の本質を見失う。
「そこまでゴールに固執しているわけではない。FWとしてそれ(得点)がいらないというのはおかしいし、欲しいのは当然だけど、チームが勝てば良いんじゃないかなと」
例え点を取ったとしも、チームの一員としての役割をこなせなければ交代になるし、ベンチに回ることもある。柳下正明監督は、垣田の変化を感じながらも「誰か『そうじゃないぞ、こうだぞ』って言い続ける人がいないといけない。打たれ強いから。だから、ちょっと褒めて、その倍以上『違うぞ。ダメだぞ』って言ってあげないと」と、その歩みが止まらぬよう常に先へ目を向けさせた。指揮官の“アメとムチ”は垣田の自省を促し、課題だったパフォーマンスの波、ムラは目に見えて減った。
得点がなかった1ヶ月半、垣田はピッチ上でむしろ存在感を増し、豊富な運動量でプレーに関与し続けていた。前線でビルドアップを限定するファーストディフェンスに始まり、攻撃に切り替わればスペースに出ていく。相手が4バックならサイドバックの裏、3バックならその脇に流れてボールを引き出すと、攻撃の起点を作る。仮に収まらなかったとしても、この動きには相手DFを裏返す効果があり、自分たちは前向きの状態で全体を押し上げた守備ができる。恵まれた体格を活かし、ぶつかり合いを厭わない力技も持ち味だ。
「まだJ1で戦えるレベルにはないんじゃないかなと思う。やっぱり1年、1年が勝負。もう1年目、2年目の若手というわけではない。二十歳を越えたこれからは、結果やチームへの貢献度がどれだけ高いかということをもっと意識していかないといけない」
チームへの貢献が大前提で、その先に自身の結果があると垣田は考える。いまはこのJ2で活躍することが直近の目標だが、そこが終着点ではない。見据えるのはJ1でのプレー、日本のトップリーグで何を見せられるかだ。
「鹿島のFWをやりたいなら、ポストプレーだけじゃ生きていけない。2トップの2人で背後に抜けて、2人で守備をするということは約束事というか。鹿島でやりたいなら、ポストプレーもやりながら走らないといけない」
所属元・鹿島アントラーズのFW像と走れる垣田のプレースタイルは合致するのではないだろうか。ただ、鹿島で要求されるレベルは相当なものになるはず。
「やっぱりJ2で二桁(得点を)取れるくらいでないと。鹿島でオレみたいな大型タイプのFWとなると、外国籍選手がライバルになってくる。パトリック(サンフレッチェ広島)、ディエゴ・オリヴェイラ(FC東京)、クリスティアーノ(柏レイソル)とか、ああいう選手に負けていたら鹿島のFWに入れない。そこで負けていたら、鹿島は新しいブラジル人を取ってきてしまうだろう。だから、彼らに負けないようなたくましさを付けないと鹿島ではやっていけない」
今季の垣田は得点場面以外にも多くの決定機に顔を出しており、数字に関しても上積みの余地がありそうだ。金沢が決定力不足に悩まされている中、垣田にも“決めること”が求められる。その点においても本人は現状に満足していないため、“覚醒”という言葉を使うのは早いだろう。いまはまだ覚醒前夜。しかし、その夜明けは近い。
文=野中拓也