つくづく「見た目とは違う男だなあ」と思う。
金髪、ガニ股、ピッチでは目をぎらつかせ、闘争心を全面に出して戦う。その姿を見るたびに。
鈴木優磨。よく言われる言葉は「意外と普通なんですね」。むしろ、周囲に気配りするタイプだ。ピッチ上で見せる姿と、ピッチ外で見せる姿は違う。
「ピッチ上の自分が普段も同じだったらヤバい人ですよね」
はにかみながら語る。
小さい頃からプロレスが大好きだった。海外のプロレスに始まって、日本のプロレスを見るようになり、最近はダゾーンでWWE観戦を欠かさない。
相手に迫られてもふと笑う。
その影響があるのかもしれない。
ファウルを受けたときのリアクション、相手が感情的になって迫り来るのを迎える対応。相手に迫られても、ふと笑みを見せる。どれもどこか余裕が感じられる。もちろん相手の挑発に乗ることはない。あくまでピッチ上で主導権を引き寄せ、チームが勝つための駆け引きでしかない。
今季、鹿島アントラーズで大きな成長を遂げた男は、これまでどんな道筋を歩んできたのだろう。
アントラーズの下部組織で育った。地元は千葉県銚子市。幼稚園でサッカーを始めると、小学校に上がってすぐにアントラーズのスクールに入った。柏レイソルという選択肢もあったが、すでにサッカーを始めていた3つ上の兄の影響で、片道1時間、祖父の送り迎えで鹿嶋へ通った。
練習がない日でも、学校の休み時間でも、いつもボールを蹴って日々を過ごした。とにかくボールを持つのが大好きで、ボールを持てばドリブルでゴールを目指した。
俺が一番うまかったから。
「俺が一番うまかったですから。小学6年の全国大会で、ベスト16の試合では5人抜きしてゴールを決めたこともあるんです。すごいでしょ?」
少年のような笑顔で、得意げに当時を振り返る。第32回全日本少年サッカー大会のバディSC戦で決めたゴールは、鈴木自身の記憶に深く刻まれている。
当時からFW、その後も変わらずストライカーとしてサッカーを続けた。
ゴールへのこだわりは半端ない。シュートが打てるポジショニングは常に考えていることのひとつだ。
「そこはもう感覚。あとは経験ですよね。試合でまったく同じ状況はこないけれど、前にこういう状況のときは、ここにこぼれてきたとか、シュートが打てるポジションを目指して動き続ける。それができる選手が点を取れる選手なんだと思います」
“ふだんの行い”で徳を積む。
常にいいポジションニングでゴールを目指す。その上で、鈴木は別の点でも重要視することがある。
“ふだんの行い”だ。
「たとえば、瞬間的に『入るタイミングが遅かったな』と感じてもうまくシュートができることってあるんです。そういうときは“ふだんの行い”も出るなって思うんです。例えばゴミが落ちていたら拾うとか、そういう些細なことでもいいから、“ふだんの行い”を良くしておく。そうすれば、サッカーの神様は見ていてくれるんじゃないかなって」
クラブのイベントである小学校訪問に参加すれば、学校に入るときは靴をそろえる。校長室に入るときは一礼して部屋に入る。試合や練習のときにピッチを出るときは、頭を下げるのを欠かさない。チームメイトと食事に行って、ちょっとでも飲み物や食事を残すのを見れば一声かける。
「C・ロナウドやメッシみたいなスーパースターだったら違うだろうけど、僕のような選手は徳を積んでいかないと、ゴール前でチャンスが巡ってこない。アウェーにいったら、ホテルの部屋を超きれいにしてから出ていきますからね」
銚子が好きだから貢献したい。
純粋な思いを行動にした。
11月、鈴木は銚子市内の小中学校全19校に3球ずつ、計57個のサッカーボールを寄贈した。7月のJリーグ月間MVPの賞金30万円をすべて使い、足りない分は自ら負担した。
「地元が好きなんですよ。だから、何かで貢献したい、元気づけたいって思っていました」
何か見返りを求めているわけではない。活躍すれば、もともとやりたいと思っていたことが、多くの人たちに響くことを知った。
その地元千葉県銚子市に住む祖父は、毎試合カシマスタジアムまで観戦に来てくれている。祖父が「鹿嶋まで行くのがしんどくなってきた」という話を聞いて、鈴木自ら、祖父のために鹿嶋市内に家を借りた。ACLでMVPをとって帰国した後も、祖父の家を訪れてトロフィーを渡した。
喜んでくれる笑顔がうれしかった。いつも送り迎えをしてくれた恩返しの思いは、いつまでも色褪せない。
高校時代、鹿島ユースで過ごし、熊谷浩二監督から生活面から精神面まで徹底的に指導された。
「日々の行いが、いざというときに出るんです」
いつも繰り返し口にする言葉だ。
「徳を積んだぶん、いいことがあるはず。僕はそう思うタイプ。サッカーの神様を信じていますから。こういう考え方ができるのも、熊さんのおかげです」
ACLでMVPも「正直、俺?」
今季、アントラーズとして悲願のタイトルであるアジア制覇を成し遂げた。鈴木は大会MVPを受賞。それでも満足する様子は一切ない。
「正直、俺? って思いました。もっと点を取ってチームの勝利に貢献したかった。来シーズンはもっと点を取って、エースという座を間違いないものにしたいと思っています」
人間、見た目だけでは測れない。謙虚に素直に。今以上の自分を目指す姿は美しい。
つくづく「魅力的な男だなあ」と思う。
◆ゴミ拾い、挨拶、感謝。得点を呼ぶ 鹿島・鈴木優磨の“ふだんの行い”。(Number)