「やりたいことが形になりつつある」と内田。指揮官は「満足いく内容」
これほど心が踊る茨城ダービーはあまり記憶にない。相手に情報を渡したくないとの理由からシーズン前にはJクラブとの試合を、ほとんど組んでこなかった鹿島。2005年から始まった水戸とのプレシーズンマッチも、Jリーグ開幕に向けた主力のコンディショニングの意味合いが強く、主力が退いた後に新加入選手を中心にテストがなされてきた。「点検」の視点を持つことはあっても、「新発見」を期待する割合はそれほど多くなかった。
今季から指揮を執るザーゴ監督がその空気を破った。水戸戦の2日前、指揮官は首脳とのミーティングで「ACLは負けてしまったけど、信頼して任せてほしい。任せてもらえれば若手を成長させて、必ずタイトルを争えるチームにする」と訴えたという。そして提案したのがACLプレーオフ、メルボルン・ビクトリー戦から大幅に先発メンバーを変更すること。狙いを「全選手の状態、能力を把握したい」とした。「横一線」やら「白紙」と掲げても、打ち上げ花火で終わることが多いなか、新生・鹿島への強い決意を口にし、本気で実行しようとするのだから期待は高まろうというもの。
1万人近い観衆が集まったケーズデンキスタジアム。ザーゴ色は、確実に濃くなっていた。センターバックがワイドに開き、ボランチが間に入って攻撃を組み立てていく。最前線の人数が増え、文字通りゴールへの道を開拓する。守備もアグレッシブに奪いに行く。特に前半は水戸にボールを奪われても、小さなミスを逃さない寄せでボールを回収して攻撃に移る。その繰り返しだった。後半には精度が失われたが、内田篤人が「やりたいことが形になりつつある」と振り返ったように、攻守に主導権を握る形が見えた。
「前半は完璧に近いゲームができた。フィジカルが良い状態だった時には、良いところが出せたと思う。後半に選手交代やコンディションの部分があって、今はトレーニングで負荷をかけている時期。足が止まって、ちぐはぐな部分はあったけど、トレーニングでやっていることが表現できたんじゃないか。僕としては非常に満足いく試合内容になったと感じている」(ザーゴ監督)
「彼らが目立った存在になった。しっかり育てて戦力にできれば」
メンバーも高卒ルーキーの荒木遼太郎を先発に起用するなど、ACLプレーオフから先発10人を変更した。決勝点を挙げた荒木は確かな技術で魅了し、選手権を沸かせたルーキー松村優太の突破力には思わず声が出る。2年目の関川郁万はスルーパス、ロングボールに大いなる可能性を感じさせ、負担が増えたボランチの永木亮太、小泉慶も攻守両面で堅実な仕事を見せた。
「荒木選手と松村選手の二人は非常に有能で優秀な選手。彼らが目立った存在になった。要求する細かなところに気を配りながらやっている。彼らをしっかり育てて、戦力にできればなと思っています」とザーゴ監督もルーキー二人を絶賛。高い期待を寄せられた荒木は「篤人君に「思い切りやれ」って言われたので、やりました。守備で迷惑をかけた部分もあったけど、ゴールで勝ちにつなげられたので良かった」とプロ初得点を喜んだ。
チーム内外には、いまだACL敗退のショックが残る。チームの建築は始まったばかりで、若い選手が鹿島を背負って立つには課題があることも事実だ。ただ、フロントが「チームを家にたとえるなら、リフォームではなく、建て替える」と目指す今季の方向性が、ピッチで示されつつあることも間違いない。
構成●サッカーダイジェストWeb編集部