鹿島アントラーズは19日に行われるガンバ大阪との開幕節を控えている。大幅な若返りを図ったチームの中で、注目すべきはサガン鳥栖から加入した樋口雄太だろうか。13日に行われた水戸ホーリーホックとのいばらぎサッカーフェスティバルでは、その才能の片鱗を見せていた。(取材・文:元川悦子)
再建を目指す鹿島アントラーズ
大岩剛監督時代の2018年AFCチャンピオンズリーグ(ACL)制覇以来、タイトルから遠ざかっている鹿島アントラーズ。負のサイクルに終止符を打つべく、アンデルレヒトやアル・アハリで手腕を発揮したスイス人のレネ・ヴァイラー監督を招へいし、新たな体制で再建へのスタートを切った。
しかしながら、ご存じの通り、オミクロン株拡大による新規外国人入国制限の影響で、新指揮官と外国人コーチ陣は不在。1月の始動時からクラブOBの岩政大樹コーチが中心となって準備を進めてきた。
「予期せぬタイミングで起きたことなので、戸惑いはなくはない」とJクラブで初めて指導する岩政コーチは偽らざる胸の内を吐露した。が、19日の開幕・ガンバ大阪戦は刻一刻と迫っている。しかもその後は3月6日の柏レイソル戦まで中2~3日の5連戦。最大限の調整をして本番を迎えるしかないのだ。
そこで注目されたのが、13日のいばらぎサッカーフェスティバル・水戸ホーリーホック戦だった。開幕前最後の調整試合ということもあり、土居聖真や上田綺世ら不安を抱えるメンバーはベンチ外。逆に鈴木優磨やキム・ミンテなど新戦力が先発出場し、フレッシュなムードの中、試合が始まった。
新加入・樋口雄太の輝き
「レネ監督からは前へのスプリントやゆっくり回すところのメリハリを強調されていて、より直線的にゴールを目指す形が求められているなと感じます」と宮崎キャンプ中に三竿健斗が話していた通り、この日の鹿島は最終ラインから組み立てる形と縦パス1本で前線へ展開する形を使い分けながら、積極的に攻めに出ていた。
「選手1人1人を見ていて、パフォーマンスが悪い人間がいなかった」と岩政コーチも言う。広瀬陸斗と安西幸輝の両サイドバック(SB)はアグレッシブに高い位置を取り、ディエゴ・ピトゥカは攻守両面で機動力を示していた。エヴェラウドも最前線でキレのある動きを見せており、全体的に仕上がりは悪くなさそうだった。
とりわけ、ピトゥカとボランチでコンビを組んだ樋口雄太の一挙手一投足は光っていた。前半から意欲的にボールに触り、攻撃を組み立てながら前へ出ていく姿勢を強く押し出したのだ。守備面では縦に攻め上がった安西のポジションを埋めてリスク管理に努めるなど、鳥栖時代同様に気の利いた位置取りを要所で見せていた。
そして前半27分には、ペナルティエリア手前でボールを受け、自ら突破を試みる。切れ味鋭いドリブルには対峙していた前田椋介もたまらずファウルをしてしまい、鹿島はPKをゲットする。これを鈴木が惜しくも外してしまい、先制点とはならなかったが、樋口自身は「ああいうプレーが自分の良さだと思っているので、どんどん出していきたい」と手ごたえをつかんだ様子だった。
右サイドで仕掛けた樋口雄太
スコアレスで折り返した後半。鹿島は一瞬のチャンスを水戸の長身FW木下康介に決められ、まさかのビハインドを背負ってしまう。
となれば、鹿島はより攻めのギアを上げなければいけない。岩政コーチは右MFの和泉竜司を下げ、三竿を投入すると同時に、樋口を右へ移動させ、より攻撃的なタスクを担わせた。
となれば、彼のアグレッシブさは一気に増す。左から中央に絞ってゴールを狙ってきた荒木遼太郎とともにゴールを奪おうという意識を鮮明にするようになり、仕掛けの回数も増えてくる。
終盤、染野唯月と仲間隼斗が加わってからは非常に厚みのある攻めが見られた。ただ、相手もこの時間帯は5バックにして徹底的に守っていたため、最後までゴールを破ることができず。水戸に初黒星を喫する結果を余儀なくされたが、鹿島初見参の背番号14が好印象を残したのは紛れもない事実。岩政コーチも「いい情報が得られた」と満足そうに語っていた。
ただ、樋口自身は2つのポジションをこなす中で物足りなさを感じたようだ。
「反省点だった」と振り返ったのは…
「前半はボランチやりましたけど、もっと自分のところでボールを落ち着かせられることができればスムーズに攻撃に移ることができたかなと。ボールを受けた瞬間、最初に前の選手を見ることでよりチームの良さが生きてくる。そこはちょっと反省点だったと感じています。
後半は右サイドを途中からやりましたけど、ボールに絡んでチャンスメークを求められてくる。連係を高めるところもそうですし、ミドルシュートだったり、遠いレンジから狙えるところは自分のよさ。そこも生かしていかないといけないと思いました」
確かに鳥栖で10番を背負っていた頃のように自由自在に動いて自分らしさをいかんなく発揮するというレベルには達していないのかもしれない。ただ、鹿島の場合は周囲のレベルも高い。ボランチであれば、ピトゥカとのコンビの成熟度を高めることで相手にとってより脅威になれるはずだし、三竿とであれば樋口が攻撃的MFのようなプレーも見せられるようになるだろう。
右サイドに回る場合も広瀬や常本佳吾との縦の関係を構築できればもっと敵陣深く侵入できる回数を増やせるし、FW陣と絡んでフィニッシュに行くパターンもある。リスタートの名手という武器も含め、彼がピッチ内でもたらせるものは少なくないのだ。
「それをラスト1週間で突き詰めたい」
今季の新加入組の中で見ても、復帰組の鈴木優磨、昨季の名古屋グランパスでYBCルヴァンカップ制覇の原動力となったキム・ミンテに匹敵する存在感を示しているといっても過言ではない。ボランチとアタッカーを両方できて、攻守両面でハードワークでき、ゴールに直結する仕事もこなせるマルチなMFというのはそうそうお目にかかれない。
昨季の鳥栖で37試合出場6ゴールという実績はやはり確固たるものがある。それを鹿島で確実に出せるようになれば、彼は主力級の1人として大いに躍動できるはずだ。
「水戸戦ではここまで積み上げてきたものを出すシーンがなかなかなくて、改善する余地があるかなと感じました。もっと意図的にボールを回して数的優位を作ったり、細かいところをやっていくことで得点も生まれる。それをラスト1週間で突き詰めたいと思っています」
本人も開幕に向けてラストスパートをかけるつもりだ。25歳の小柄なダイナモが常勝軍団をどう変貌させるのか。まずは19日のガンバ大阪戦を興味深く見守りたい。
(取材・文:元川悦子)
【了】