「4冠」を目指して始動した鹿島アントラーズが、早くもひとつめのタイトルを失うことになった。
1月28日に行なわれたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のプレーオフで、メルボルン・ビクトリーに0−1で敗れたのである。
Jリーグ勢がACLのプレーオフに出場するようになってから、初の「プレーオフ敗退」という屈辱。鹿島としては3年連続でACLの本戦に出場していた歴史が途切れる失態となった。
試合後、取材陣の前に姿を見せたボランチの三竿健斗はこう切り出した。
「自分自身も不甲斐ない出来だったので、申し訳ない気持ちでいっぱいですけど、これが今の自分たちの実力。目を背けてはいけない。批判されて当然の内容だったと思うし、今は何を言われても、すべてを受け止め、シーズンの最後にはここから成長した姿を見せてタイトルが獲れるように続けていきたい」
CBを担った犬飼智也も責任の重さを言及した。
「目指していたタイトルをひとつ失ってしまった。本戦に出場できないというのはあってはならないこと。その責任は強く感じています。ただ、それもこれも自分たちで招いてしまった結果。無冠では終われないチームなので、国内のタイトルにフォーカスしていきたい」
今シーズンの新戦力として川崎フロンターレから加入し、犬飼とCBでコンビを組んだ奈良竜樹も唇を噛みしめた。
「結果ですべてが評価される試合だったと思うので、後ろが踏ん張りきれなかったことは申し訳ないと思っています。(失点は)不運といえば不運ですけど、自分なりにもっといい対応はできたと思う。反省して次に生かしていきたいと思います」
エクスキューズは探せば、いくらでもある。
元日に天皇杯・決勝を戦った鹿島は、極端にオフが短く、選手たちは身体を休める時間がなかった。チームは1月8日から始動したが、昨シーズンを主力として戦った選手たちは個別に休養期間を取っていた関係で、宮崎キャンプには途中からの合流だった。
加えて、今シーズンからザーゴ新監督が就任し、新たなサッカーに着手している最中である。わずか3週間で戦術を浸透させてチームの形を見出すのは、新指揮官にとっても、選手たちにとっても、難しすぎるミッションだった。
実際、宮崎キャンプ中に行なわれた練習試合も取材したが、合流して間もなかった主力選手たちは出場せず。ピッチに立ったのは、新加入選手や若手が中心だった。
その後もプレーオフに向けた調整のため、練習試合はおろか紅白戦も行なえていない。メルボルン・ビクトリー戦では新加入選手6人が出場したが、新旧が融合したメンバーで実戦を戦うのは、いわば”ぶっつけ本番”だった。
それでも選手たちが、挙げればキリがない不足要素を言い訳にすることはなかった。
たしかに試合に敗れ、ACLの出場が叶わなかった事実は、すべてのタイトル獲得を目指す鹿島にとっては大きいし、痛い。
だが、一方でメルボルン・ビクトリー戦は、ザーゴ監督が掲げる新たなるサッカーの片鱗が見えた試合でもあった。システムこそ鹿島伝統の4−4−2ではあるが、試みているサッカーは180度と表現してしまいたくなるほど、昨季までと違いがあった。
ひと言で言えば、ポゼッションサッカーへの転換である。
昨季までの鹿島はどこかリアクションサッカーになりがちだったが、メルボルン・ビクトリー戦では終始、試合の主導権を握り、ボールを保持していた。犬飼が言う。
「ボールは7対3の割合くらいで持てていたと思います。そこは去年できていなかった部分。
後半は(相手がリードしたこともあり)、全体的に下がってしまったので、シンプルにSBにパスを出して任せる形が多かった。ですけど、前半は相手が前からハメにこようとしていたなかで、うまく相手をはがせたところはあったと思います。
その時、やり直すのか、もしくは自分たちが縦パスを入れるのか。そこはまだまだ判断していかなければならないと思います」
奈良も続ける。
「監督からは『ボールを早く動かせ』という指示があるので、CBが長い時間ボールを持たずに、ボールを動かしてテンポを出す。他にもサイドチェンジを入れることも意識していたんですけど、相手が3バックでワイドに人がいたこともあり、なかなか僕らCBから狙うのが難しかった。
どうしても探り探りの部分もあったので、監督が目指すサッカーをしっかりと理解していきたい。実際にやるのは自分たちなので、ピッチで判断していかなければいけない。個人もそうですけど、グループでも深めていかなければと思います」
自陣から攻撃を組み立てる際には、ボランチである三竿健斗が最終ラインまで降り、ビルドアップに加わる。それにより犬飼と奈良の両CBが開くことで、右SBに入った新加入の広瀬陸斗と、左SBの永戸勝也が高い位置を取ることができていた。
わずか3週間ではあるが、短期間の練習と映像を見ながらのイメージの擦り合わせにより、監督が抱くサッカーの哲学を選手たちはピッチで表現しようと努めていた。
54分に浦和レッズでプレーしていたアンドリュー・ナバウトに強烈なシュートを浴び、1点を追いかける展開になった。そのため攻撃の圧力は増し、徐々にサイド攻撃の回数やゴール前で迎えるチャンスの数も増していった。
三竿が言う。
「映像を使ったり、組み立ての練習をやってきて、こういうふうに(ボールを)動かしていくというイメージはあったんですけど、大きなピッチで練習をやっていなかったこともあって、前との距離が遠く感じた。
パスを出せるといえば出せるけど、狙われているし、出したとしても潰されるというのを中にいる時は感じ取れたので、自分が長い距離でもパスを出せなければいけない。そこは映像を見て、修正していくしかないと思っています」
やってみなければわからないこともある。実戦でしか得られないものもある。
犬飼や奈良、そして三竿が言うように、公式戦を経験してきたからこそ見えてきた感覚と課題があった。結果的にACLプレーオフ敗退という高い授業料を払うことになったが、鹿島が変わろうとしている姿勢は強く見られた一戦だった。
ザーゴ監督が掲げる「後ろから攻撃を組み立てていくサッカー」を担っていくのは、両CBとボランチである。三竿が続ける。
「このサッカーはボランチがキーになるので、攻守においては常にバランスを取って、攻撃時はサイドバックが高い位置を取れるようにすることを求められている。ボールを奪うところでもチームを助け、攻撃の起点にもなれるように、パスの精度を上げていきたい」
サイドからの攻撃とゴール前での精度もまた、練習での積み重ねでしかない。その前提となるベースを作っていくのが、CBとボランチである。後方を担う「3枚のトライアングル」が機能しなければ、サイド攻撃も、ゴール前での迫力も、損なわれることになる。
犬飼が言った。
「ボランチやSBが勝負できるパスを出すのがCBの役目だと思うので、1本のパスやサイドチェンジもトライしていきたい。チャンスは作れていたので、あとは決め切るところも。こういうサッカーに挑戦していくなかでは、うまくいかなかったり、今日みたいなゲームはあると思う。でも、そこに焦れずに突き詰めていくしかない」
今、鹿島は生みの苦しみの一歩を経験している。時間がかかるかもしれないし、いくつものハードルとステップが待っていることだろう。
だが、それを抜けた先に、新たなる鹿島の姿と形が見えてくる。
◆新生アントラーズ、昨季とは180度転換。 ザーゴが考える戦術の片鱗を見た(Sportiva)