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新型コロナウィルス感染拡大の影響でJリーグの再開時期が未定になり、東京五輪は今夏の開催が見送られることが決まった。思いがけずおとずれた中断期間に、東京五輪世代の選手たちは何を思うのか。鹿島アントラーズで急成長中の町田浩樹が胸に秘める思いとは。(取材・文:元川悦子、取材日:2020年3月6日)
ザーゴ新監督の下で感じる「楽しさ」
全国7都府県に緊急事態宣言が出された7日以降も、新型コロナウィルスの感染拡大に歯止めがかからない。該当地域ではない茨城県も11日現在で100人近い感染者が出ており、この地に本拠を置く鹿島アントラーズも神経を尖らせざるを得ない状況だ。
2月25日に最初のJリーグ延期が発表された時点で一般向けの練習公開を取りやめたものの、報道陣の取材はそれまで通りだった。しかし、事態が緊迫感を強めるにつれて、クラブは公共交通機関利用による取材の禁止をメディアに通達。
検温や消毒の徹底を図っていたが、4月7日からついに活動休止に踏み切った。当然のごとく、報道陣のクラブハウスへの立ち入りも禁止され、選手やコーチングスタッフも外出自粛に。職員の勤務地も分散させるほどのリスク回避策を講じている。
この状況だといつ練習を再開できるか分からないが、選手たちはコンディションを維持し、ザーゴ監督率いる新体制でここまで練習してきたサッカーの精度を高める努力をするしかない。東京五輪世代のDF町田浩樹も強い自覚を持っているはずだ。
「ザーゴ監督のサッカーはすごくやり甲斐がありますね。昨年まではどちらかというと受け身なサッカーというか、相手が主体性を持ってやるサッカーだったので、今年は自分たちから主導権を握ってやるという楽しさはあります。準備期間が短かったので、この中断期間がチームを熟成させる意味でありがたい期間だと思っていますし、練習試合もあるので、そこでもっともっと熟成度を上げていければいいかなと思います」
まだ取材対応が許されていた3月上旬、彼はこう前向きにコメントしていた。それから状況は大きく変わってしまったが、Jリーグ再開までの時間を大事にしなければいけないのは一緒。自分のやるべきことを明確に描いているはずだ。
ライバルたちに実績面では劣るが…
その1つが、正確かつ的確なビルドアップ能力を身に着けること。最終ラインからボールをつないでいくザーゴ流を完成させようと思うなら、最終ラインを担う人間が確実にボールをつなぎ、攻撃の起点になることが求められてくる。
0-3で大敗した2月23日のJ1開幕戦・サンフレッチェ広島戦の時はそれができず、ちょっとしたミスからボールを奪われ、失点を重ねる結果となった。その経験を糧にして、町田は前進しようと躍起になっている様子だ。
「今年はゴールキックとかもできるだけ下からつないでいく感じなので、技術も必要ですし、周りとのタイミングだったり、スペースの使い方も監督が強調している部分。そこに気を付けながらやっています。広島戦では確かにミスをしましたけど、ポジティブなミスはザーゴ監督も『いいぞ』という感じで声をかけてくれる。
そこは選手としてもやりやすいし、積極的にトライできています。3月に何回か練習試合をして、前よりもビルドアップができているところもあると感じますし、最後の崩しも練習でやっている形で点を取れています。ただ、相手がJ2やJ3なので、J1になればプレッシングの速さやフィジカル面も違ってくる。もっともっと全体の精度や判断のスピードを上げていかなきゃいけないと思っています」
目を輝かせながら見据える先には、2021年夏に延期となった東京五輪がある。町田は2019年秋のブラジル遠征や2020年1月のAFC U-23選手権などに招集されているものの、実績では中山雄太や板倉滉、冨安健洋、立田悠悟といった面々より劣る部分は否めない。
「自分のプレーをする、そのうえでの五輪」
だが、町田には190cmの長身、貴重な左利き、センターバックと左サイドバックを柔軟にこなせるユーティリティ性という傑出したストロングポイントがある。再開後のJリーグでコンスタントに出場を重ね、成長スピードを上げられれば、大舞台に立つことも夢ではない。町田のような後発組にしてみれば、東京五輪の1年延期というのはむしろ追い風と言ってもいいかもしれない。
「自分はもともと五輪のことはあまり気にしていなかったですね。今季は開幕戦でしっかり試合に出て勝つことが先にあって、そこから勝ち続けることを考えていたので。目の前の試合を勝ち切る、自分のプレーをする、そのうえでの五輪だと思っています。今の鹿島は新しいことをやろうとしているので、自分でも集中しながらやっていますし、トライ&エラーはありますけど、自分としては成長を第一に考えている。それを続けて初めて五輪が見えてくるのかなという気がします」
本人も強調する通り、五輪という華やかなトーナメントのピッチに立ちたければ、鹿島で難易度の高い新戦術を高いレベルで理解し、実践できるようになることが必要不可欠だ。昨季、15年ぶりにJ1王者に輝いた横浜F・マリノスにしても、ハイラインやビルドアップを守備陣が飲み込むまでには1年以上の時間がかかった。新型コロナウィルス感染拡大の影響で長期の公式戦中断を余儀なくされている今季はより難しいアプローチを強いられるに違いない。
Jリーグ始まって以来とも言われる困難を自らの力で乗り越え、タフで逞しくなった姿を印象付けられれば、町田の評価は間違いなく上がる。そんな明るい未来を彼には力強く切り開いていってほしい。そして、鹿島アカデミー生え抜きプレーヤー初の五輪出場を現実にしてもらいたいものである。
(取材・文:元川悦子、取材日:2020年3月6日)
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