彼を見ているといちいち心が動かされる
ついに幕を開けた今季のJ1リーグ。それぞれのチームとしての戦いぶりが気になる一方、ではその中で注目すべき選手は誰か――番記者が独自の観点で必見プレーヤーをピックアップし、その魅力を伝える。今回は鹿島アントラーズのGKクォン・スンテを紹介する。
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昨年10月頃、鹿島がGK獲得に動いているとの情報が舞い込んできた。情報筋によると、クォン・スンテが退団、引退する可能性があることを受けてのアクションで、鹿島は日本代表経験者ら実績あるGKをリストアップしているという内容だった。
37歳となった元韓国代表GKはその時点でリーグ戦出場なし。ベンチ外になることも珍しくなく、年齢や状況を考えても不自然に感じることはなかった。そして、彼の帰還を待っている人たちが母国に大勢いた。
だが、その情報は前進することはなかった。スンテはシーズン残り5節となった11月3日の広島戦で初先発し、4-1の勝利に貢献。残り4試合もスターティングリストに名を連ね、4試合連続無失点でシーズンを終えた。
ACL出場権獲得を目指していたチームにとっては絶対に勝たなければいけないラスト5。目標はかなわなかったが、スンテはしっかりと役割を果たした。
コロナ禍で練習が非公開となり、練習姿勢を把握できているわけではないが、準備を続けてきたことはプレーを見れば明らかだった。32歳で安住の地を離れ、日本にチャレンジした。年功序列が濃く残る韓国。鹿島では自ら歩み寄って、若手によく話しかけていた。
また、GKがビルドアップに参加することが当たり前の時代にあって、得意には映らないプレーに適応しようとする。そして来日5年目はベンチ外の屈辱を味わいながらも、戦線に戻ってきた。多くの教訓が詰まっており、彼を見ているといちいち心が動かされる。
「(全北では)鹿島でいう小笠原満男のような存在だった。昨年はサブに回ることが多くなったが、練習の姿勢を見ていると本当に素晴らしかった。ここまでやれるのはサッカー選手としてではなく、人としても素晴らしいと感じた。(契約担当として、スンテに限らず選手の)試合に出られない時の姿勢を見ていて、そこでダラダラやっていたら残っていなかったと思う」(鹿島で強化責任者を務める吉岡宗重フットボールダイレクター)
今季開幕のG大阪戦。数的優位に立っても、チームメイトを叱咤するスンテの姿があった。もしかしたら、いなかったかもしれない彼が、ここにいる。背景を知ると、見る目にも自然と熱がこもる。
取材・文●内田知宏(報知新聞社)
◆【番記者“激薦”|鹿島】ベンチ外の屈辱も定位置奪還。背景を知ると、クォン・スンテを見る目にも熱がこもる(サッカーダイジェスト)