サッカーの世界的スター選手、アンドレス・イニエスタがJリーグのヴィッセル神戸に完全移籍したニュースは、日本のみならず世界中のサッカーファンから注目を集めた。名門FCバルセロナとスペイン代表の両方で数々の栄冠を勝ち取った世界的名手の加入は、ヴィッセルはもちろんのこと、日本やアジアのサッカー界にもポジティブな影響をもたらすだろう。25周年を迎えたJリーグの歴史のなかでも、トップクラスの出来事であるのは間違いない。
30億円超と推定されているイニエスタの年俸も、Jリーグの歴史の中では破格の金額だ。当然、ヴィッセルもこれだけの資金を投じるからには、それに見合うリターンを必要とする。今回の移籍を主導したヴィッセルのオーナーである楽天の三木谷浩史・代表取締役会長兼社長も、クラブと楽天にもたらされるであろう、いくつかのメリットを試算しているはずだ。
イニエスタ獲得のコストに見合うマーケ効果
まず第1に考えられるのは、当たり前だが、競技力の向上だ。リーグ戦やカップ戦で好成績を収められれば、そのぶんだけ獲得賞金もアップする。強豪クラブの地位を確立することができれば、広告収入の増加にもつながる。次に、観客動員の伸び。イニエスタ目当てのファンが支払う入場料だけでなく、グッズ販売などによる収入も増加するのは確実だ。
また、グッズ販売や映像配信、観戦ツアー企画など、自社エコシステム内での展開にもつながる点も見逃せないメリットだ。
楽天はこれまで、プロ野球やJリーグへの参入のほか、FCバルセロナや米NBAゴールデンステート・ウォリアーズなど海外有名スポーツチームとのスポンサー契約を次々とまとめてきた。スポーツへの投資によって企業ブランドを高める成功体験を重ねており、そのことがイニエスタ獲得までのスピード感あふれる展開の裏付けになっていたのは間違いない。
地域密着とマーケティング
たとえば『グランブルーファンタジー』などのゲームをリリースするCygames(サイゲームス)は、サガン鳥栖のスポンサーだ。ユニフォームやスタジアムへの広告掲出のほか、企業版ふるさと納税による寄付金が本拠地スタジアム(ベストアメニティスタジアム)の改修に使われるなど、積極的に支援している。企業ブランドの向上という目的以外に、同社の渡邊耕一・代表取締役社長の出身が佐賀県ということで、地元応援や地域活性化の狙いもあるそうだ。
地域密着はJリーグの理念であり、クラブの本拠地と何らかの関わりがある企業がそのクラブをスポンサードするケースは多い。IT企業では、トランスコスモスが2015年の「BPOセンター長崎」新設を機に、V・ファーレン長崎のスポンサーを開始。2016年には、ホームスタジアム(トランスコスモススタジアム長崎)の命名権も取得し、長崎県での企業ブランドの認知向上を進めている。
長野県諏訪市で創業し、現在も本社や開発拠点を長野県中南信地域に置くエプソンは、松本山雅FCのスポンサーを10年以上にわたって継続。同社のスマートグラス「MOVERIO」を利用したARスタジアムツアーが開催されたり、チームミーティングの際に使われるプロジェクターを提供している。
また、創業の地のクラブをスポンサードしているのは、京都サンガF.C.を支援する京セラと任天堂も同じ。どちらも知名度アップはいまさら必要ない大企業だが、地元への貢献という意味合いが強いようだ。
スポンサー料の提供だけではなく、自社の強みを活かしてクラブ運営に関与する企業もある。横浜F・マリノスのスポンサーであるSAPは、2015年にマリノスが属するシティ・フットボール・グループとグローバルパートナーシップを締結。同社の技術を活用して、クラブ運営業務の効率化やファン満足度向上のためのマーケティング活動などにクラブと共同で取り組んでいる。
「So-net」のソニーネットワークコミュニケーションズは、2000年から継続して、鹿島アントラーズの公式サイト構築、運用、インフラサポートを担当。その実績から、現在はデジタルマーケティング支援の提案や本拠地カシマサッカースタジアムの「スマートスタジアム構想」への関与も開始している。ちなみに、2018シーズンからJリーグでもユニフォームの鎖骨スポンサーが解禁されたが、アントラーズではメルカリがロゴを掲出している。
ミクシィは2018年4月に、FC東京への出資を発表した。『モンスターストライク』などを統括する同社内の「XFLAG スタジオ」がすでにスポンサーとなっていたが、今後はエンターテイメント領域で培ったマーケティングのノウハウを活用。FC東京のファンやサポーターが仲間と楽しく応援できる空間の提供を目指すとしている。FC東京については、東京23区内でのサッカー専用スタジアム建設を構想していると報じられており、ミクシィはこれにも関わっていくと見られている。
ところで、Jリーグの基礎になったのは、1965年に創設された日本サッカーリーグ(JSL)だ。現在のJリーグには、このJSLに参加していた社会人(実業団)チームが前身となっているクラブが存在し、母体企業がそのままスポンサーになっているケースも多い。
たとえば、日立製作所本社サッカー部が前身の柏レイソルは、現在も日立製作所がユニフォームの胸スポンサーになっている。また、川崎フロンターレの前身は富士通サッカー部であり、富士通やPFU、富士通エフサスなどがスポンサーに名を連ねる。そのほか、松下電器産業サッカー部が前身のガンバ大阪はパナソニック、NTT関東サッカー部が前身の大宮アルディージャはNTTドコモやNTT東日本がスポンサーを務めている。
これらの母体となる企業が継続して支援を続けているケースは多い。加えて大宮アルディージャのホームスタジアムのNACK5スタジアム大宮には、高密度のWiFiサービス「RDIJA FREE Wi-Fi」を導入し、次世代のスマートスタジアムへ進めていくなど、最新テクノロジーを活用する動きもみられる。サービスの導入だけでなく、実証実験の場としても有効だ。スポンサードによるマーケティング面の要素以外にもスポーツをビジネスに活用するケースは増えてきている。
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