日刊鹿島アントラーズニュース
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2016年11月26日土曜日
◆川崎Fの敗因。故障者の連鎖、大久保の移籍報道。大一番で悲嘆にくれた“等々力劇場”(livedoor)
http://news.livedoor.com/article/detail/12330236/
幾度もドラマを生んできた「等々力劇場」
川崎フロンターレと鹿島アントラーズが等々力陸上競技場で激突した、23日のJリーグチャンピオンシップ準決勝は、年間総合勝ち点で大差をつけられる3位に甘んじた後者が1‐0で制した。クラブ史上で最多となる勝ち点72、今シーズンのJ1最多となる68得点を叩き出した前者は、なぜ下剋上を許したのか。数々の劇的なドラマを生み出してきた「等々力劇場」が、悲嘆に暮れた理由を探った。(取材・文:藤江直人)
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試合時間が残り10分を切ってから決まったゴール数は12。ホームの等々力陸上競技場における川崎フロンターレの総得点が36だから、実に3分の1がスリリングな時間帯に生まれたことになる。
しかも、12のうち後半アディショナルタイムに飛び出したゴールが5を数える。9分間が表示された後半アディショナルタイムで2点差を追いつかれ、最後のワンプレーでFW小林悠が決め返して横浜F・マリノスを振り切った9月25日のセカンドステージ第13節は、未来永劫に語り継がれる死闘となるだろう。
予測不能のドラマを幾度も生んできたことから、いつしかフロンターレのホーム戦は「等々力劇場」と命名された。しかし、鹿島アントラーズを迎えた23日のJリーグチャンピオンシップ準決勝は、舞台の幕が上がらないまま5分間のアディショナルタイムを含めた後半が終わりを告げた。
スタンドを沸かせたのは、むしろアントラーズのほうだった。途中出場のFW赤崎秀平がフロンターレのパスをカットし、後半5分に値千金の先制弾を決めているFW金崎夢生へパス。韓国代表GKチョン・ソンリョンと競り合いながらゴールへ押し込んだ後半50分の歓喜は、金崎のハンドで取り消された。
直後の攻撃。パワープレーから右サイドを崩し、攻め上がったDFエウシーニョが切り返しから絶妙のクロスを送るも、DF谷口彰悟が放ったヘディング弾は無情にもゴールバーを大きく越えていく。そして、37歳のベテラン、GK曽ヶ端準がゴールキックを蹴った直後に主審のホイッスルが鳴り響いた。
ホームにおける今シーズン2度目の完封負けとともに、悲願の初タイトル獲得への夢がまたも道半ばで砕け散った。キャプテンのMF中村憲剛は十数秒も呆然とその場に立ち尽くし、エースのFW大久保嘉人はセンターサークル付近におもむろにひざまずいた。その頬を大粒の涙が伝っていた。
クラブ史上で最多を記録した年間総合勝ち点72は、浦和レッズの74に続く2位。アントラーズも3位につけているが、勝ち点差は13も開いている。34試合で68得点、つまり1試合平均で2ゴールを叩き出した数字もJ1ではナンバーワン。失点も昨シーズンの48から39へ大きく改善された。
頻発した故障者の離脱
風間八宏監督のもとで超攻撃的なサッカーを志向して5シーズン目。攻守両面で最高のハーモニーを奏でたフロンターレが、レッズが待つ決勝を前になぜ一敗地にまみれてしまったのか。理由のひとつに、最後まで食い止めることができなかった、故障者の連鎖があることは言うまでもないだろう。
アントラーズとの準決勝は、ともにハリルジャパンに選出された小林が左太もも裏の肉離れで、MF大島僚太が左ふくらはぎ痛でベンチ入りメンバーから外れた。シーズン中に3度も戦線離脱を強いられた36歳の中村も、強行出場を続けてきた反動となる左股関節痛でベンチスタートとなった。
攻撃陣の主力を3人も欠く苦境で、風間監督は「3‐4‐2‐1」で戦うことを選択。ボランチに板倉滉、シャドーに三好康児のU‐19日本代表コンビ、ワントップに順天堂大学卒のルーキー・長谷川竜也が配された布陣を見て、アントラーズのMF遠藤康はこんな言葉をチームメイトたちと交わしたという。
「憲剛さん(中村)と大島(僚太)が出ていなかったので、前からプレッシャーをかけていったら、けっこうボールを取れるんじゃないかと。それが上手くいったというか、前からいったときはボランチのところでボールを取れたし、そういうのが徐々にボディブローみたいに効いていったのかなと思っています。
準決勝へ向けた練習の段階では『ブロックを敷いて戦おうか』という話もみんなでしていたんですけど、最後は実際に試合のテンションを見ながら『いけると思ったときはいこう』となった。それが鹿島らしさでもあるし、引いて守るだけではやっぱり勝てないので」
しかも、自陣からのロングボールに抜群のタイミングで飛び出した長谷川が左太ももの裏を痛め、前半21分で交代を余儀なくされる想定外のアクシデントが発生する。ガンバ大阪とのセカンドステージ最終節で初ゴールを決めた長谷川は、実は今シーズンだけで筋肉系の故障に3度も泣かされている。
他にもFW森本貴幸、DF奈良竜樹、井川祐輔、エドゥアルド、武岡優斗、登里亨平、GKチョン・ソンリョンといったメンバーが、シーズン中に決して短くない期間の離脱を強いられている。試合中の不可避な故障もあるが、チームとして何らかの問題を抱えていたともいえるだろう。
「長いシーズンを通して戦うにはけがをしない選手が必要」(風間監督)
対するアントラーズも、MF柴崎岳が右足の違和感で欠場した。しかし、ハードワークとデュエルの面で柴崎を上回る永木亮太が、ボランチ及び左サイドで柴崎の穴を補ってあまりある活躍を見せた。対照的に最後までチーム全体のコンディションがそろわなかった点に、風間監督もこう言及する。
「もちろん選手が全員そろっていたほうがいいと思います。しかし、ここまでほとんどそろったことがないですし、今日はそのなかで(中村)憲剛がようやく戻ってきてくれた、という状況でした。ただ、僕はすべての選手を信用しているので、今日できるベストでいこうと。
これから先、長いシーズンを通して戦うにはけがをしない選手が必要。1年を通して戦った経験をもつ選手が、ウチにはどうしても少なかったので。そういう点も来年のフロンターレは着目して、選手を集めるべきなのではないかと。ただ、いまの段階で僕は何かを言う気はありません」
おそらく中村は、後半に勝負をかけるときの「ジョーカー」としてスタンバイさせていたのだろう。長谷川に代えて中村を送り出さざるを得なくなった状況は、風間監督にとっても大きな誤算だったはずだ。そして、さらに大きな誤算は、アントラーズの「掌のうえ」で最後まで踊らされていたことだろう。
より具体的にいえば、中村が投入されたとはいえ、それでも大島と小林を欠くフロンターレは怖さを与えられなかったことになる。頼みの大久保も後半はシュートを放てず、最後は森本、センターバックのエドゥアルドを前線に配置するパワープレーに転じても、アントラーズの牙城は揺るがなかった。
風間監督がしばしば仕掛けたパワープレーに関して、中村は他チームが用いるそれとは一線を画すものと強調してきた。ロングボールをやみくもに放り込むのではなく、ターゲットとなることが多いエドゥアルドを狙ったロングボールも「要はクロスではなくパスですから」と笑顔を見せたこともある。
「相手がエドゥー(エドゥアルド)に目を奪われればチャンス。エドゥーを囮に使って逆に地上戦にもち込むこともできるし、そこは個人個人の瞬間的な解釈だから。チームプレーじゃなくて、個人の質の話。こういう会話が(メディアの皆さんと)多くできればいいよね」
「パワープレーをしてきてほしかった」(昌子源)
アントラーズ戦でもボランチのエドゥアルド・ネット、左サイドバックの車屋紳太郎らが決して大雑把ではないロングボールを前線へ供給したが、その時点で相手の術中にはまっていた。アントラーズの最終ラインを束ねる昌子源は、「パワープレーをしてきてほしかった」と試合後に本音を明かしている。
「川崎さんの戦いやから何とも言う気はないけど。ただ、どちらかといえば、川崎さんらしく最後までつないで攻めてきていたら、僕たちもずれて、ずれてとなる。最後のほうは危ないシーンもあったけど、正直、僕たちもはっきり戦うことができた。とにかく僕と(ファン・)ソッコではね返す。適当でもいいからクリアする、という感じでね」
実際、フロンターレがパスをつないで決定的なチャンスを作ったシーンもあった。1点を追う後半14分。小笠原との1対1を制した三好がそのままゴール前に迫り、利き足の左足からスルーパスを送る。センターバックのファン・ソッコの背後を取り、ペナルティーエリアの左側へ侵入していったのは中村だった。
このとき、逆サイドからカバーリングに走ってきた昌子には閃くものがあった。中村は必ず切り返して、右足でシュートを放ってくる、と。もっとも、100パーセントの確率ではない。最も避けたいのは、そのまま左足でシュートを放たれること。昌子は瞬時に罠を張ろうと決意した。
「あそこで僕がカバーリングのスピードを落としていたら、そのまま憲剛さんに左足でシュートを打たれていた。そこでわざと大げさにスライディングしていったら、案の定、切り返してくれた。あの切り返しに1秒かかるだけで、ソッコは間に合うだろうし、ソガさん(曽ヶ端)も一歩前へ出られると思ったので」
昌子にチャレンジを任せてカバーに回っていたファン・ソッコが、切り返しからシュート体勢に入った中村に猛然とプレッシャーをかける。曽ヶ端も前へ詰めて、両腕を大きく広げている。シュートコースがないととっさに悟ったのか。中村が放った一撃は、ゴール左側のサイドネットをかすめて外れた。
直後にピッチで突っ伏し、中村は頭を抱えている。対照的に曽ヶ端とソッコが右手を軽くタッチさせ、カバーに回っていたDF西大伍も昌子へ右手の親指を立ててサインを送っている。試合後の昌子は、その光景に「僕たちディフェンス陣の、組織の勝利やった」と会心の笑顔を浮かべている。
風間監督の退任、大久保移籍報道の余波
続出した故障者と、終始アントラーズにコントロールされた試合展開に加えて、フロンターレの敗因としてどうしても見逃せない点がある。セカンドステージを戦っていた10月に風間監督、前人未到の3シーズン連続で得点王を獲得してきた大久保の契約満了に伴う退団が報じられたことだ。
しかもセカンドステージ終了後には、前者がクラブ史上初のJ2降格を喫した名古屋グランパスの次期監督に就任し、後者がFC東京入りすることがそれぞれ報じられている。シーズン中ということで風間監督はグランパスの件に関しては沈黙を貫いたが、大久保は7日の段階で自ら移籍を明言している。
大久保としては、報道が先行するなかで何も言及しないことは、ファンやサポーターに対する裏切り行為だと思ったのだろう。しかし、一丸となって戦うことが求められる大一番を前に、フロンターレを強豪へステップアップさせた指揮官とエースの退団が明るみになった余波は決して小さくない。
サッカーはロボットではなく、さまざまな感情を抱いた人間たちが集まって繰り広げられる。たとえばアントラーズにも、チームを揺るがす事態が発生している。交代を命じられた金崎が石井正忠監督に悪態をついたことと、直後に石井監督が心労からくる体調不良で一時的な休養に追い込まれたことだ。
いずれもセカンドステージで不振にあえいでいた8月中に起こったことで、結果として逆転で頂点に立ったファーストステージから、セカンドステージでは11位にまで落ち込んだ。第14節以降を4連敗で終えた軌跡を含めて、ピッチ外の騒動が決して無関係ではなかったと昌子は打ち明ける。
「僕たちには影響がないと強がってはいましたけど、正直なところ、どこかにはあったと思う」
「2ステージ制+チャンピオンシップ」による皮肉な構図
精神的な動揺は、ピッチにおけるパフォーマンスに少なからず影響を及ぼすということなのだろう。もっとも、アントラーズにはチーム創成期から脈々と受け継がれてきた常勝軍団の歴史が傷口を最小限に留めさせ、瞬く間に快方へと向かわせる究極の処方箋と化した。
翻ってタイトルとはまだ無縁のフロンターレは、雨降って地固まる、とはならなかった。J1に定着してまだ12シーズン目。歴史の濃密さは、17個ものタイトルを誇る「オリジナル10」のアントラーズにかなわない。クラブひと筋14年目の中村にしても、故障を治癒させて間に合わせることが優先された。
日本サッカー協会が定める規約では、契約が満了する選手はその6ヶ月前から別のクラブと交渉ができることになっている。来年1月末で契約が切れる大久保に対して、FC東京がフロンターレを通してオファーを出したのは10月下旬。その後の交渉を含めて、FC東京側に瑕疵はない。
もっとも、これまでと異なるのは、レギュラーシーズンが11月3日をもって終了したことだ。従来よりも約1ヶ月、昨シーズンと比べても19日も早い。各チームとも来シーズンへ向けた編成作業にすでに着手しているし、チャンピオンシップに出場する3チーム以外は、そうした動きがより顕著になる。
特に天皇杯でも緒戦の2回戦すでに敗退している名古屋は、契約を延長しなかったボスコ・ジュロヴスキー監督の後任を一刻も早く決めて、1年でJ1へ復帰するためのチーム編成を加速させる必要にも迫られていた。そうした過程で情報が漏れるのは、どうしても避けられない部分もある。
Jリーグはすでに、来シーズンから1ステージ制へ戻すことを決めている。議論の過程で村井満チェアマンは日本プロサッカー選手会(JPFA)の協力を得て、J1の全所属選手に対するヒアリングを実施。その結果として、大多数から「Jリーグのシーズンがいっせいに終わることが非常に重要」という意見を得た。
JPFAとしては「オフの期間の均等化」を、何よりも重要視している。しかし、実際問題として、最大で約2ヶ月を数えるオフの長さの差異にもたされる弊害は、選手たちのコンディション作りに大きな違いを生じさせるだけにとどまらない。
今シーズンのJ1の頂点を決める戦いの第一歩にして、攻撃力と伝統とが火花を散らす、白熱必至の準決勝をメンタル面で少なからずスポイルしていたのならば――。2年間で幕を閉じる「2ステージ制+チャンピオンシップ」は、Jリーグ自らが自分たちの首を絞める皮肉な構図をも生み出していたことになる。
(取材・文:藤江直人)
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