固定観念にNOを突きつける
J1第28節]鹿島2-2浦和/9月3日/県立カシマサッカースタジアム
新監督の色が随所に見え始めた。
シーズン途中という難しい局面ながら、鹿島の指揮官にコーチから内部昇格した岩政大樹監督が追求するサッカーは、クラブの伝統にとらわれない新たなスタイルだ。
むしろ、あえて壊していこうとしているのではないか。Jクラブ最多となる20冠という輝かしい功績を残してきた、これまでの方法論や成功体験に敬意を表しつつも、固定観念にNOを突きつけているようにさえ見える。
「アップデート、バージョンアップ」
岩政監督は、常々、こう繰り返し、未来に向けた新たなチャレンジを選手たちに推奨し、自らにも課している。
チームの基盤となるシステムがそもそも異なるのだ。
鹿島といえば、伝統的に4-4-2がベースだ。古い話になるが、ゼ・マリオ元監督が指揮を執っていた1999年当時、3バックで戦ったことがあるが、機能していたとは言い難く、すぐに4バックに戻した。
トニーニョ・セレーゾ元監督が最初に就任した2000年当時、今では当たり前のように浸透している4-3-3に挑戦したものの、時期尚早だったのか、しっくりせず、早々に断念した。
30年にわたる鹿島のクラブ史のなかで、変わっていくもの、変わらないものを、時代に合わせ整理しながら進んできたが、「4バック+ダブルボランチ+2サイドハーフ+2トップ」は不変であり、それが鹿島らしさの象徴でもあった。
だが、変化を恐れない岩政監督に逡巡はない。
レネ・ヴァイラー前監督が不在中のシーズン開幕当初、監督代行を務めていたときこそクラブ伝統の4-4-2で戦ったが、監督就任後の27節の川崎戦では中盤をダイヤモンド型にした4-4-2、28節の浦和戦では1トップ+2シャドーの4-3-3(もしくは4-3-2-1)でスタートしている。
川崎戦と浦和戦のスタメンを見比べると、GK以外、フィールドプレーヤー10人は同じだった。だが、立ち位置が違った。
選手たちに戸惑いはないだろうか
川崎戦では、仲間隼斗をトップ下に置き、鈴木優磨とアルトゥール・カイキを前線に並べ、右SBが安西幸輝、左SBが広瀬陸斗と、2人の本来のポジションを入れ替えた。
浦和戦では、鈴木を1トップに置き、その後ろにA・カイキと仲間を並べた。両SBは本来の左・安西、右・広瀬の形で起用した。
1節ごとに選手の立ち位置を変えることに何らためらいはなく、さらに付け加えれば、試合中にもどんどんシステムやポジションを変化させるのが岩政監督流だ。“変幻自在の追求”は“イワマサ・スタイル”の根幹をなすと言っていいかもしれない。
「1週間のトレーニングのなかで、選手たちに同じ絵を見せられるよう、準備している」(岩政監督)とは言うものの、選手たちに戸惑いはないだろうか。
浦和戦で2ゴールを叩き込んだA・カイキが言う。
「試合ごとにポジションが変わって頭が疲れるかって? いや、そんなことないよ! 僕らのプレーの特徴や個性を生かそうと、監督がいろいろ考えて、戦い方を提示してくれるし、トレーニングは嘘をつかない。日々、積み重ねてきたものを試合のなかで、表現するだけだよ」
次に、いかなる手を繰り出すのか。試合中、どう変化させていくのか。岩政監督は一体何を考えているのか、フタを開けてみないと分からない面白さがある。
ただ、対する相手監督にとってそれは無言のプレッシャーになり得るかもしれない。もしかしたら、策士の岩政監督はそこも織り込みずみで、考えているのかもしれない。
多少なりとも疑心暗鬼になってくれたら――。
次の試合に向けた駆け引きは、すでに始まっている。
取材・文●小室功(オフィス・プリマベーラ)
◆岩政監督は一体何を考えているのか。新スタイル構築中の鹿島は、フタを開けてみないと分からない面白さがある(サッカーダイジェスト)