日刊鹿島アントラーズニュース

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2020年9月1日火曜日

◆なぜ鹿島はアパレルブランド『F.D.』を立ち上げたのか? ロゴに秘められた常勝軍団の“夢”とは(REALSPORTS)






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8月11日、シンプルなブランドロゴを基調とした新しいアパレルブランド『F.D.』が誕生した。このアパレルを立ち上げたのはJリーグ最多のタイトル数を誇る強豪クラブ・鹿島アントラーズである。鹿島はなぜアパレル事業という一見スポーツと結びつかない異業種への進出を決めたのか? その背景には、クラブとしての変わらぬビジョンと、メルカリ体制になったことでの相乗効果が加わった意外な理由が見えてきた。


(インタビュー・構成・写真=宇都宮徹壱)


鹿島の新アパレルブランド『F.D.』とは何か 


鹿島アントラーズの新アパレルブランド『F.D.』がリリースされたのは、8月11日の午前10時であった。さっそく、鹿島の小泉文明社長が『F.D.』のTシャツを着た姿を撮影してツイッターにアップ。すると《僕はこのシンプルな感じ好きです!》とか《鹿島のスローガンや意思がいろんな形になっていくのはとてもうれしい》とか《ベビー・キッズ用もあればうれしいです!》といったファンのコメントが続々と寄せられた。

それにしても、実にユニークな試みである。一言でいえば「まったくアントラーズらしくない」、あるいは「サッカーサッカーしてない」。商品はTシャツ各種の他に、ボタンダウンシャツ、トートバック、そしてシャワーサンダル。ホワイトがベースで、Tシャツにはグレーやブラックもある。モノトーンで世界観が統一されていて、鹿島のクラブカラーである赤は皆無。思い切った判断である。

デザインについても、実に意表を突くものであった。鹿の角をあしらったエンブレムや鋭角なコーポレートロゴは一切使用していない。代わりに前面に押し出したのが、四角い枠に囲われた「F.D.」の文字。そのフォントもまた、フラットなFutura(フーツラ)が使用されている。ちなみに「F.D.」とは鹿島が提唱する「Football Dream」の略。2つのドットはボール、四角い枠はピッチの縦横の比率に合わせてある。フットボールらしさを(かろうじて)表現している要素は、これだけだ。

「(反響については)当初の予想から、大きく上回ることも下回ることもなかったですね。われわれの期待値は高いところにありますが、まずは良いスタートを切れたのではないかと思っています。特に女性からの反響や支持が多かったのはうれしかったですね。鹿島アントラーズの新しいチャレンジに、共感していただいている方がいらっしゃることは、SNSでの反応からも見て取ることができます」

そう語るのは、鹿島のマーケティンググループ コンシューマーチーム・マネージャー、春日洋平氏である。その言葉どおり『F.D.』の反響は上々、トートバッグは早々に売り切れてしまった。果たして鹿島はなぜ、クラブカラーやエンブレムやロゴを排した、新しいアパレルブランドを立ち上げたのか。そして『F.D.』の登場はなぜ、これほどの支持を集めたのか。立ち上げに関わった関係者の言葉から、探ってみることにしたい。


きっかけは社内限定で作ったパーカー


周知のとおり鹿島は昨年7月、日本製鉄からメルカリに株式譲渡。新社長にはメルカリの小泉氏が就任した(同社の会長も兼任)。Jリーグ最多のタイトル数を誇る強豪クラブと、躍進著しいIT企業との邂逅(かいこう)。その興味深い化学変化は、ピッチ外でもさまざまな場面で見られた。コロナ禍による中断期間中、投げ銭(ギフティング)や1億円超のクラウドファンディングなど、さまざまな話題を提供していたのもメルカリ体制後の鹿島である。

そんな彼らの次なる一手は何か? 今後も新たなリリースがあると聞いていたので、楽しみにしていたのだが、新アパレルブランド設立というのは予想外だった。果たして、このアイデアはどこから生まれたのか。そこには、意外な伏線があった。実は中断期間中の3月18日、小泉社長は《アントラーズとメルカリがコラボしたジップアップのパーカー作ってみたよ(^^)》という写真入りのツイートをしている。以下、春日氏の証言。

「メルカリには、成功を目的としたチームボンディング(結束)を高めるために、社内の非売品を作る文化があったんですね。それで小泉から、アントラーズとメルカリが結束するためのチームウェアを作りたいということで、あのパーカーが生まれました。企画そのものは去年からスタートしていたんですけど、コロナ禍の影響で海外から完成品が届くのが遅れて、あのタイミングになってしまいました」

完成したパーカーは、ユニフォームのパンツと同じネイビーブルーが基調。胸の右側にメルカリ、左側にアントラーズのコーポレートロゴ、そして左袖にクラブエンブレムが配されている。そしてフード部分には「Football Dream」の文字。確かにロゴやエンブレム、そしてユニフォームを意識したカラーリングが施されているが、のちの『F.D』を彷彿とさせる要素も少なくない。これが、新しいアパレルブランド設立につながったと春日氏。

「小泉のツイートを見て、多くのファンから『これ売ってください!』という反応がありました。それが一つのきっかけではありましたが、もちろんそれだけで事業の方向性を固めるのは危険です。そこで、5月9日の『鹿トーク!』というオンラインファンイベントを通じて、ファンへのアンケートを実施したんですね。その結果、このような普段づかいができるアパレルにも、大きな需要があるんだという結論を得るに至りました」


クラブカラーとエンブレムを排した理由


ここで重要なキーワードが出てきた。「普段づかい」である。どんなに熱狂的なサポーターであっても、レプリカユニフォームを着て出社することはなかなかない。あるいは、ちょっとお洒落な店で会食する時、クラブエンブレムが大きく配されたバッグを持参するのは、やはり抵抗があるだろう。どんなにそのクラブを愛していても、である。コンシューマーチームのリーダーで、長年にわたりグッズ開発に取り組んできた根本謙司氏は、こう指摘する。

「アントラーズの赤は、特に男性ですと日常生活で身につけるのが難しい色ですよね。その一方で、サッカー関連のグッズというのはどうしても男性が中心で、女性には手に取りづらいという課題もありました。『普段づかい』を意識したグッズが、これまでなかったわけではありません。タオルとか、バッグとか、あるいは食器とか。でも、アパレルにまでは手が回っていなかったのが実際のところでした」

もう一つ、クラブが課題感を抱いていたのが、コアファン以外のタッチポイントの少なさ。クラブグッズのオンライン販売としては、Jリーグ公式オンラインストア(JOS)があるが、今回の『F.D』に関してはBASE(ベイス)というECプラットフォームで展開している。その理由については、春日氏に語ってもらおう。

「JOSでお買い物をしていただく場合、まずJリーグIDに登録する必要があります。日常的にスタジアム観戦するお客様なら問題ありませんが、世の中の皆さんがそうではありませんし、いい商品をローンチしてもJOSが生活圏になければ接点などあり得ません。それともう一つ、JOSはJリーグのプラットフォームですので、われわれが自由にページデザインなどの仕様をカスタマイズすることが難しい。そういった事情もあり、BASEで展開することにしました」

ファンへのリサーチで「普段づかいに需要がある」ことが判明してから、BASEで商品を販売するまで、およそ3カ月。責任企業がメルカリになってから「組織の意思決定が速くなった」という話はあちこちで耳にする。だが今回のプロジェクトについては、新しいアパレルブランドを「なぜ立ち上げるのか」「どう展開していくのか」といったコンセプト作りに1カ月を費やした。ロゴデザインや素材の決定にも、気の遠くなるような試行錯誤を繰り返したという。そして8月11日、満を持してのローンチとなった。


「Football Dream」に込められた思い


鹿島からのプレスリリースによれば、商品のターゲットは「20~40歳の男女」で「サッカーに関係なくファッションに興味がある方」。価格帯は「1430円~6600円(税込み)」となっている。実際、購買する年齢層は「特に30代が多い」そうで、居住地については「茨城県と東京都で半数以上を占めている」とのこと。こうした結果も、ほぼ想定内と見てよいだろう。グッズ開発で「普段づかい」に課題を感じていた根本氏は語る。

「白・黒・グレーというのは、確かに普段づかいがしやすい色ですが、クラブのアパレルとして考えると『なんで(赤じゃないの)?』という疑問も出てくると思います。需要はある一方で、バランスもしっかり考慮しなければならない。それとウチの場合、ナイキさんやニューヨーカーさんがパートナーなのですが、これらのブランドと『F.D.』とではターゲット層や価格帯も異なります。パートナー企業とのコラボアイテムやフットボール軸のクラブアパレルにも同じ熱意で向き合いながら、やはり『F.D.』は普段づかいを意識したアイテムを提供していきたいですね」

発売後、「なぜ赤ではない?」とか「エンブレムを使うべき!」といったコアサポーターからの強い反発は、ほとんど届いていないとのこと。これまでクラブが積み重ねてきたアイデンティティをあえて排するという決断は、幸いある程度のコンセンサスを得られているようだ。ならば『F.D.』というブランド名については、どれだけの購入者に理解されているのだろうか。クラブにとっての「Football Dream」について、春日氏はこのように定義づけている。

「アントラーズができたばかりの頃は『地域と共に同じ夢を見る』というものでした。でも今は『アントラーズがあるライフスタイルをどれだけ広く浸透させられるか』だと思っています。アントラーズ、あるいはフットボールが生活の一部にある状況。それが浸透していけば、チケットもグッズも売れるし、試合を見てもらえる機会も増えます。それぞれ単体で売るだけでは、決して実現できないライフスタイル。それを実現するための表現方法のひとつが『F.D.』であると考えます」

過去のタイトル数に甘んじることなく、どのクラブも思いつかないような発想を軽やかに具現化する。それが、ピッチ内にとどまらない、鹿島アントラーズの「強さ」である。そこに、パーカーやTシャツを社長が自ら着て、その写真をSNSにアップするカジュアルさが加わった。以前のインタビューで「大学時代、裏原宿の気に入った服を買い集めて、ネットで売っていたんです」と語っていた小泉社長。この原体験がメルカリのビジネスに、さらには新アパレルブランド設立につながったと考えれば、実に興味深いストーリーである。

<了>


◆なぜ鹿島はアパレルブランド『F.D.』を立ち上げたのか? ロゴに秘められた常勝軍団の“夢”とは(REALSPORTS)


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