日刊鹿島アントラーズニュース
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2016年12月27日火曜日
◆東福岡のJ内定3人衆が選手権席巻? 彼らはエリートか、それとも雑草か。(Number)
http://number.bunshun.jp/articles/-/827152
「赤い彗星」
真紅のユニフォームに身を包む高校サッカー界の雄・東福岡が、2連覇を懸けて高校選手権に挑もうとしている。
2015年度はまさに“東福岡の1年”だった。
8月のインターハイで2連覇を成し遂げると、高円宮杯プレミアリーグ・ウエストでは並み居る強豪Jユースを抑え、2位の成績を残す。高校選手権では、3回戦で市立船橋を撃破し、決勝戦では國學院久我山に5-0という圧勝劇を見せて優勝を果たし、日本サッカーのユース年代を赤で埋め尽くすこととなった。
この時のメンバーが多く残った今年は、当然のように各大会で優勝候補に挙げられた――が、大方の予想に反し、彼らはひどく苦しむこととなった。
3連覇が懸かっていたインターハイでは、初戦で昌平高校を相手に2-3とまさかの敗戦。
プレミアリーグ・ウエストでは開幕3連勝と上々の滑り出しを見せていたが、第14節にセレッソ大阪U-18を相手に0-3、15節には京都サンガU-18に3-7、16節にサンフレッチェ広島ユースに0-3と3連敗で急失速。残り2節でわずかに盛り返したものの、年間ランキングでは4位に終わることとなった。
これで、残された大きな大会は高校選手権のみとなった。
このまま無冠で終わるわけにはいかない。2連覇というよりも、このまま無冠で終わらないために。
チームにプロ内定者が3人もいる市立船橋と東福岡。
「僕らは王者ではなくチャレンジャー。インターハイ優勝の市立船橋や、チャンピオンシップ優勝の青森山田を倒していかないといけない」(小田逸稀)
チャレンジャーとしての意識を口にしたDFの小田は、来季から鹿島アントラーズに入団が内定している。他に1年時から出番を掴んでいたMF藤川虎太朗がジュビロ磐田に、MF高江麗央がガンバ大阪に内定している。
プロ内定選手が1チームに3人もいるのは、全国で東福岡と市立船橋のみ。彼らの存在こそが、今大会で東福岡に注目が集まる要因の1つでもある。
目前の高校選手権を前に、3人のJ内定選手にそれぞれ話を聞いたが、高校選手権に対する熱い思いと、激しいレギュラー争いの中で掴んだ貴重な経験、そして何よりも今年の成績に対する悔しさが滲んでいた。
厳しい試練を与え続ける東福岡で、逞しく育つ選手たち。
「ヒガシ(東福岡の呼称)の3年間は本当に苦しかった。でも、ここに来たからこそ味わえた苦しみだし、そのおかげで成長することが出来ました。ヒガシは常に厳しい競争が待っているし、気が抜けない環境なので」
こう語ったのは藤川虎太朗。
J内定選手3人の中で、彼が最初に陽の目を見た選手だといえる。
1年時からトップチームの試合に出場し、2年時のインターハイでは5ゴールを挙げて得点王に輝いてもいる。その冬には、怪我によるブランクを乗り越えて高校選手権準決勝からスタメン復帰し、決勝も1ゴール1アシストと抜群の存在感を見せて優勝に貢献した。
だが2016年に入ってから再び怪我に苦しむようになり、復帰してもスタメンから外されることが増えた。選手権出場を決めた県予選決勝でも、彼はベンチスタートだったのである。
「選手権出場を決めたことは嬉しかったのですが……県予選決勝が終わって、(ベンチスタートが)悔しかったので、実家に帰ってから近くの小学校で練習をしていました。来年はプロになる自分がこの試合に出ていないことは、凄く不甲斐無かったし、悔しい気持ちしかありませんでした。
でも、そういう厳しい環境をずっと与えてくれるのも東福岡。それは乗り越えるチャンスでもあるので、ポジティブに捉えています。選手権までにしっかりと準備して、より成長をした姿を見せないといけないと思っています」
コンディションは徐々に上がって来ているというが、まだ彼が高校選手権のピッチにスタートから立てる保証は無い。しかし、彼の“爆発”無くして、東福岡の2連覇はあり得ないのだ。
夢を叶えたはずだが……まだ目標が残ったまま。
小田逸稀は高校2年時に左サイドバックのレギュラーポジションを獲得した選手である。173cmと上背こそ無いが、抜群の身体能力を活かしたヘッドの強さ、球際の強さが光る守備と、左右両足から繰り出される正確なキックを持ち、昨季もインターハイ優勝、選手権優勝に大きく貢献をした。飛躍の1年となった昨季だったはずだが……彼の表情は晴れなかった。
「インターハイ、選手権ともに試合の『優秀選手』になることを個人的な目標にしていましたので。優勝という結果を2大会とも残したのに、(優秀選手には)選ばれませんでした……」
優勝に貢献した自覚はあった。
しかし、周りの評価はそうではなかった。
そして、「今年こそ」と臨んだインターハイでは、初戦敗退を喫し、結局優秀選手に選ばれる場に立つことさえ出来なかった。プロ入りという目標こそ達成したが、自ら決めた昨季の目標を達成しない限り、彼の心は晴れようが無い。
東福岡の精神と、鹿島アントラーズの精神を抱えて。
当然、優秀選手に選ばれるためには高校選手権で勝ち進まなければならない。
「クラブワールドカップを見ても、鹿島はしたたかさとチャレンジ精神が凄い。相手がレアル・マドリーで、すべての面で格上であっても、あそこまで押し込めたのはメンタル面が大きいと思う。来年はそのクラブでプレーする以上、選手権で僕がその精神を見せないといけない」
東福岡の主軸としての確固たる決意と、鹿島の一員になる自覚。このふたつの意識で、高校選手権に挑む。
「僕の方が、どん底を味わっている」
「僕は(小田)逸稀やコタ(藤川虎太朗)よりは、どん底を味わっている方だと思いますよ」
こう語るのは高江麗央だ。彼の言葉通り、3人の中で彼が一番“遅咲きの花”だった。
1年時はトップチームに絡むことが出来ず、2年になってもレギュラーポジションを掴めないでいた。そして、昨年のインターハイ後に彼は一番下のチーム(1年生チーム)にまで突き落とされていた。
「最初は『何で外されたんだ』と思っていたのですが、でも周りは後輩ばかりだったので、自分がしっかりして中心になってやっていかないといけないと思い直して、プレーするようにしました。そこで『ダメなのは自分なんだ』と考え直すことが出来たし、『チームのために』と強く思えるようになったことが、自分が一番変わった部分だと思います」
実は、それまでの高江はドリブラーにありがちな“俺が、俺が”一辺倒のタイプだった。
「正直、物凄く尖っていました。監督の要求や周りの意図を考えず、自分のことばかり考えていた」
しかし、周りとの連係無くしては、持ち味を出すことが出来ないことに気づく。
「本当の意味での『自分の良さを出す』と言うことはどういうことかを考えたときに、『フォア・ザ・チーム』という部分が欠けていました」
一番下のチームで心を入れ替えて取り組んだ高江は、その後、高校選手権直前の12月に再びトップチームに戻されている。それは、一種のショック療法だった。そして、高校選手権では故障を抱える藤川に代わって、初戦からスタメンでチームを支えていた。
しかし……準決勝、決勝は藤川にスタメンの座を譲る形となった。
次こそは、決勝でポジションを取られないように……。
「もし準々決勝までに僕がチームで一番点を獲っていたり、一番チームに貢献していると監督が認めるようなプレーが出来ていたら、準決勝、決勝は僕がスタメンだったかもしれない。そこは受け入れないといけない」
今年は“最後まで信頼される選手”になる、と誓う。高校選手権でも当然、その精神を貫いて、チームの勝利のために戦う決意を固めている。
「このままでは終われない」という想い。
それぞれの物語を経て、臨む最後の選手権。
「このままでは終われない――」
三者三様の想い。
だが、3人の根底にあるものは同じだった。それぞれがやがて違う環境に飛び込んで行く中で、やり残したことを全力でやりきる。
「東福岡のために全力で頑張る。チームが優勝出来れば、自分の借りも返せると思うので。まずは(サッカー部の)311人のメンバーと監督、スタッフ、保護者の皆さんのために2連覇目指してやりたい」(高江)
「赤い彗星」は九州の大地から有終の美を求め、再び関東に降臨する――。
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