日刊鹿島アントラーズニュース

Ads by Google

2018年10月6日土曜日

◆「目の前の1試合に集中するだけ」 鹿島の快進撃を支える勝利のDNA。(Number)






 9月1日からの約1カ月で、9試合を戦い7勝1分1敗。9月9日から6連勝中の鹿島アントラーズが迎えた10月3日のACL準決勝、水原三星戦ファーストレグ。開始6分で2失点という最悪の立ち上がりながら、アディショナルタイムに内田篤人の逆転弾で劇的な勝利を収めることに成功した。

 けが人が相次ぐなかで、スタートしたシーズンだった。W杯開催の中断時点で、リーグ戦は5勝3分6敗と負け越していた。

 ベルギーへ移籍した植田直通に続き、金崎夢生も鳥栖へ移り、足首を痛めた昌子源の復帰は目途が立たない。ブラジル人MFセルジーニョ、韓国代表DFチョン・スンヒョンを獲得して回復の兆しが見えたのもつかの間、右肩上がりとはいかなかった。

 リーグ優勝からは遠ざかり、ルヴァンカップでは川崎、天皇杯では広島との対戦が控えていた。ACLに臨みを託すしかないのか……という想いを多くの鹿島アントラーズサポーターは抱いていただろう。


 9月9日ルヴァンカップ準々決勝第1戦、ホームで川崎を迎えた試合は苦しんだ末に1-1と引き分けたものの、この試合をきっかけに鹿島は連勝の波に乗ることになる。


けが人も試合数の多さも力に変えて。


「後ろでしっかりと守って、サイドから攻撃するという鹿島らしいサッカーができるようになった」とクラブ関係者が話す通り、川崎戦をきっかけにいつものアントラーズが復活した。

 けが人続出で、文字通りの総力戦で戦わざるを得なかったことも、チーム全体でイメージを共有する効果があったのかもしれない。新加入選手にとっては、試合数の多さも意思疎通を深める時間にもなった。

 なにより、選手交代の効果を高めることにも繋がっていると感じる。ACL水原戦でも、それは際立っていた。

 後半11分、まずは疲れの見えた安部裕葵に代わりサイドバックもできる安西幸輝を投入し、相手のカウンター攻撃に対する守りを強化。

 相手を押し込みながらも得点が生まれない拮抗した状況で、後半27分にはボランチの永木亮太に代えて、土居聖真を入れた。ボランチは2枚から1.5枚のようなイメージに変わった。土居はパスの中継地点としてのポジショニングに定評があり、攻撃のリズムが活性化する。


西と内田の右サイドが敵陣に侵入する。


 そして、右アウトサイドに西大伍を投入したのが後半38分だった。その直後、スンヒョンからの縦パスを受けた西がキレのあるターンで相手を翻弄し、セルジーニョへラストパスを送り、それが同点弾となった。

「あんなプレーができる大伍はサイドバックじゃなくて、中盤の選手だよ」と内田が評した。2人の日本代表経験者サイドバックを縦に並べた鹿島の右サイドは、果敢に敵陣へ侵入する。

「内田さん、どこまで上がるのって思った。もし取られたら俺が守るんだよなって」と西が笑う。それでも、簡単にボールを失うことはなかった。水原の選手たちの疲労度は一気に高まったに違いない。

 そして、内田が倒されてFKの場面を迎える。キッカーはセルジーニョ。鹿島の選手はほぼ全員がペナルティエリアに並んだ。


 実はこのときGKクォン・スンテは、大声で安西へ指示を送っている。相手のカウンターに備えて、ポジションを下げさせたのだ。

「セルジーニョのFKが素晴らしいことはわかっていたけれど、試合終了の笛が鳴るまで、試合は終わらない。相手の壁の選手がカウンターを狙っているように見えたので、指示を出した」とスンテ。


「脩斗さん、触るな」


 セルジーニョのキックに選手が競り合う。そのこぼれ球を蹴りこんだのは内田だった。シュートは相手に当たったものの、再び自分の足元に転がってきたボールを冷静に蹴りこんだ。ゴールに近い場所にいた山本脩斗が、よけるようにしてボールを見送る。

「脩斗さん、触るな」

 オフサイドになる危険性がある。そう願いながらボールの行方を見守っていた内田の得点が決まる。普段のセットプレーならば、チームの最後尾に立っていることのほうが多い。内田のあれほどのガッツポーズは見たことがなかった。


失点後に守備陣が集まる場面が増えた。


「相手のほうが気持ちが前に出ていたし、球際だとか競り合いの部分で僕たちはまったく戦えていなかった。でも2点目を取られたあとも、慌てずにやり方を変えないでやっていこうと話をした。バラバラにならなかったことがよかった」と三竿健斗が振り返る。

 最近の鹿島は、失点後の短い時間で守備陣が集まって声をかけ合う場面が増えた。カツを入れるというよりも、「このままで大丈夫だから、慌てるな」と確認する作業が多い。それが経験の浅い選手たちに落ち着きを与え、気持ちを締める機会になっている。

「いつも通りやろう」

 そういうチームメイトの声で気持ちをリフレッシュできるようになってきたことが、この連勝に繋がっている。そして、連勝しているからこそ「いつも通りで、勝てる」という自信が生まれる好循環が回っている。


三竿「まずは自分が戦わないと」


「みんな慌てたり人のせいにしたりしないで、自分のミスを自分で取り返しにいっている。ミスをしても、誰かがカバーして助けるという空気がある。それぞれが助け合っているので、結束力や一体感がある。それは勝っているからこそ、生まれている部分でもあるし、勝っているからこそ、それを発揮できるんだと思う」

 そう話す三竿も、まだ22歳だ。

「ハーフタイムにスンテが、『もっとやらなくちゃダメだ』と言っていて、みんながそういう想いを持っていた。ACLに優勝した経験がある選手の言葉は心に響きます。死に物狂いで戦うという気持ちがないと、優勝できないということ。

 やられてから気づくのは遅かったけれど、今日の教訓があるから次はもっといい入り方ができると思います。今日の試合で、経験値が上がったと思います。まずは自分が戦わないと周りには言えない。みんなが今日そういう風に学んだはず」

 三竿は日本代表候補ではあっても、国際経験が豊富とは言えない。しかしこういう試合を経験して、力に変えていくのだろう。


目の前の勝利が、積み重なって歴史になる。


 内田らがピッチに復帰し、戦力に厚みは増してきている。それでも、この日はレオシルバが出場停止だった。安部はU-19アジア選手権のためにチームを離れることが決まっている。昌子の復帰もまだ未定。代表活動期間に行われるルヴァンカップでは、三竿とスンヒョンが不在となる。

 主力が欠ければ、まったく同じサッカーができるわけではない。選手はひとりひとり個性も強みも弱点も違う。それをいかにチームとして形成するかがもっとも重要なことなのだ。「いかに勝つか」というこだわりが脈々と受け継がれてきた鹿島には、チームとしてのDNAがあると言われている。

 それを証明するための戦いが続く。リーグ戦、ルヴァンカップ、天皇杯。そしてACL、その先にあるクラブW杯。

「先のことは考えず、目の前の1試合に集中するだけだから」


 遠藤はいつも、まったくぶれることなくそう話す。

 苦しい試合でも内容が良くなくても、勝ちさえすればいい。1試合の勝利という「点」がつながれば、強豪という「線」が生まれる。それが鹿島アントラーズの歴史だ。


◆「目の前の1試合に集中するだけ」 鹿島の快進撃を支える勝利のDNA。(Number)





Ads by Google

日刊鹿島

過去の記事