9月のゲーム形式の練習中、ポポビッチ監督がある選手にトラップの仕方を身ぶり手ぶりで注意したことがあった。その選手は監督と目も合わさず、聞いているか聞いていないか分からないような態度を見せていた。その光景からも、求心力が失われていることは明白だった。リーグ戦で4位にもかかわらず、解任に踏み切ったのは、選手との「心の距離」が離れすぎたことが大きな要因だと言ってもいい。ポポビッチ監督も約8カ月と短命に終わった。
全文はこちらから
◆【鹿島】5年で5人の監督交代、定まらないサッカースタイル…鹿島は一体、どこへ行く(ニッカン)
鹿島アントラーズが、今季就任したランコ・ポポビッチ監督を電撃解任した。
昨季は岩政大樹監督が5位でフィニッシュしたが続投せず。ポポビッチ監督も4位だったがシーズン途中で解任された。
ポポビッチ監督は、細かい戦術を落とし込むというよりモチベータータイプ。練習場で「ブラボー」の言葉がよく飛び交っていた。シーズン序盤は、FWの知念慶をボランチにコンバートするなど、ポポビッチ流采配で結果を出してきたが、選手を固定して起用することで、夏場から急失速。分かりやすい戦術的解決策を選手に提示することはなく、出場機会が少ない選手からは不満も芽生えていった。
9月のゲーム形式の練習中、ポポビッチ監督がある選手にトラップの仕方を身ぶり手ぶりで注意したことがあった。その選手は監督と目も合わさず、聞いているか聞いていないか分からないような態度を見せていた。その光景からも、求心力が失われていることは明白だった。リーグ戦で4位にもかかわらず、解任に踏み切ったのは、選手との「心の距離」が離れすぎたことが大きな要因だと言ってもいい。ポポビッチ監督も約8カ月と短命に終わった。
かつての鹿島は、堅守とロングボールを起点にしたカウンター、セットプレーの強さを武器に20冠のタイトルを獲得。「常勝軍団」と称されてきた。明確な戦い方からどの選手が出ても同じ戦いができる「だれが出ても鹿島」、流れが悪くてもセットプレーの1発で得点し粘り強い守備で逃げ切るスタイルは「鹿島る」。サポーターからこのような呼称も生まれた。この戦い方は、対戦相手にしたら最も怖く、厄介なものだと言っていい。
だが、他クラブが現代サッカーで結果を残す中、鹿島もサッカースタイルの「リフォームではなく建て替え」を目指し、20年にザーゴ氏を招聘(しょうへい)した。当時のJリーグは川崎フロンターレや横浜F・マリノスが圧倒的なボール保持率で超攻撃的なサッカーでタイトルを独占。現代サッカーを取り入れようとする鹿島の挑戦でもあった。
しかし、である。ポゼッションサッカーへかじを切るならば、「止める・蹴る」の技術、くさびを受けて前を向く技術、スペースを認識するサッカーIQ、スピードとフィードが武器のセンターバック、ゴール前で高確率で仕留めきるFWの存在は欠かせない。
ザーゴ氏が就任した際も、ポゼッションサッカーに適した選手がそろっていたとは言い難かった。ザーゴ氏は成績不振と戦術のブレから、21年4月に1年4カ月で解任された。相馬直樹監督が後を継ぐも残りシーズンを受け継ぎ契約満了となった。
22年はクラブ初の欧州出身のレネ・バイラー監督が指揮を執ったが、こちらも、チームマネジメントを理由に夏に解任された。22年夏から23年は岩政大樹監督が指揮。「ポゼッション」と「カウンター」の双方を引き出しをチームに落とし込もうとしたが、結果が伴わず23年を持って退任した。そして、今季就任したポポビッチ監督も10カ月の短命だった。
5年間で5人の監督が入れ替わった。「建て替え」を目指すものの。更地に柱を数本刺しては、再び更地に戻す作業が続く。サッカー関係者からは「ザーゴ監督やバイラー監督を、もっと長く見ても良かったのではないか」と同情の声が上がるほどだ。
かつての鹿島は、高卒や大卒の選手が、あこがれるクラブで、「ドラフト1位級」の選手を獲得できていた。だが、今は高卒から直接海外に行く選手も増え、鹿島が他クラブとの競合を制して獲得する選手が少なくなったのも事実だ。さらに、加入しても頭角を現したらすぐに海外に移籍するサイクルが一層、速まっている。選手をそろえるのも大変だ。
ポゼッションサッカーを取り入れるなら、ユースも含めその戦術に合う選手をそろえ、練習から選手の技術を向上させることが不可欠だ。1年で結果を出せるほど甘いものではない。
サッカーのサイクルは回る。今季はポゼッションスタイルの川崎F、横浜が今季は低迷。かつての鹿島と似たスタイルを貫く町田ゼルビアが首位争いに食い込んでいる。ここ数年の鹿島を見ていると、「うまくてキレイなサッカーをしよう」とするあまり、かつての「他クラブが嫌がる強さ」がなくなってしまっている感じが否めない。
強化部は、吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)が退任し、鹿島のレジェンド、中田浩二氏が強化の最高責任者を担うことが確実だ。新体制で、どんなサッカースタイルを目指すのか? 「優勝」にこだわるあまり、短期間で監督を取っ換え引っ換えしていれば、また、更地に戻るのは目に見えている。この5年を空白にしないためにも、次こそは…と願わざるを得ない。鹿島よ、どこへ行く-。【岩田千代巳】