日刊鹿島アントラーズニュース

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2021年12月28日火曜日

◆鹿島の監督に就任したスイス人指揮官レネ・ヴァイラーってどんな人? 「ペップのようだ」と評されるその指導哲学とは(Number)






 12月10日、鹿島アントラーズの新監督にレネ・ヴァイラーが就任すると発表された。スイス生まれの48歳。スイスのサッカー、スイスの監督と聞いてイメージの湧く日本人は少ないだろうし、ヴァイラーの知名度もそこまで高くないと思われる。

 ブラジルとの絆が強い“常勝軍団”鹿島が、初めて指揮を任せる第二の外国籍監督とは、いったいどんな人物なのだろう。


スイスの指導者チェックシステムはドイツより厳しい


 スイスは、世界的に見ても厳しく指導者育成がされている国だ。先日ドイツプロコーチ連盟(BDFL)主催の指導者講習会に参加してきたのだが、そこで元FCバーゼル育成部長のビリー・シュミットによる興味深い講義があった。

「スイスでは、指導者の活動が常にチェックされるシステムがある。クラブは、誰がどのカテゴリーを率いているのか、どのくらいの出席率か、どのような練習をしているのか、問題点はないかなど、事細かく記録することが求められている。そうすることで、指導者講習会の際に、その指導者が所属クラブでどのような取り組みをしているのかを確認することができる」

 講習会には、プロコーチライセンス(世界最高峰の資格と言われる、UEFA-S級相当)を取得している指導者も数多く参加していたが、「スイスはドイツよりも相当厳しい」と、一様に感心していた。

「とりわけ、UEFAプロライセンスは厳しい門だ。トライアルには最大30人参加できるが、2日間かけて適性が審査されていく。そして、トップの成績から12人だけが先に進める。スイスには1部10クラブ、2部10クラブ、そして協会における仕事を合わせてもそこまで多くのポストがあるわけではない。ライセンス取得者は沢山必要だが、UEFAプロとなると、多ければ多いほうがいいわけではない。厳選された、確かな実力を持つ指導者だけが参加すべきというのが、我々の考えだ」


足の怪我により28歳で現役生活にピリオド


 ヴァイラーは、そんなスイスで高く評価されている1人だという。講習会後の懇親会でシュミットに尋ねると、「ヴァイラーは人を導くことができる優れた指導者だ」と答えてくれた。

 現役時代はDFとしてスイスの名門FCチューリッヒなどで活躍していたが、足の怪我により28歳でプロ選手生活にピリオドを打った。

 引退後、すぐに指導者一本でセカンドキャリアをスタートさせたわけではない。まずは広告代理店で働き、その後、大学へ入学。コミュニケーション・マネージメント学を学び、卒業している。「知的で総合力のある指導者」と評価されるヴァイラーだが、その下地はこの時期に作られたものだろう。

 並行して、選手として最後にプレーしたFCビンタートゥールで指導者の道を歩み始めた。トップチームのアシスタントコーチに抜擢されたのだ。

 ビンタートゥールとFCザンクト・ガレンでフットボールディレクターと暫定監督を務め、アンダーカテゴリーやFCシャウハウゼンで監督を経験して迎えた2012-13シーズン、FCアーラウというクラブで1部リーグ昇格を実現。翌年は残留に導いたことで、監督として注目を集めるようになった。


ニュルンベルク監督時代には長谷部とも対戦


 アーラウはスイスでも非常に経営規模の小さいクラブで、1部残留は他クラブにおけるリーグ優勝と同じくらいの快挙だ。

 その後、2015-16シーズンにはブンデスリーガのニュルンベルクを率いて2部リーグで3位に食い込み、昇格まであと一歩と迫った。しかし、入れ替え戦でフランクフルトに敗れ、その夢はかなわなかった。

 ちなみに、対戦相手のフランクフルトには長谷部誠がおり、入れ替え戦では2試合ともフル出場を果たしている。2016-17シーズンはベルギーの名門RSCアンデルレヒトを率い、クラブを4年ぶりとなるリーグ優勝へ導いた。

 スイスはフランス語、ドイツ語、イタリア語、ロマンシュ語と、国語が4つもある国だ。それぞれの言語圏に、それぞれの考え方や習慣がある。そんなスイスで監督を務めるには、確かな哲学と柔軟なアプローチがなければならない。


丁寧に考え、配慮を怠らない指導者


 ヴァイラーのバックボーンと言えるスイスのサッカー事情が知りたくて、チューリッヒ近郊にあるバッサースドルフ(現在6部所属)というアマチュアクラブでプレーしている飯野多希留に話を聞いてみた。

「うちの監督はイタリア人。チームメイトにはハーフが多いですね。ポルトガル系、アルバニア系、コソボ系とか。僕はドイツでもサッカーをしてきているんですが、肌感覚だとドイツの方が直接コミュニケーションを取って来る印象です。悪いプレーをしていたら、悪かったとダイレクトに言われる。スイスの場合は、ダイレクトなコミュニケーションが少ないかもしれません。他の人から話を聞いてもそうですね。国民性というか、局面的に感情的にはなるけど、終わったらすぐ気持ちを切り替える傾向があると思います」

 選手個々で異なる性格や志向があるのに加え、文化圏も違うのであれば、指導者の発言の受け止められ方も異なってくる。

 そんなつもりで言ったわけでなくても、ネガティブに解釈されたらお互い苦しくなる。スイス紙のインタビューでヴァイラーがこう言っている。

「私は選手に何か伝えるとき、いつも熟考する。2人きりのときに話すべきか、チームの前で伝えるべきか。大きな声で言うべきか、小声で言うべきか。説明口調で伝えるべきか、感情的に訴えるべきか。長く話した方がいいのか、短くまとめた方がいいのか」

 多言語、多文化圏のスイスの指導者であるヴァイラーは、それくらい丁寧に考え、配慮を怠らない指導者なのだ。

 実際、ヴァイラーはどのようなチーム作りをするのだろうか。


控え選手にはなかなかチャンスを与えない


 飯野経由でスイスのサッカー関係者に話を伺うと「ヴァイラーは戦術的にとても優れた監督」「とても賢い監督。ペップ・グアルディオラのよう」という声を拾うことができた。一方でスイスメディアには「非常に厳格な側面も持つ」と指摘されている。チームの輪を乱す人間やサッカー的にチームにそぐわない選手に対しては、過去のキャリアや名声に関係なく即座に失格の烙印を押すのだそうだ。

 この点に関しては、ニュルンベルク時代にヴァイラーの下でプレーしていた元チェコ代表ヤン・ポラークの指摘が興味深い。

「ヴァイラーは優れた監督だった。チームの力を、本当にすべて引き出すことができる。選手をモチベートするのがうまいし、どんな対戦相手にも適したマッチプランを準備する。だから、ディシプリンが極めて大切なんだ。ヴァイラーの求めることが理解できないとか、問題がある場合は、すぐにベンチに下げられる。僕も何度かベンチに下げられたよ。でもそれによってチームに安定感がもたらされた。ただ、当時は主力ばかりを起用して、控え選手にはなかなかチャンスが与えられなかった。そこは変わっていないかもしれないから、覚悟した方がいいかな、とは思う」

 そうした改善点については、ヴァイラー自身も自覚しているようだ。


選手にはピッチ内外での責任感と自立を要求


 指導者として様々な経験を重ねることで、自身の哲学に確かな自信を持ちながら、より柔軟にチームと向き合おうとしている。スイス紙に次のように答えている。

「選手にはピッチ内外での責任感と自立を要求する。そのためには、チームとして互いに助け合うことが大切だ。選手たちが自分の意見を口にできるよう声をかけている。結果、選手の考えを知ることができるし、彼らが責任感を持ってプレーすることにもつながる。私には“一緒に考えてくれる選手”が必要なんだ。

 練習で、何度も、長時間中断するようなことはしたくはない。インテンシティと流れは重要なプロセスだから選手のためにアドバイスをすることもあるが、ピッチ上で最終的に決断するのは選手なんだ」

 どんな名将であれ、順風満帆な指導者キャリアを送れるわけがない。これまでのやり方そのままでうまくいくこともない。誰もが様々な試練を乗り越えて、成熟していく。

 鹿島アントラーズという新天地を求めたヴァイラーは、“一緒に考えてくれる責任感と自立心のある選手たち”をどのように導き、最適な方程式を見つけ出すのだろうか。


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