日刊鹿島アントラーズニュース

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2021年5月24日月曜日

◆鹿島復活のカギを握る20歳。「速くてうまい」ウイングがまた生まれた(Sportiva)






 昨季同様、川崎フロンターレが独走態勢を固めているJリーグ。追いかける力があるとすれば、横浜F・マリノスしかないと期待するも、前節(5月15日)、監督交代を機に、昇り調子に転じた鹿島アントラーズとのアウェー戦に、5-3で打ち負けてしまう。

 後続集団の星の潰し合いは、川崎の独走に拍車をかける。川崎以外のファンには歓迎できない展開ながら、試合そのものに目を向ければ、この鹿島対横浜FM戦はそれを圧しても面白い好試合だった。

 サッカーそのものに可能性を感じたのは、勝った鹿島より、やはり横浜FMだった。高い位置でボールを奪おうとする攻撃的な姿勢がより鮮明だったからだ。そうした中でなぜ鹿島は勝利を掴むことができたか。撃ち合いを制すことができたか。

 理由を3つ挙げるとすれば、ひとつは2失点に関与した横浜FMのGKのミス。もうひとつはハットトリックを達成した土居聖真のサッカーセンス。そして3つ目は、右MFとして先発した松村優太のスピードになる。

 松村は、昨年1月の高校選手権で静岡学園の右ウイングとして全国一に輝いた入団2年目の若手だ。

 試合は前半を終えて1-1。内容で上回る横浜FMは、順当に先制したものの、GK高丘陽平のキャッチミスで同点とされていた。さらに後半開始30秒、ハーフタイム直後の喧噪を縫うように、土居に勝ち越しゴールを許してしまう。

 試合は2-1。リードするのは鹿島ながら、サッカー的には横浜FMのほうが上。残り時間は十分ある。横浜FMが同点弾を決め、さらに逆転する可能性は、それでも50%以上あると踏んでいた。

 後半8分。横浜FMのボールを三竿健斗がカット。ボールが白崎凌兵に渡り、さらに土居に送られた瞬間、松村は疾走を開始した。

 それは、対峙する横浜FMの左サイドバック、ティーラトンの方が先に追いつきそうな、通ればラッキーという半分アバウトな縦パスに見えた。

 だが、松村は速かった。みるみる加速すると、右サイドから斜め前方に走ったその鼻先に出たボールに急接近。ドリブルをまじえながらティーラトンを引き離そうとした、その瞬間だった。ティーラトンはたまらず足を掛ける。松村は何とか堪えるも、背後からさらに手を伸ばされ転倒。PKをゲットした。

 ちなみに、このティーラトンのプレーに対してイエローカードは出なかった。出ても不思議のないプレーに対し、主審はなぜ出さなかったか。その悪質さより、松村のスピードに主審も目を奪われたからではないかと思う。ティーラトンに同情したくなるほど、松村は速かった。

 このPKを土居が決めスコアは3-1。横浜FMに50%以上あると見ていた逆転の目は大きく萎んだ。しかし、それでも筆者は、20%ぐらいはあるのではないかと密かに期待していた。

 ところが、そのわずか2分後、松村は再度、50メートルを5秒台で走るとされる快足を披露。横浜FMの息の根を止めるような決定的なプレーに関与した。

 右ウイングの位置で、同じく入団2年目の荒木遼太郎から縦パスを受けた松村は、再び走った。チャージにきた横浜FMの快足左ウイング、前田大然を跳ね飛ばすと、完全にトップスピードに乗った。そしてゴールライン際まで前進。マイナスに折り返した。これが再び荒木の元へ。4点目のゴールのアシストとなった。

 その後、鹿島が1点、横浜FMが2点追加したが、試合を決定づけたのは、松村のこのプレーだった。

 昨季は13試合に出場。だがそのすべては交代出場で、今季もこれが10試合目だったが、先発は3試合にとどまっていた。高卒で同期入団の荒木、さらには染野唯月(現在ケガで離脱中)にも後れを取っていた。

 荒木と染野が技術系の選手であるのに対し、松村はサイドで威力を発揮するスピード系。サイドハーフが真ん中に入りがちな、旧ブラジル式4-2-2-2的な4-4-2を敷く鹿島のサッカーと相性がいいのは荒木。松村が出場機会に恵まれない理由のひとつはそこにある。

 だが、松村はこの2試合前に行なわれたFC東京戦(5月9日)に、今季2度目の先発を飾ると、その前半終了間際、ゴール正面から鮮やかなミドルシュートを叩き込んでいた。ザーゴから相馬直樹への監督交代を機に、松村の出場時間は確実に増えている。

 荒木は、言ってみれば従来型の好選手だ。個人的には、ドリブルにも光るものがあるので、サイドアタッカーとしても十分いけそうな気もするが、どちらかと言えば、中盤タイプだ。小野伸二、中村俊輔、中田英寿、稲本潤一、藤田俊哉、名波浩、遠藤保仁、中村憲剛......の系譜だ。

 日本は中盤に優れた人材を輩出してきた。その一方で最近は、スピード系の選手も数を増やしている。スピード系の選手といえば、中盤系の選手に比べ、ボール操作がうまくないという印象がある。荒木と松村の関係にもそれは見て取れるが、その差は、かつてほどではなくなっている。

 32歳のベテラン永井謙佑(FC東京)は微妙だが、20代ともなると、スピード系の選手でも、見るからにうまくない選手は、もはや見当たらなくなっている。伊東純也(ゲンク)、浅野拓磨(現在所属なし)、古橋亨梧(ヴィッセル神戸)、前田大然、仲川輝人(横浜FM)、松尾佑介(横浜FC)ら、代表レベルに多くの選手が名を連ねる。

 3FWのスタイルが主流を占めるようになったことも輪を掛ける。特にドリブルが得意なウイングタイプの需要は、確実に増えている。

 松村はそうした意味では、今日的な選手になる。鹿島より、この日の対戦相手である横浜FM、さらには川崎フロンターレのようなサッカーをするチームのほうが、彼には適しているようにも見えるが、時代に後押しされている選手であることは確かだ。

 松村は日本を代表するスピード系の選手になれるか。小さくてうまい荒木もいいが、小さくて速い松村にも目を凝らしたい。


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